一章19.「冒険者ギルド」
「おい、兄ちゃんの方。大丈夫か?俺達にビビって固まっちまったか?」
「きっと、そうっすよ!俺たちにビビってるんすよ!」
事実、イツキは固まってしまっていた。勿論、初めて見る獣人に驚いたというのもあるが、何よりこんな子供二人にカツアゲをされている現状に唖然としているからだ。
「すみません!!!!」
するとそこへ、もう一人の獣人がその二人の獣人の頭を押さえつけるように土下座して現れた。
「本当にうちのバカ二人が失礼いたしました!私ニャらどうなっても構いません。どうかこの二人だけはお許しください!どうか!」
なんだ、なんだ?急展開すぎるだろ…。そこまで大げさな事態でもないだろうに。まぁでも、カツアゲ事態いいことではないし、こんなものなのか…?
「いえ、子供のすることですので。実際まだ何もされてないですし、大丈夫ですよ。」
「!!!恩に着ます!本当にありがとうございます。」
そこに現れた猫の獣人は、心底驚いた顔をしてお礼を言った。
「おい!ティム、やめろよ!人間なんかに頭下げてんじゃねえ!」
「うるさい!人様に迷惑をかけるニャとあれほど言ったでしょ?」
そう言って、彼女は、子供二人の頭を思い切り叩く。
「いってえ!何すんだよ!」
「痛いっす!大体、僕は兄貴があの人間にちょっかい出そうって言った時止めたっすよ?でも、兄貴が無理矢理…。」
「おい!レン!何裏切ってやがる!お前もノリノリだったろ!」
「とにかく!ゴンとレンもお礼を言いなさい!じゃニャいと、今日の晩飯抜きにするからね!」
「うるせえ!嫌だね!行こうぜレン!!」
「待ってっす、兄貴―!」
そのまま子供二人は、全力で走り去って行った。さすがは、獣人。子供でも凄まじいほどに速く、見えなくなるのもあっと言う間だ。
「あの、本当に申し訳ございませんでした。よければウチの宿に寄っていきませんか?お詫びもしたいですし、そちらのエルフさんもウチニャら安心だと思います!」
何か引っかかる言い方だな。他の宿だと何か不安な要素があるのか?まぁ、とりあえず僕たちは、冒険者ギルドに行きたいし宿は後からでもいい。丁重にお断りしておこう。
「すみません。ありがたいお話ですが、今急いでいるので、機会があれば伺いますね。」
「そうですか…。一応、ウチは『虎猫亭』というところです!ニャにか困ったら寄ってみてください!では、失礼しますね!」
猫の獣人は、そう少し落ち込んだ顔をした後、すぐに笑顔になり、あの子供たちを追うように戻って行った。
「イツキ…。今、ギルドまでの道教えてもらえばよかったのに…。」
「あ…。」
唐突な出来事に呆気を取られてしまい、うっかりしていた。確かに今聞いておくべきだった。
「もう!私に任せておいて!あのお城の方に向かえばいいんだよね?」
「あ、あぁ。」
これは、きっとエメラダも方向音痴なパターンだ。完全にフラグも立てたし…。
――「着いた!」
「え…?」
まさか本当についてしまうとは。もうエメラダのことをおっちょこちょいとバカにできない…。でも助かった。二人とも方向音痴とかそんな最悪なパーティー聞いたことが無い。何はともあれ、ここが冒険者ギルド。
お城の前の中央通りに鎮座するとても大きい建物。たくさんの人が行き来し、裏路地とは異なる賑わい様である。
「とりあえず、入ってみる?」
「う、うん。なんだか緊張するね…。」
そして、二人はギルドの中へと足を踏み入れた。
☆
「おい、あれ噂のハーフエルフじゃないか?」
「皆、一応警戒しておけ。」
そんな声がちらほら聞こえてくる。まだ、エメラダのことを完全に信用している奴はいないらしい。こんな声をエメラダに聞かせてしまうのは本当に嫌だが、ここで僕が暴れては本末転倒だ。それにしても、っぽい内装だな。正にギルドって感じだ。
受付にいる何人かの綺麗なお姉さんも仕事を張ってある掲示板も酒場で飲んだくれている冒険者も。ただ、なんだろう何かが足りないような…。
「いらっしゃい。あなたたちは、仕事を依頼しに来た人?それとも、依頼を受けに来た人?」
冷淡な喋り口調で話しかけてきたのは、受付嬢の一人の白い髪をした人だ。
「えっと、その、どちらでもなくて、僕たち冒険者になりたくて…。」
そう僕が言うと、周りの聞き耳を立てていた奴らがドッと笑い出した。その中の一人の大柄な男がおもむろに立ち上がり、こちらを睨みつけてきて言った。
「おいおい、お前らが冒険者?笑わせんなよ。人を助ける仕事だぞ?黒髪風情が調子乗ってんじゃねえ。」
何故その、助けるべき人の中に僕らが入っていないのだ。調子に乗った覚えもない。一体僕らが何をしたというのだ。周りの見ているだけの奴らも頷きやがって、このギルドにまともな奴はいないのか。冒険者カードさえ手に入れたらさっさとここを出よう。気分が悪い。
「ちょっと、待ってくれ。デク落ち着き給え。リル、ここは僕が引き受けてもいいかな?」
「っち。」
「は、はい!勇者様!」
こいつは…。アピセ村に居た勇者?それにしてもこいつ、勇者が現れてから周りの女性たちの目がハートマークになっているような…。あんなに冷淡に思えた受付嬢まで…。
「やぁ、君たち、久しぶりだね。あれから、大丈夫だったかい?君とはまた会えそうな気がしていたんだ。今から時間はあるかい?街を案内しながら、冒険者になるための説明でもしようと思うのだけれど。」
とりあえずは、この街に腰を下ろす予定だし、一石二鳥の提案だ。以前に救ってもらった仲でもあるから心配も少ない。何より、こいつは勇者だ。街の中を一緒に歩けば、エメラダへの偏見も少しは良くなるかもしれない。
「はい。是非お願いします。」
イツキは、とびきりの作り笑いで勇者の提案に乗った。