一章18.「迷い込んだ先に」
「イツキ見て!!!あれが王都だよ!すっごく大きいね!」
「う、うん。」
正直、驚いた。そこに広がるは、西洋風の町々。とんがった屋根が特徴の建物がずらりと並んでいる。正に異世界の世界観だ。エメラダに言われた通り、わざわざ王都の見える丘に登ったのも頷ける絶景。
「私たち今からあそこに入るんだよね?大丈夫かな…。」
確かにアピセ村では緊急時だったから、入ること自体は、問題がなかった。だが、今回は関所が待ち構えている。ハーフエルフであるエメラダもそうだが、身分を明かせない僕もそこを通れるか分からない。そのことをエメラダが不安がるのも無理はない。それでもここまで来た。今更引き返すわけにはいかない。
「大丈夫だよ。行こう。」
イツキは、まるで自分に言い聞かせるように力強く応えた。
――ざわざわ。
「なんで噂のハーフエルフがこんなところにいるんだよ。」
「本当に精霊を操れるのか?」
二人が検問の列に並ぶと周りからぼそぼそとこちらの様子を窺っている奴らがちらほらと出てきた。それでも、明らかにハーフエルフに対する皆の態度は以前よりマシになっているように感じる。
「お前は入れられない。では、次の者。身分証明できるものを見せよ。」
「なんでだよ。おいら慌てて魔物から逃げ出してしまって、馬車に積んでた荷物全部置いてきてしまっただよ。信じておくれよ。」
「うるさい!!!」
イツキ達の二つ前に検問を受けた小さき商人?を名乗る人物が兵士に蹴られて吹き飛ぶ。
「なっ。」
「大丈夫ですか???」
他の通行人は見て見ぬ振り、イツキもあまりに唐突な出来事に棒立ち。そして、すかさずエメラダだけがその小人に声をかける。
「大丈夫だよ。いつものことだ。それにしてもお前さんがハーフエルフか。噂に聞いた通り優しいんだな。でも、オイラに関わらない方がいいだよ。」
「そんな!怪我もしてるのに…。」
「本当に大丈夫だから。放っておいておくれ。」
「で、でも…。」
そんな二人のやり取りを、周りの人は冷たい目で見ている。イツキはその異様な光景に疑問を抱いた。
明らかにひどいのは、兵士の方なのに、あたかもこの小人の商人が可笑しいみたいな目。それになんだろう、この違和感。
「ありがとな、でも本当に大丈夫だから気にするな。」
そう言って、そのまま小人は走り去っていき、何事もなかったかのようにイツキ達の検問の順番が来た。
「では、次の者。身分を証明…!!!!するものを見せよ…。」
エメラダの顔を見るや否や、明らかに怯えた顔をする兵士。
「えっと、その私たち身分を証明するものが無くて、それでこの街で冒険者カードを発行してもらいたくて、さっきの人も駄目だったから…駄目ですよね?」
「い、いえ。わかりました。どうぞお通りください。」
「「えっ?」」
どういうことだ。さっきの奴は、身分を証明する物が無かったから入れなかったんじゃないのか?彼と僕たちを比べたら明らかに僕たちの方が怪しいだろうに。
「で、では、次の者――」
そうしてイツキたちは、そのまま流されるように王都の中に入った。
☆
「うわぁ、すごいね!なんだか別の世界に来たみたい!」
僕からしたら正に異世界なのだけれど、それにしても本当にすごい。待ちゆく人々の髪はカラフルで街に溶け込んでいる。僕の元居た世界で、こんな色に染めていたら、とても目立つというのに…。むしろ、黒髪の僕たちの方が浮いているじゃないか。
「ねぇイツキ。これからどうする?無事に街には入れたけど、いきなり冒険者ギルドに行ってみる?」
「あぁ、そうだね。まず、生計を立てて行かないといけないし、身分証明できるものも早めに持っておきたいし。」
「そうだね!じゃあ、そうしよう!で…冒険者ギルドってどこにあるの…?」
「…。僕が知っているわけないだろう。」
「あ…。」
あぁ、なんて残念。おっちょこちょいにも程があるだろう。これが現代の女子高生なら「何あのぶりっ子」と陰で叩かれているだろう。それぐらいに可愛いからこそではあるが。大体、陰でそう叩くということは、少なからず嫉妬の念を抱いているということに他ならない訳で…。まぁ、そんなことはどうでもいいか。
「とりあえず、情報収集も兼ねて中央の方に向かって歩こうか。」
「うん。わかった!」
――「ねぇ、イツキ。ここは、どこ?」
「え、えっと…。恐らく、中央の方…かな?」
「明らかにそんな雰囲気の場所じゃないけど?」
二人が歩いた先にあったのは、多くの人が賑わっているであろう中央広場とは、真反対のどこか薄暗く人影もほとんどない裏路地という言葉がぴったりな場所。
おかしいな。真ん中に聳え立つ大きな城に向かって歩いたはずなのにどうしてこんな場所に…。
「イツキって、もしかして…方向音痴さんなの?」
どうやらそのようだ。自分でも初めて知った。あまり外で買い物とかしないから気付く場面に出くわさなかっただけで…。
これじゃ、エメラダのことバカにできないな…。
そう嘆いた瞬間、背後から何者かに声をかけられた。
「おい、お前たち。見ない顔だな。人間がこの裏路地にいるなんて珍しいな。まぁ、いいや。お前ら有り金全部置いていけ。俺様達が有意義に使ってやるからよ。」
「そうっす。決して、無駄には使わないっすから。置いていくといいっす。」
そこに立っていたのは、二匹…二人?の獣人だった。