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人間嫌いだから異世界で人間辞めることになりました  作者: 夢見人
第一章「王都ユーティス」
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一章17.「本来の目的地へ」

「お姉ちゃ!次はこの本読んで!」


「いいわよ!えっとね…」


 イツキとエメラダは、あの騒動の後、野菜売りのお婆ちゃんのご厚意でその家にお世話になっていた。一応怪我は完治したものの、一度ゆっくりするべきと判断したためだ。


「おやおや、すっかり懐いてしまったようだね。」


「そうですね…。」


 そのお婆ちゃんの孫にあたるチイは両親がともに冒険者だったらしく、二人とも冒険に出たまま帰って来ていないらしい。お婆ちゃん曰くもう亡くなっているとのことだ。そのことをチイは、まだそのことを知らず、未だに待ち続けているらしいが。だからなのか、母親というものを知らないチイは豪くエメラダに懐いていた。

 エメラダの方も初めて子供に懐かれ、なんだかまんざらでもない様な表情をしている。


「それにしても、お前さん達はこれからどうするのじゃ?」


「僕らは、まず街に向かおうかなと…。冒険者になって、たくさんの依頼をこなして周りに認めてもらうんです。ハーフエルフは…エメラダは、普通の人間だって。」


 元々は、違う方法でエメラダを認めさせる気でいた。そう簡単にいく問題じゃないことは分かっていたから。でも、この村での奇跡を見て、もう一度考え直した。たった一人でも変わってくれるのなら、そこから広がる可能性に賭けてもいいのかもしれないと思ったから。


「ほっほっほ。なるほどのう。お主は、嬢ちゃんに気があるのじゃな。」


「なっ!」


 イツキの顔から蒸気が昇る。


 まさか、バレる要素が今のどこに?と今までまともなコミュニケーションを取ってこなかったイツキは、その疑問に悶々としつつその赤く染まった顔を隠した。


「まぁ、気が休まるまで家に好きなだけ居るといい。むしろ、ここを本当の家だと思ってくれてもいいのじゃよ?」


「あ、ありがとうございます。でもそろそろ、村の復旧も終わりそうですし。」


 この街に残っていた理由は、実はもう一つあった。それは、エメラダが村の復旧が終わるまでまた魔物が襲ってきても大丈夫なように守りたいと言ったからだ。元々村の周りには、魔除けの石の灯篭が設置してあり、絶対に魔物は近づけない造りだった。だが、その灯篭が何故か破壊されていたため、今回のような事件が起きてしまったのだ。それも昨日、街から商人を呼び、魔除けの石を再び設置したことによって解決した。


「うむ。でも、また近くを通ったら、寄ってくれ。村総出で盛大にお祝いさせてほしい。いっそ、()()()にでもするかの。」


「いや、そんな…。」


 ご厚意としてはとてもありがたい。実際、僕はこの二人のことを嫌いではないし、むしろ感謝してもしきれない。きっと、二人がいなかったら今回のような奇跡は起きなかっただろう。だが、他の村人、特にあの神父は別だ。エメラダは、初めてこんなにも多くの人間と関われることを喜んでいるが、僕は許す気にもなれない。そんな奴らとのお祭り騒ぎなんて…


「えぇーーー!お祭り??チイもしたい!!!」


「お祭り?お祭りをやるの??」


 お婆ちゃんとイツキの会話に突如参加した少女二人の目は、宝石の様にキラキラ輝いている。


 これは…。諦めるしかない…だろうな…。僕は、どうもこの顔に弱いらしい。


「そう…ですね。じゃあ、お言葉に甘えて、次、村に寄る時は是非。」


「そうか。そうか。よかったのう、チイ。楽しみじゃなぁ。」


 こいつ…。敢えて、お祝いすること大声で言ったのか。


 してやったりと言わんばかりのお婆ちゃんの顔を見て、ようやくその思惑に気付いたイツキは、策略にまんまと乗ってしまったことに激しく後悔した。つくづく、この婆ちゃんがただ物ではないことを実感しながら。


 ――そして、その日の夜。


「じゃあ、そろそろ行こうか。」


「うん。じゃあ、お婆ちゃん。チイちゃんによろしくお伝えください。」


「あぁ、本当にありがとう。村の皆を代表して、今までの謝罪と感謝をさせておくれ。」


 そう言うとお婆ちゃんは、ゆっくり頭を下げ始めた。


「ちょ、ちょっと待ってお婆ちゃん。全然、大丈夫だから。むしろこっちがお礼を言わなきゃ。こんな、私を認めてくれてありがとう!」


 どこまでも謙虚で純白な黒髪のエルフをイツキと老婆はただ、静観することしかできなかった。その美しさたるやまるで天使のようで、言い伝えに聞く化け物とはまるで正反対のハーフエルフに見惚れてしまっているのだ。そんな二人の反応にエメラダはキョトンと首をかしげるとようやく我に返る老婆がお別れの挨拶を始める。


「そ、そうじゃな。今更、無粋じゃったな。すまない。では、また村の近くに寄った時は顔を出してくれ。チイも喜ぶじゃろう。」


「うん!またね!」


 イツキも頭を下げて、アピセ村にお別れを済ませ、二人は再び王都へと歩き出した。


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