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人間嫌いだから異世界で人間辞めることになりました  作者: 夢見人
第一章「王都ユーティス」
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一章11.「ハーフエルフ」

 目の前に現れたその男は、僕らに背を向ける形で神父と向かい合う。


「いや、しかし、勇者様。そのようなものは、放っておけば勝手に命尽きるでしょう。わざわざ勇者様のお手を煩わせる必要など…。」


「違う。私は、この者たちを救いたい。恐らく、一人は私の同郷だ。助けさせてくれ。」


「そんな!勇者様は、時人だから知らないのです。そこの黒髪のハーフエルフは不吉の象徴。生かしておく様なものではない!」


「このまま見殺しにする方が私には不吉に思える。彼女のせいでどんな厄災が訪れようと私が守り切って見せる。それでいいか?」


「…勇者様がそこまで仰るなら。」


 勇者?こいつが僕と同じ時人…。なにはともあれ、こいつのおかげでどうにか命は助かりそうだ。さすがは、勇者。物語の主人公になれるのは、こういうやつなのだろう。


「あ、ありがとうございます。」


「気にするな。早速だが、回復魔法をかけようと思うのだけれど、どちらから治せばいいかな?」


「僕は…後回しで大丈夫です。この子を早く治してください。お願いします…。」


 意識が朦朧としている中で自分の発言に自分で驚いた。こんなにも体の自由が利かないのに、寝てしまったら、そのまま起きられないのではないかという不安に押しつぶされそうなのに。それでも彼女を先に治してほしいと心底思ってしまっている自分に驚いた。


「そうか。了解した。」


 勇者は、イツキの返答に満足したように微笑んだあと、エメラダに回復魔法をかけると、エメラダの傷をあっと言う間に消し去った。それを見たイツキは、安堵したのかそのまま眠りについた。


 ☆


「ん…。」


 イツキは目覚めると、右手に何か柔らかい感触を感じた。


 何だろうこの懐かしい感じ。


 とその感触のする方に目をやる。するとそこには、何故か手を握ったままベッドにもたれかかるように寝ているエメラダがいた。

 生まれてこの方、女性と手を握ったのなんて小さい頃の母親ぐらいのイツキにとって、今のこの状態に顔を真っ赤に染めるのは当然のことだった。

 イツキの動揺に気付いたのか寝ていたエメラダが目を覚ます。


「ふぁ、れ?イツキ、起きたの?良かった!大丈夫?どこか悪いところはない?」


 起きるや否や、飛びつく勢いで心配するエメラダに更に顔が火照るイツキ。


「なんか顔赤いよ?本当に大丈夫?」


 それに気づいたエメラダがグッと顔を近づけてくる。


「だ、大丈夫だから!やめてよ!」


「ご、ごめんね?でも、心配で…。あの勇者さんに色々聞いたから…。」


 勇者?そうだ!そういえば、村で助けてもらって…。ん?でもここ、エメラダの家だよな…?


「あの後ね。私はすぐに目を覚ましたんだけど、イツキが全然目を覚まさなくてね。勇者さんが私たちをここまで送ってくれたの!」


 村からここまでって、普通に歩いたら三日は、かかるはずだ。ということは、僕は三日以上寝ていたのか?


「えっと、僕はどれくらい寝ていたの?」


「え?一日ぐらいだけど?」


 どういうことだ。あの村からここまで一日で辿り着くなんて、一日中イノシシの走る速さで走り続けてやっとだぞ?あの勇者も何かそんな能力を持っているということなのか…?さすがは勇者様だ。回復魔法以外にも何か使えるのか。正に主人公じゃないか。


「そっか…。その勇者はどこに?」


「もうアピセ村に帰ったよ!あ、そういえば、帰り際にイツキによろしくって言ってたよ!」


 なるほど。しっかり社交辞令も弁えているのか。あの容姿に勇者という肩書き。そして、礼儀も兼ね備えている。きっと、順風満帆な生活を謳歌しているのだろう。正直、羨ましい。僕だって、そういう人生を送れていたらこんなに捻くれた性格にならなかったかも…いや、それはただの言い訳か。


「そういえば、エメラダはもう傷は大丈夫なのか?」


「うん!綺麗さっぱり!」


「そもそもなんであんな場所に一人で行ってたんだ?」


 魔除けの石を持っていたとはいえ、やはり僕に何も言わずに外を出歩くなんてしない子の様な気がした。僕が来る前は一人で暮らしていたのだから、当たり前ではあるのかもしれないが、それでも書き置きなりは律儀にすると思う。


「それは…そのね…イツキ前にフルーツ食べたそうにしてたじゃない?だから、それを取って気まずい雰囲気をどうにかできればと思って…。」


「…。」


 そうか。そうだ。この子は、エメラダは、そういう子だ。僕の知っている人間達とは違う。純粋。純真。誰よりも綺麗な心。それを持っている。だから、僕はこの子に惹かれている。だからこそ、命がけで助ける意味がある。この子が不幸な世界なんてあっちゃいけない。だから、聞こう。この子を救うために、自分の二度目の人生を賭けてやる。


「エメ。エメは、ハーフエルフなのか?」


 その言葉にエメラダは硬直する。一番聞かれたくない相手からの一番聞きたくなかった台詞。だが、避けては通れぬ道。これが自分に課せられた罪だと知っていたから。


「うん。ハーフエルフは、この世界では不吉の象徴で…。だから私は、嫌われ者。私は何もしてないのに…。小さい頃から化け物扱いされてきたの。ごめんね。イツキもこんなのと一緒に居たくないよね…。」


 イツキは、なんとなく分かっていた。二人きりでいる時のエメラダと村にいた時のエメラダの差を見ていれば誰だって察せる。でも、それを本人の口から聞くのではその重みが違う。漠然としていたそれが現実味を帯びたのだ。


彼女にそんな試練を与えているこの世界を、彼女にひどい罵声を浴びせたであろう人間を僕は許さない。


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