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人間嫌いだから異世界で人間辞めることになりました  作者: 夢見人
第一章「王都ユーティス」
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プロローグ00.「始まりの風」

 ――こんな世界壊れてしまえばいいのに。


 そう思うようになったのはいつの頃からだろうか。

 周りの景色から途端に色が抜けていき、太陽の光さえ鬱陶しく感じるようになった。昔は何かの希望の光だと信じていたのに。


 そんなことを考えながら学校の立ち入り禁止であるはずの屋上の淵で風を浴びる。

 その薄暗い風で目にかかった重たい天然パーマの前髪がふわりと浮く。前髪から覗かせたその切れ長の瞳にはすべてが無色透明に映っていた。


 ――あぁ、人間とはなんと愚かで醜く残酷なのだろうか。


 誰もが偽善を装う。他者に優しい自分に酔う者。他者に優しくすることで自分の周りからの評価を上げる者。

 はたまた偽善すら装う気のない悪人。他者をいたぶることで快楽に酔う者。他者を自分よりも下に見下すことで優位に立とうとする者。


 ――そして、何かに縋り自分からは何もできない臆病者。


 この世にはそんな全人類に共通していることがある。それは、欲望に忠実なところだ。一番の有名どころで言えば、三大欲求だろう。食欲、睡眠欲、性欲だ。勿論、個人差はあるのだろうが、大体の人間はこの中のどれか一つぐらい思い当たる節はあるだろう。他にもたくさんの欲でこの世は溢れている。それを規制するのが法律であり国家なのだ。規制など何もない世の中だったならこの世界は疾うに滅亡寸前だろう。いやまず人間という種族がここまで繁栄することもなかったように思えるくらいだ。しかし、そんな規制があって未だ尚、人間は欲望に忠実だ。誰もが目の前に大金が落ちていたら心が揺らぐだろう。心が揺らいだ結果、交番に届けようと思ったとしてもそれは、こうする自分が偉いと評価を上げたいから。もしくは単に恐怖心からだ。これを拾うところを元の持ち主に見られていたらまずいという自己防衛だ。

つまり、結局の所は悩んだ時点で負けなのだ。ここで本当に正しい行動は見た瞬間によし交番に届けようと一切の迷いもなしに思うことだ。そんな人間は恐らくこの世にいないだろう。


 こんな欲望だらけの汚い世界でこのまま生きていても「僕」は幸せになれるのだろうか。


「もう、どうでもいいや。」


 そうつぶやいた瞬間に「僕」は宙を舞っていた。

 落ちる「僕」に抵抗するかのような凄まじい風を下から顔面に浴びる。


 このまま顔から落ちたら痛そうだな。と思ったよりも冷静な自分に驚きながら体を仰向けに切り替えいつ最期を迎えるかもわからない恐怖心を抱きながら落ちた。


 ――グシャ。


 骨が砕けた音が体中に響き渡る。


 こういうのってすぐ死ねるもんじゃないのか。

 体中が熱くそして鈍器であちこちを叩かれているような痛みが次々に襲ってくる。ドロドロと体の中から血が流れていく感覚がある。意識が飛びそうになるとその痛みで目が覚めての永遠ループだ。


「あああああぁっぁぁぁぁぁっぁ」


 苦しい。死ぬのがこんなにも辛いことだなんて聞いていない。習ってないこんなこと。こんなに辛いなんて知っていたら()()()のことだって我慢できたさ!死ぬよりもずっとマシじゃないか!心の中で神を呪うように叫ぶ。神なんてものが存在するのなら決して崇めるような存在でないと「僕」は知っているから。だから、最後に呪って死んでやるんだ。


 こんな世界滅んでしまえ。


「ほう。小僧。お主はまだ生きたいか?このくだらない世界を壊したいか?ならば我と契約しろ。」


 何だか胡散臭い声が頭の中に響いてくる。


「このまま死ぬか。はたまた我に縋り生を掴み取るか。選べ。」


 こっちが苦しくもがいているというのに自分勝手な声の主に腹が立つ。


「そのまま苦しむのも一つの選択だ。我はお主の言葉から聞きたいのだ。」


 そんなの決まっている。こんなにも辛いと知りながら死を待つなんてできるはずがない。


「――僕は、まだ、生きたい!」


「では契約成立だ。」


 声が聞こえなくなり、その後特に何の変化もなく、ただただ苦しい時間が経った。


 ――そうして「僕」、桐谷樹(きりたにいつき)は十七歳で命を落とした。

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