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杖師の憂鬱  作者: 梅紅茶
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来客と不安

魔法師が使う杖を作ることを生業とする一族のセレナ。力の強さゆえに体が弱い彼女だったが、ある日彼女のもとに、彼女がかつて作った杖からの助けを求める声が届く。その声にこたえるべく外の世界へと出て調査を開始するセレナ。

杖の求める助けは何なのか、その真実を探る中で迎えたある出会い。その出会いが彼女の人生に変化をもたらしていく。

 午前中はうとうとと夢うつつで過ごす。熱のせいもあって汗ばむ体をメルアに拭いてもらって、そしてまたうとうととする。仕事がなければセレナの生活は常にこのような感じだった。

 一人では何もできない。父親の妹でセレナにとっては叔母に当たるメルアが、自ら彼女の世話をかってでていて、今は二人で暮らしている。外に出るときも車椅子を使用しなくてはならない。

 まだ十八歳でこの体。いつまで生きられるのかは分からないと医師は口癖のように言う。



「セレナ様」

 開いている扉がノックされてメルアが入ってくる。ゆっくりと目を開けて、そして顔をそちらへと向ける。

 メルアの後ろ。見慣れた人物がいた。

「レイスが参りましたわ。……リィズ様もご一緒です」

「セレナ」

 部屋に入る二人。

 お茶を持ってきます、と言い残して部屋を出て行くメルア。

「久しぶりね、レイス」

 微笑んで言う。およそ一週間ぶりぐらいの再会。

 部屋に入ってセレナを見るなり目を見張るレイス。その後ろにいる女性も、その場でたちすくんでいた。

 そんな二人に首をかしげる。

「どうしたの?」

「また体、弱くなったんじゃないか?」

 今にも消えてしまいそうなセレナに思わずそう声をかけるレイス。そんな彼の言葉に苦笑する。

「『仕事』の後はこんなものだと思うけど」

 そこまで言って、ベッドの横で布に包まれて立てかけられている杖に視線を送る。

「それが今回の『杖』よ」

「ああ」

 頷いて、そっと杖を手に取る。

 不思議な重さの杖。そして杖をしばし眺めた後でセレナを見る。

「あの、さ」

「……」

 ちらりと後ろを振り返って、入り口のところにいる女性を手招きするレイス。そんなレイスの手招きを受けてやってくる女性。

 肩の辺りで揃えられているふわふわの髪。多少気の強そうな感じを受ける瞳。しかし誰の目に見てもかなりの美女であることは分かる。

「直接会うのは初めてだよな。・・・婚約者のリィズ。リィズ、彼女がセレナ。……俺たち一族の長で……『杖師』だよ」

「はじめまして、でしょうか?」

 にっこりと笑って言うセレナ。

「前に一度、一族のパーティでお会いしていますよね。途中で退出したから話すことはできませんでしたけど」

「あ、はい」

 セレナの言葉にはっと我に返り頷くリィズ。

「レイス、から話は聞いてます。確か従妹、ですよね?」

 レイスはメルアの一人息子。メルアは、セレナの父親の妹だから、二人の続柄は従兄妹であることに間違いはない。しかし、『杖師』としての力はレイスには受け継がれてはいなかった。そして、今は城に仕える騎士として働いている。

「レイスのこと、よろしくお願いしますね。何かと大変なことも多いと思いますけど、レイスはいい人だからきっと貴方を幸せにしてくれますわ」

「セレナ……」

 にっこりと笑顔で言う。

 その笑顔に、何か言わなければいけないと思った二人の言葉は、なぜかすべて封じられてしまう。

 黙り込んだ二人に、それを特に気にすることもないセレナだったが、そこでふとレイスに用事があったことを思い出す。

「ねぇ、レイス」

「なに?」

「……貴方、今は城に勤めてるのよね?……『シャロン』のこと、何か知ってる?」

 突然何を言い出すのかと訝しげにセレナを見つつも、とりあえず返事を返す。

「『シャロン』って、あの?」

「しゃろん?」

 二人の言葉に首をかしげたのはリィズだ。そんな彼女に振り返るレイス。

「ほら、最近フレイア姫様に与えられた杖のことさ」

「ああ、あの二十歳のお祝いにって?あ、もしかしてあれを作ったのって……」

「そう。セレナさ」

 リィズに頷きを返し、そして改めてセレナを見る。

「『シャロン』がどうかしたのか?」

「ちょっと気になったんだけど……何も聞かない?変な噂とか、うまく力が使えていないとか」

「……いや、別に……」

 考えながら言うレイスに、そう……と呟く。

 この国の第一王女であるフレイア姫は、魔法師としての肩書きを持っている。並の魔法師では太刀打ちできないほどの力を持っていて、そんな彼女の二十歳の誕生日に『杖』が授けられた。その杖を創ったのはセレナで、その杖の名前が『シャロン』なのだ。

 そしてセレナが今日見た夢。……それを思い出し、布団の上の手を握り締める。

「そう。……ならいいの」

「セレナ様」

開いている扉から入ってくるメルア。その腕には薬と水の載ったお盆を持っていた。

「お薬の時間ですわ。それとそろそろ……」

メルアの視線が、そろそろ休憩しろと告げている。母親でもある彼女の意図を敏感に感じ取ったレイスが、そうだなと口を開く。

「あぁ、じゃあ俺たちは失礼するよ」

「そ、そうね」

 レイスの言葉に同意するリィズ。

「そういうことだからセレナ」

「うん、わざわざありがとう」

 立ち上がった二人に微笑んで、そしてそのまま寄り添って出て行く二人を見送る。

 扉が閉められると同時に、ぎゅっと胸を押さえるセレナ。

「セレナ様!」

「だい、じょうぶ」

 騒がないで、と目で訴える。

 時々起こる『発作』。呼吸困難に近い状態に陥る事もあるほどの苦しみが彼女の胸を、心臓を襲う。

「ゆっくりと呼吸なさって……そう」

 背中に手を当てて耳元でささやくメルア。

 ずっと世話をしていれば、たいていの彼女の症状には対処できるようになるというものだ。

「大丈夫ですか?」

「……う、ん」

 額から流れる汗を拭うメルアに頷く。

 真っ青な顔と唇。誰の目から見ても大丈夫ではないだろうと分かるセレナの様子に、慣れたとはいっても不安を覚えざるをえない。

 そんなメルアの思いを読み取ってか、小さく笑みを浮かべるセレナ。

「大丈夫よ、本当に。これが私の仕事で、与えられた運命なんだもの」

 あっさりと運命と言い切ることの出来る彼女に、何と返事をすればいいのだろうか。

 まだ十八歳。長くは生きられないとわかっている体。

 この仕事を続ける限り・・・『杖師』である限り決して思う通りには生きられない。

『成長する杖』に注ぎ込まれる力。それは、『杖師』の命の力ともいえる。杖を創るたびに寿命が縮まっていくのだ。

 けれど、この仕事をやめることは出来ない。

「そういえばメルア」

 持って来てくれた水を口に含みながら尋ねる。冷たい水に浸したタオルを絞りながらセレナのほうに顔をむける。

「なんですか?」

「……調べてほしいことがあるんだけどいいかな。フレイア姫様のこと。ちょっと気になることがあるの」


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