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令嬢は目覚める②

詳しく聞いたところによると、私はどうやら倒れてから一週間も目を覚まさず、高熱でうなされていたらしい。それは心配するでしょうね。生まれて此の方、大きな病気にかかったことないもの。もしアダルがそんなことになったら、、、ぞっとする。





「ねえマリー?辛いところはなあい?」


「大丈夫よ、ありがとうアダル」




目を覚ましてから一週間。髪の毛の色が戻ることはなく、だいぶ痩せた腕はまだ元のようではない。エルザには「腹の足しにもなりませんわね」と真面目な顔で言われてしまった。

それにベッドから脱出しようにもドア付近にはいつも誰かしらメイドがいて、さらに部屋にはだらけたアダルが居座っているから無理でしょう。アダルは朝食を終えるとすぐやってきて私の髪の毛を弄ったりお人形で遊んだり、、、。



多分、もうすぐエルザがやって来るはずなのだけど。



「アダル様~?お勉強の時間ですわよ?またマリー様の部屋に逃げて!」


「マ、マリー助けて!」


「行ってらっしゃいませ、姉上」


「アダル様泣かない!」




勉強嫌いの姉に私が微笑んで言うとエルザに軽々と回収されていった。

絶対終わったら怒って帰ってくる。私を売ったわね!なんて言うだろう。

そうしたら、怒りを抑えられるように帰ってくる頃にお茶の用意をしてもらえるよう頼んでおこう。









私たちはトリアオスト王国、ファーレンホルスト侯爵家の子供である。私は四兄弟の一番下。アダルと私は双子で、彼女は八歳にして第一王子の婚約者候補。もし私が姉だったら立場は逆だったんでしょうけどね。いっつもヤダヤダと言いつつ座学にダンスにマナー、、、と頑張っている。最近ではマナーに厳しいインメル伯爵夫人のお茶会に母上と呼ばれて大変褒められたらしい。身内からは外面は完璧、という評価。私は明るい元気なアダルが大好きだけれどね。とにかく、のほほんと育てられている私とは大違い。



そんでもってアダル、アダリーシアは身内の贔屓目なしで美しい。艶のある濃いはちみつ色のウェーブのかかった髪の毛はよくお手入れされていて自分でも自慢らしい。宝石のような母上譲りのサファイア色の瞳はいつも輝き、愛くるしく瞬いている。物腰は柔らかくて指先まで優雅。それに明るくてマナーも完璧。女の子の中の女の子だ。


アダルが太陽だとしたら私は月。くすんだ髪色に色素の抜けた毛先。父上と同じ緑色の瞳は鏡でよく見ると死んだように光がない。いつも眠いの?疲れているの?と言われてしまう。そんなわけないと思いながらも面倒くさいので微笑んで終わり。間違っても空想の世界に旅立ってるなんて言えないから、アダルが代わりに「マリーはこう思ってるわ!」「いつもいつも疲れているわけないじゃない!」と言い返してくれる。


「一卵性」のはずなのに私たち二人は何て言うのか、、、輝きが違う。太陽に照らしてもらって光る月みたいに、私にはアダルがいないとダメ。ようするに、甘えているのね。




、、、それって私はお荷物ってことじゃない?ああは言ってるけれどアダルだって何も王子が嫌いなわけではないのだから、もし私がポンコツだっていう理由で候補から外れてしまったら?





ああああああどうしよう!早急にアダル離れしなければいけないわ!





こうしちゃいられない。私もお勉強しよう!お勉強して、一人でも生きていけるようになろう!兄上に頼んだら教えてくださるかしら?ダンスは父上に習おう。母上から「あなたのお父様はダンスがお上手で、夜会では一等輝いていらしたのよ」と熱く語られたことがある。

楽器は、、今はやめておこう。壊してしまいそう。お裁縫はエルザに、お料理は料理長に。




思い立ったらすぐ行動、早速協力者を増やすとしよう。


「ねえ、兄上を呼んできてくださらない?エカード兄様を」


若いメイドに声をかけると今すぐ!とダッシュで行ってくれた。元気ね。







~~~


「で、末姫は私を呼んだ、と」


「兄上、お願いです!私、アダルのお荷物にはなりたくないわ」


「あの子だって好きで世話を焼いているんだから、放っておけばいいのに」


「いや、もしよ?候補の最終センバツで妹がポンコツだからアダリーシアはやめようってなったらどうするのよ!?アダルが私のせいで不幸になるのは嫌よ!兄様助けて!」



考えれば考えるほどそうとしか思えなくなってきたわ!



私の必死さに若干引いているのは、ファーレンホルスト家の特徴であるはちみつ色の髪の毛に、澄んだエメラルドの知的な瞳。中性的で線の細い体つきの猫のような美少年、エカード兄様だ。


王国から独立した監視機関を束ねる父上の頭脳を受け継いだ兄様は、本来は十三歳からしか入れないはずの学習機関『学院』に最年少の八歳で入学し、六年の学習過程をいとも簡単に飛び級。十歳で卒業し学院の次の『院』に進み、十二歳となった今年から父上の補佐として機関の運営に携わっている。まだまだ簡単なことしか関わらせてもらっていないらしいけれど、それでも父上のお手伝いをできるなんて羨ましい。



「しょうがないな、いいよ。シーズンが終わって家が落ち着いたら先生をしてあげる」


「お兄様!愛してるわ!」


なんて優しい兄上!もう一人とは大違いだ。美しいエカード兄様に満面の笑みを向けた。





「具体的には何を勉強したいの?私は院では薬学について学んでいるけれど、そういうもの?」


「えーっと、そうね、、、もちろん王国の歴史とか、知っていなければいけないことを教えていただきたいわ。あとは兄様の研究しているものもやりたい。父上のお手伝いができるようなことも!あと違う国の言葉も習いたいわ」


「ふふっ剣はいいの?頼んだら次期団長が教えてくれるんじゃない?」


「嫌よ、どうせ意地悪しかされないから」


「兄上も相当嫌がられているね。私も意地悪するかもしれないのに、すごい信頼してくれているじゃない」


「エカード兄様は、いいのです」



私は兄弟の中ではアダルが一番好きだけど、一番一緒にいて落ち着くのはエカード兄様。アダルとは喧嘩する時もあるけれど、エカード兄様は大人だから私の扱いがうまいのだと教えてくれた。 もう一人の兄は論外!全く相性があわない。アダルはいつも言い返したりして何だかんだ仲はいいけど。



「可愛い妹に頼られるなんて、嬉しいよマリー。でも、そろそろ私の診察の時間みたいだから行かなくちゃ」



ドアの方を見ると兄様付きの従者が顔を覗かせている。あら、もうそんな時間なのね。



「忘れないでよ?絶対よ?」


「ああ、マリーがうんといい子でいたらね」



兄様は軽く私の頬にキスを落とすと優雅に微笑み、従者に連れられて出ていった。





廊下から咳の声が微かに聞こえた。昔から身体の弱い兄様は定期にお医者様に見てもらわなければいけないらしくて、大変だなあと思う。私も今それと同じ状況だけれど。




「ふあぁ」




よし、これでお勉強の先生は捕まえて、、、それから、、エルザに、、、、、いいや!ちょっと眠いから一眠りしよう、、、。






誤字あれば教えて下さい。

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