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はじまり、はじまり

連載二作目。よろしくお願いします




ぐるぐる。ぐるぐる。

目の前が真っ暗になって、頭がこんがらがってくる。床がなくなってどこまででも落ちちゃうような感覚。私はいつもの白くて柔らかい寝巻きに素足のまんまで暴れず、流れに身を任せてどんどん落ちる。白糸で繊細な刺繍が施された裾をいつもの癖で指でなぞった。



「また、始まったわ」



数えてみると七回目だから慣れてきたと思っていたけれどやっぱり変な感じ。気持ち悪い。

暫くしてから不思議な時間が私がゆっくり地面に座ると同時に終わって、ふわりと意識が戻る。



深い海の底にいるみたいに静か。静かすぎてしんとしてて、私のちょっぴり緊張している早い呼吸の音しか聴こえない。海の底なんて行ったことはないのだけれど。


周りは真っ暗で辛うじて自分の座っているところだけ薄明るくなっている。少し、寒いわ。



「ここはどこなのかしら。私、アダルとお人形遊びしてたはずなのに。アダル?どこにいるの?」



微かに震える頼りない声が空気に溶けた。


そう、寝る前に私たちの部屋で遊んでいたはずなのにあの子がずっといない。私たちは二人で一つだからこんな長い時間離れたことはないのに。







「、、、あー、えっと僕の、声、聞こえる?」







刹那、ソプラノの、少したどたどしい声が響いた。前の六回で意味の分からない言葉を喋っていたのと同じ人の声だろうか。



「だあれ?」



「っっ!き、聴こえているの!?もし、そうだったら、左手、挙げて?」



はいはい、お安いご用よ。私は左手を挙げた。



『――――――!?、、、―――――!!――――!』



また知らない言葉だわ。アクセントが私の使う言葉とまるっきり違うし、語尾も伸ばすし、そもそも何を言っているのかよく分からない。でも、何だか嬉しそうな声色。嬉しそうと言えばアダルと遊んでいたあのお人形は父上から頂いたもので、とても嬉しかったことを思い出した。



「待っていて!すぐ、行く」



また声が響いたので了解を伝えるように左手で敬礼をしておく。


行く?ここに来るのかしら。ここに閉じ込めた人?できればぜひとも出して頂きたい。




「き、き、君、マリー?」




ぼうっとしていると不意に目の前から顔を覗きこまれた。


初めて見る綺麗な瞳。右目がグレーで左目が淡いブルーだ。さらりと顔にかかる髪の毛は輝く金色で、見事なそれに負けない、幼いながらに整った顔立ち。長い睫毛は金色で、広めな二重のぱっちりとした目にすっと通る鼻筋。艶やかは唇はびっくりしたようにぽかーんと開けっぱなしになっている。肌は透けるように白く、薄ピンク色に染まった頬がよく目立つ。私と同じくらいの歳かしら。



「ええ、マリー・ヴァラ・ヘルナー・クラーク・ファーレンホルスト。あなたは?」



ああ危ないところだった。あまりにも美しすぎて見惚れてしまったなんて言えない。動揺してもちゃんと名前を言えた私を褒めてほしい。





「マリー、僕の、運命の人」





私の問いかけには答えてはくれず、うっとりと呟くと私の緩いウェーブのかかる髪の毛を一束とってちゅっと唇を寄せた。


嬉しくて零れたような満面の笑みに心臓がどくどく、早くなる。


それに本に出てくるような仕草。やられたこっちが恥ずかしい。顔がどんどん赤くなるのがよく分かる。


顔を上げてまじまじと見てみた。質のよさそうなブラウス。襟にはキラキラとした銀色の糸で幾何学模様が刺繍がされている。ブカブカの、指先が隠れてしまうような紺色の羽織の裾にも同じように。服装は私の国の男の子とちょっと違う。



「僕、忘れない。マリーも、忘れないで。ずっと君を、思ってるから。だから、今から言うこと、守って?」



切なくて堪らないというように甘く囁くその言葉に、私はつられるように頷いた。



「私にできることなら」



「僕、迎えに行くまで、誰かの、大切な女の子、ならないで。お願い」



首をちょっとだけ傾げるその子の髪の毛がさらさらと靡く。男の子の真っ直ぐな瞳と声が深海に響いた。



「分かったわ、私の王子様」



私の言葉に満足げに微笑むと、今度はきゅっと抱きしめてきた。男の子に抱きしめられたことがあるのは父上と兄上しかいなくて、緊張した。柔らかくてほわほわした気持ちになる。甘いお花の香りと低い体温に思わず背中に手を回した。冷たい身体だわ、暖めてあげられればいいのだけれど。





「『シードル』僕の名前。忘れないでね、僕のお姫様」





首筋に頬を寄せたあと、名残惜しそうに抱擁がほどけていくと私の意識が強い力で上に引っ張られる。


目の前から光が差し込んできて耐えきれず目を瞑ってしまった。



「もう、時間だマリー」



「シードル!約束よ!」



「うん!必ず、僕を、待っていて!」




シードル、と名乗った男の子の声が消えた瞬間、身体が急に軽くなり上へと猛スピードで飛ばされる。







私はきっとこの瞬間、恋に落ちてしまった。





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