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序章

 ナナ(二十三歳)は綺麗なブラウンの長い髪を風に弄ばれながら、家から一時間程の城下町に来ていた。

 いつもの道をいつもより少し遅い時間に、本革の靴は柔らかくナナの足にぴっとりと張り付くようにフィットしている。軽やかに小道を走るナナに視線の先には、緑の屋根が可愛いレンガ造りの生地屋”クルル”。あの木製扉の先にお目当ての人物がいる。


「おば様! 遅れちゃってすみません。今月の品物お持ちしました」


 勢いよく入ってきたナナに少し驚きの表情を見せてから、おば様はにっこりと太陽のような笑みを向けてくれた。


「ナナちゃん。待っていたわ。さあ、見せてちょうだい」

「ええ、これです」


 ナナは右腕に下げていた籠を腰より少し高めのカウンターによっと乗せると、上に被せていた白い布を捲り上げて見せた。その中にあったのは、白く艶やかな布が一枚。光の反射で七色に輝くそれは、二人の瞳も虹色に変えた。


「まあ・・・一段と素敵な出来ね。輝いているわ。今回はもっと高値で「いいえ、おば様。いつものようにひと月暮らせるだけで十分なんです。その代わりに私たちの事は今後とも内密にお願いします」

「そう・・・。でも、そんな昔の契約を守り続けなくてもいいんじゃない? うちばかりがオイシイ思いをするなんて」

「とんでもないです。昔のあんな事件を繰り返したくないんです」

「あれは・・・」

「さあ、おば様。暗い話は置いといて、お代を頂いたら帰ります。今日はユーリの十四歳の誕生日なんです」

「わかったわ。じゃあ、これを。それと、ユーリくんにもおめでとうと伝えておいて」

「ええ、おば様。どうもありがとう」


 ナナは膝下丈のふんわりと揺れるスカートを翻して扉に向かう。扉に取り付けられている素材を生かした枝の取っ手は、ナナの柔らかく白い手によく馴染む。首だけを振り返りおば様に笑顔を向けながら取っ手を引くと、カラリと木製のベルが鳴り店内に新鮮な空気が入ってくる。

 と、同時にナナのお腹にポスンとぶつかった何か。


「__失礼致しました」


 頭一つ分背の低い少年がえへへと後頭部に手をやりながら、キラリと白い歯を覗かせてナナを見上げている。黒髪の少年はぱっと見の身なりで高貴な身分を伺えて、ナナは視線を合わすことなく「こちらこそ」と小さく会釈をしながら店を後にした。


 (なるべくひっそりと暮らしたい。大切な家族と共に。幼い頃からそう思っているのは、一種の刷り込みのようなものかもしれない。沢山の犠牲の上に成り立った私たちの今の生活を壊すことなど出来ない。これからもひっそりと暮らしていく。何があろうとも)




 ここはエスティツ王国。

 近隣諸国は過去の戦争を忘れ、それぞれの国は産業で財を成す平和な時代が長く続いている。エスティツ王国では他国には真似出来ない魔法の力を駆使した医療技術で、超富裕大国まで成長を遂げた。自然が多くのどかな土地で、近未来とは違う発展を遂げた世界。

 身分の違い、過去の因縁、家の(しがらみ)雁字搦(がんじがら)めでも貫きたい想いがここにある。




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