散財2
エリック達の研修が終わり、そこから一週間は討伐クエストを中心に受けている。
討伐のクエストも最近では前と同じ位の頻度で発生する様になっていた。
「さて、今日はどうするか?キュウはなんかやりたい事はあるか?」
「キュ!」
俺が話を振るとキュウは顔を背けて此方を見ない。
はぁ~、まだ拗ねてるのか。新人研修の時に俺はエリック達に身体強化を教えていた。その時エリック達を集中して教えていたのでキュウに構ってやれなかった。その時からキュウは今日に至るまで拗ねている。
「なら、今日はクエストを受けないで街に食べ歩きと行こうか?」
「キュウ。キュ、キュ。」
どうやら食べ歩きの言葉に反応してる様だ。此方をチラチラと窺ってくる。
「その後はどっかで昼寝をしよう。起きたらまた食べ歩きだ。」
「キュ~ウ♪」
どうやら気に入ってくれたみたいだな。先ずは宿の朝食を食べないで、街の屋台を見に行く事にした。俺が出掛ける準備をするとキュウはポーチの中に入らず、俺の頭の上に乗る。
「キュウ、頭の上であまり動いてくれるなよ?」
「キュウ。」
キュウを頭に乗せ、街を歩き向かう場所は屋台が多い東門付近。
そこには串焼きにスープと多岐に渡る料理がある。
「さて、何から食べるかな?キュウどれがいい?」
「キュ~?」
キョロキョロ、屋台を見て迷うキュウ。
「あれ、ライルさん?」
「ん?エリックか。一人か?」
「はい、今日は休みにしたんですよ。ライルさんは何をしてるんですか?」
「キュウと食べ歩きをしていてな。何がいいか?迷ってる所だ。」
「それなら、角にあるあの屋台がオススメですよ。」
「それか。それなら食べてみるか。どうだキュウ?」
「キュウ!」
キュウも賛成の様なので、礼を言ってエリックと別れて教えてもらった屋台に行く。
「キュウ。何本食べる?俺は2本にするが。」
「キュキュ。」
小さな指を2本立てるキュウ。
「すまんが、その串焼きを4本貰えるか?」
「毎度!4本ね。ちょっと待ってくれよ。」
店のオヤジは頼んだ分を焼いてくれる。他の店は大概、軽く焼き直してから出す方が多いのにこの店は客の注文を受けてから焼くようだ。焼くといい匂いがしてきてキュウは頭から肩に降りてきて右、左と世話しなく動く。
「おい、キュウ落ち着け。」
「チビ助、もう少しで焼けるからな。」
焼き上がった串焼きを受け取り代金を支払う。一本銅貨1枚で4本で4枚払う。
渡された串焼きを見ると肉汁が滴っていて、とても旨そうだ。
右手で自分の口に運び、左手でキュウに差し出す。
「キュウ。肩の上に溢すなよ?」
「キュ。」
短めに返事をし差し出した串焼きにかじりつく、俺が一本目を食べてると二本目を催促するキュウ。
「キュウ、食べるの早くないか?俺はまだ一本目だぞ?」
「キュ~キュ~。」
早く寄越せと言わんばかりに鳴き、手を激しく動かし抗議をしてくる。
「わ、分かったよ。ほら。」
キュウの抗議な負け二本目を差し出すと嬉しそうに食べる。
俺が一本を食べ終わると、キュウは二本目を食べ終えていて此方を寂しそうに見ている。
「おい、これは俺のだからな!やらんぞ?」
「キュウ!?キュ~キュ~ン。」
寂しそうに鳴き声を挙げるキュウ。お陰で周りの人の注目を集めてしまう。
「くっ!?卑怯だぞ?そうやって同情を引こうって魂胆だろ?」
「キュ!?キュウ~。」
俺が掛けた言葉に驚き、声が小さくなり尻尾が垂れ下がる。目元に手を持っていき涙を浮かべるキュウ。
それを見ているオヤジから。
「兄さん、可哀想じゃないか?」
「いや、でもキュウはもう二本食べてるんだぞ?俺の分を要求するのはおかしいだろ?」
「兄さん、そこはチビ助に譲ってやるもんだろ?」
オヤジ、チビ助って呼んでるキュウを見てみろ。この体のどこに入ってるのか気にならないのか?
キュウはオヤジに、私が悪いから気にしないで。とばかりに左手で目元を拭い
右手を横に振る。
本当に芸が細かいな、自分の外見をフルに使って来やがる。
「兄さん。」
「分かったよ。ほら、やるよ。」
最後の一本をキュウに差し出すとガッツポーズを取るキュウ。
「良かったな、チビ助。」
「キュウ♪」
おい、オヤジ。さっきまで泣きそうにしてたキュウのガッツポーズは無視か?
キュウに串焼きをやり、腹が膨れてない俺はオヤジに他の店を紹介して貰おうと聞いてみる。
「オヤジ、他に旨い屋台はあるか?」
「俺の店が一番に決まってるだろ?」
「串焼き以外を食べたいんだが?」
「しょうがねぇな。屋台じゃねぇが、ジルク食堂が安くて旨いぞ。」
オヤジに場所を教えてもらいジルク食堂に行く。
「ここだな。」
ジルク食堂に着き中に入ろうとするとまた声を掛けられる。
「ライルさんじゃないですか!どうしてここに?」
振り返ると荷物を抱えたイーサンが居た。
「串焼きのオヤジにここが安くて旨いと聞いて来たんだが、イーサンは何をしているんだ?」
「ここ家の親父がやってる食堂なんですよ。まぁ、中に入ってくださいよ。」
イーサン言われて店の中に入り、席に座るとイーサンがメニューを持ってくる。
イーサンにメニューを渡されここに来た経緯を話すと。
「ライルさん。キュウはライルさんの従魔でしょ。いいんですか、そんな我が儘を聞いて?」
「キュウ、キュウ。」
「うわっ!?なんだよ?やめろよ。」
イーサンが言った事が気に入らなかったのか、イーサンの肩に飛び乗りイーサンの顔を叩く。その際には爪を立てないようにしていた。
「ほら、落ち着いて戻って来いキュウ。」
声を掛け肩を叩いてアピールすると戻ってくる。
「え~とな、イーサン。別に従魔って訳じゃないんだ。リスロで暮らすのに街の人に怖がられると困るから従魔登録しただけであって、俺はキュウの事を仲間だと思って接してるよ。」
「キュウ。」
俺の話に頷くキュウ。
「そうなんですね。ごめんな、キュウ。」
「キュ~キュ。キュウ♪」
イーサンがちゃんと謝ったのでキュウは許した様だ。右手をイーサンに差し出す。
「えっ!?何ですか?」
「仲直りの握手がしたいんじゃないのか。」
「キュウ。」
俺はどうやら正解したようだ。
イーサンは右の人差し指をキュウに近付けてキュウと握手をする。
「取り敢えずイーサンのオススメをくれ。」
キュウは開いてたメニューを見てフルーツを指してイーサンに注文する。
イーサンのオススメを食べて食堂を後にして陽当たりのいい場所を探して広場に合ったベンチで昼寝をする。
「いい天気だな。絶好の昼寝日和だ。」
「キュウ。」
昼寝から起きて午後からも食べ歩きをしたが大変だった、キュウは目に付く物を欲しがり、かなりの量を食べやがった。その体の何処に入るんだ?
キュウの機嫌を治すのに食べ物で釣っては駄目だと思い、俺は今日という日を忘れない様にしようと決心した。
「はぁ~。明日からクエスト頑張らないとな。」
今回は出番がなかったキュウのお話です。
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