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act10☆ツンデレ姫の嘘

 初めてあった日、私はフロンの全てに驚愕を覚えていた。

 今となってはその奇行種に感謝しかないけれど……。

「蝶子さん、まだスマホさんとアップップしてるのですかぁ? 私はもう寝る準備万端ですよぉ」

 覗き込もうとするスマホを裏返し、私はさっさと立ち上がる。ふかふかのダブルベッドに腰かけて足をぶらつかせているフロンがブーたれた。

「早く寝ましょうよぉ。今朝は早かったからもう眠たいですよぉ」

「寝たければ1人で寝なさいって言ってるでしょ、さっきから」

「えぇー、ひどいですよぉ。なんだかんだちゃんと待ってるじゃないですかぁ」

 ずっとこの繰り返しだ。かれこれ1時間。

 私も今日はフロンに叩き起こされたので、実のところちょっと眠い……。

「メッセ入れときたいんだけど、上手く言葉がまとまらないのよ。送ったら寝るから……」

「誰にですか誰にですかぁ。蝶子さんてば私のお嫁さん候補でありながら、こんな夜更けに誰と愛を囁きあってるのですかぁ? 許せませんよ、人のお嫁さん候補に手を出すようなメスネコさんはぁ」

 ……勘違いも含めて、ツッコみどころがありすぎるので無視。

「聞いているのですかぁ、蝶子さぁん」

 無視無視。

 スマホに視線を落としたまま、フロンのデスクチェアに腰かける。フロン母が片付けているのか使用していないのか、机上はとても整っていた。私は頬杖をつき、ため息をひとつ溢した。

「フロンは悩み事なんかないって言ってたわよね?」

「えー? 今思いつくとですね、寮ではネコさんが飼えないことですかねぇ。家に帰って来ると、やっぱりネコさんたちには癒やされるなぁと実感しましたしねぇ」

「……なるほど。それはちょっと言えるわね。でも、そんなものでしょ?」

「まだありますよぉ。私はずっとダブルベッドで生活してたので、やっぱり寮のベッドは狭く感じますねぇ。これも家に帰ると実感してしまいます」

「……悩み? それ」

 フロンはその後も、唸りながら悩みを捻り出していた。おもしろくなってきたのでちょっと放置してみる。

「蝶子さんはないのですかぁ?」

 ネタがつきたのか、今度は私にふってきた。

「……あなた、私と何ヶ月生活してるのよ。私が悩みの塊だって知ってるでしょ?」

「塊……ですかぁ?」

「大ありよ。オオアリクイよ」

「……オオアリクイ、ですかぁ?」

 言うんじゃなかった。

「でもね……」

 デスクチェアごと振り返る。フロンはまたハテナ顔をしていた。

「結構減ったわ、今日で」

「……でも今、ずっとスマホとアップップしてましたよねぇ。悩んでたんじゃないのですかぁ?」

「いちいちツッコまなきゃダメ?」

「……はい?」

 私こそ、フロンと何ヶ月共にしているのだ。この子が純粋で天然で鈍いというのは最初から気付いていたではないか。

「あのね、確かにメッセの文章は悩んでいたけど、そういうことじゃないの! 一過性のものではなくて、なかなか解決できない悩みの話!」

 ハテナ顔だったフロンが「ほぅ!」と手を打つ。お目々はそれでそれで? と言葉の続きを急かしている。

「今日は楽しかったわ。いいリフレッシュになったし」

「それなら目的達成ですね! いやぁよかったよかった! ……して、解決したなかなか解決できなかった悩みとはなんだったのですかぁ?」

「ふふっ、内緒」

 わざとほくそ笑みを向けると、フロンは「えぇー?」と、またも足をバタつかせた。そんなフロンを横目に、私は再びカーテンの外を覗き込む。

「この長め、とっても気に入ったわ。また遊びに来てもいい?」

 ちりばめられた宝石たちが眼下に広がる。半透明の芹澤蝶子ごと。

「もちろんです! 蝶子さんが望むなら、どんなことでもお任せくださいですよぉ」

「そう……。ありがとう」

 フリフリのネグリジェはまだ見慣れない。でも、これを着たから分かったことがある。

「ねぇフロン。私、もっとこういう服を着てみたいの。……おかしい?」

「おかしいわけないじゃないですかぁ! とっても似合いますし、ウエディングドレスはもっともっとフリフリでいきましょうよぉ!」

「ふふっ、なにそれ」

 思わず吹き出す。私は私服の話をしているのだ。やっぱり、フロンのおつむはいつでもお目出度い。

「当然じゃないですかぁ。蝶子さんは私のお嫁さん候補ですよぉ? 笑うことないじゃないですかぁ!」

「はいはい」

 笑いをこらえながらフロンの隣に座る。柔らかなベッドの感触が心地よい。

「じゃあ約束して?」

「何をですかぁ?」

「ずっとこうして隣にいてくれるって約束してくれるのなら、お嫁さんになってあげてもいいわ」

 浅い瞬きを連続で5回したフロン。そして一瞬の間をおいて、パァッと笑顔を咲かせた。

「本当ですかぁ!」

「嘘」

「えぇー!」

 ころころ変わる表情を見ていたら、ちょっと意地悪言いたく鳴っちゃったんだもの……。

「蝶子さん、私に嘘つきましたね?」

「ふふふっ、ごめんごめん。冗談よ」

「いえ、嘘をついたと嘘をついたでしょう?」

「は? 違うわよ、ちょっとからかっただけじゃない」

 なにやら怪しげな笑みを浮かべて顔を近付けてくるフロン。試されているようで、思わず目を逸らした。

「言ったじゃないですかぁ。私は蝶子さんが嘘をついてもすぐ分かるんですよぉ?」

「言ってた気がするけど、別に嘘ついたのは本当だし……」

「いいえ、ダウトです! 蝶子さんの顔に書いてありますよぉ? 『ずっとずーっとフロンと一緒にいたーい』って」

 当てずっぽうだけで言ってるわけじゃないのは分かっている……。

 まったく、この子は……。

「馬鹿ばっか言ってないで、もう寝るわよ!」

 手近にあった枕をフロンの顔面に押しつける。もがいている間にそそくさとベッドの端に寝転んだ。

「ひどいですよ、蝶子さぁん! 本当のことを言ったまでじゃないですかぁ」

「あー眠い眠い。おやすみぃ」

「蝶子さんてばぁ」

 背を向けて寝たふりをすると、しばらくぶつぶつ言っていたフロンもごろんと横になった。『おやすみ3秒』フロンの特殊技能が発動して寝息が聞こえてくるまでしばし待つ……。

「……寝た?」

 肩越しに話しかけても応答はない。やはり単純だ。単細胞だ。

 特殊技能に感謝しつつ、私は横になったまま再びスマホを掲げる。

 ロックを解除する。メッセージアプリは文字入力画面のまま。

 一旦寝返りをうってフロンの寝顔を眺めた。

 ……やっぱり、素直が1番、よね……。

 フロンの寝息に混じって、ぽつぽつという文字入力音が響く。

『今日は休んでしまい申し訳ありませんでした。今年の公演は魔王でもザコでも頑張りますので、来年はぜひ、みんなが憧れるような素敵な役をお願いします! それではまた明日。芹澤』

 エアコンを弱め、照明を消し、めくれたTシャツを整え、そして夏掛け布団を肩まで引き上げてやる。

 ……あなたにだって、やっぱり私が必要じゃない。

 私にもあなたが必要だけれど、こうやってあなたの面倒を見てあげられるのは私だけでしょう?

 私より、あなたのほうが私を必要としているでしょう?

「うぅーん、蝶子さぁん……」

 ほら、夢に出てくるほど一緒にいたいんでしょ?

 しょうがないから、これからもずっと隣にいてあげるわよ。

「あぁーん、スパッツはまだ……むにゃむにゃ」

 なーんてツンデレは、あなたには通用しないけれど。

 ……ま、いっか。



〜閉幕〜

ここまで読了いただきましてありがとうございました。

長いお休みを挟みましたが閉幕まで辿り着けたのは応援してくださったみなさまのおかげです!

蝶子とフロンのお話は、百合といえどほのぼの百合でしたので、書いていても私自身がフロンに癒されたりしてました(笑)

物語としては短めですが、彼女たちの百合物語はまだまだこれから始まるので、きっとまたどこかでお会いできるでしょう♪


今後とも芝井流歌をよろしくお願いいたします。

2023年1月27日 芝井流歌

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