P.3_絶望的な挑戦状
「……どうしよこれ」
肩から先から感覚が無くなっている。
それは消えた左腕。
否。
代償として払った左腕。
二つある内の一つとして、運力が消えていたが今は困る事も無いから先延ばしで良い。
ただ、コレは違った。
「義腕を付けるって言う手もあるけど、繋げる方法がなー……」
正直、一つしか思い付かない。
しかも、それには手間がかかってしまうし、痛い思いもするだろう。
肩が壊れる可能性だってある。
その上、これに限って【叶願の宝石】を使っても治らないのだから、その分、かなり面倒だった。
それは復元するだけでなく、くっつけることも。肩の付け根に義腕を取り付けようにもすぐにポロリと落ちてしまった。
「当分はこのままか」
でもまさか、異世界に来て早々に失敗するとは……。
これはもう、【叶願の宝石】以外の方法で治すしかないだろう。取り敢えず、今は応急処置として左袖を使い、それっぽく左手をポケットに突っ込むような形を作っておくとしよう。
すると、不思議な事に中は空洞なのに、つついてもビクともしなくなる。
「……」
思う。
次に、ちょっとだけ、胸に触れてみる。
心臓の鼓動はいつもと変わらず、落ち着いていて、何の異常も見つからない。
ーー腕が無くなったのに、だ。
多分、まだ本当の意味では落ち着いていないから。
もしかしたら、ただ単に強がっているだけなのかもしれない。
自分の事なのに、他人事のように思うのは可笑しい話だが、それでも今の俺は普通じゃないと思う。
……今の俺はブレブレだ。
まさか、こんなに欲が強い方だったとは俺自身知らなかった。
……。
「……あの人を探すとするか」
……見つかった時、色々と言及されるのは面倒だな。
そこに頭を痛めながらも、俺は一旦考え事を切り上げて立ち上がり、木陰から出ては廊下に立って歩を進めようとした。
「ーー尚柳!」
……運が悪いというか何というか……。皮肉にも、運力は消えたのにね。
その前に前の曲がり角から現れた一人の人物に止められた。
そいつを筆頭に、後ろからは姫さん含め、5人が俺を見ている。
いや、一人だけ睨んでくる奴がいるな。
「お前、そんな所で何してるんだよっ! 意地張るのもいい加減にして、帰ってこい!」
……またそんな言葉を……。
「断る」
考えを変える気は毛頭ないことを伝える意味で、俺は睨み返す。
「……っ。じゃあ、俺達にどうしろって言うんだ?」
「別に何も」
押してダメなら引いてみろって言った感じか。
悪いけど、今更遅いんだよ。
「ーーつぅ……っ。面倒くさい男……!」
「それ、よく言われるし。自覚もしてる」
「ッチ!! コイツ、めっっっちゃくちゃタチ悪いわね!」
……。
…………あれ。もしかして、それだけ?
梨木がヒステリック気味にキレた後は、何の追い打ちもない。
「……そうか、もう分かった。十分理解したよ。尚柳、お前は知らないだろうけど、俺達は明日から戦闘訓練を行うんだよ。だからーー」
これで終わりだと思ったが、数秒して龍樹が溜息を吐き、言葉を紡いだ。
「……」
「だから明日。俺が剣の勝負でお前に勝ったら、その時は俺達に従ってもらう」
「……分かった。それでいいよ」
つまりは、喧嘩か。
分かりやすくで良い。とことん付き合ってある。
俺は龍樹と約束を交わし、また奴らから離れようと振り向きーー
「但し」
いや、振り向こうとした。
龍樹ではない。
一切の濁りの無い、透き通った声。
「明日の訓練には参加しないで下さい。また、決闘が終わるまで食事はお預けです」
……ナナリエだ。
「ナナリエ!? それは流石にーー!?」
龍樹が止めようとするが、ナナリエは微笑を浮かべ、その細くて白い人差し指を龍樹の唇に当てる。
「それと、部屋は用意しますが……あまり良い物とは思わないで下さいね」
つまりは、覚悟しろと。
……なんという脅しだろうか。
ここで折れろと言いたいのだろう。
「ああ、分かったよ」
残念だが、パンだろうがケーキだろうがいくらでも出せるから問題無いんだがな。
その真事実を隠し、答える。
一層強くなった笑顔の裏と、奥にある二つの暗い顔を見ながら。
俺は今度こそ後ろを向き、遂に先の廊下を曲がる。
……結構大変そうだな。
よくあんなの一緒に居られるもんだ。
同時に、ナナリエの随分と楽しそうな顔を思い出し、螺旋階段を上がっていく。
ーーこうして。
明日までに俺が、一般人が勇者に勝つ為の対策を練る必要が出来たのだった。
今話も読んで頂き、ありがとうございます(´∇`)
ここでお願いなのですが、もし良かったら、現在の主人公に対する印象を教えて頂けませんか?
恥ずかしい話、少しばかり、主人公の性格がブレ始めてきたもので……。第三者からの意見があると、参考になります。
改めて、良かったらお願いします。