P.2,5_怒勇者の幸せ
テスト一週間前に入ったので、更新速度が落ちるかもです……。
「全く! 尚柳は何を考えてるんだよ……っ!」
アイツの見下したような目と、どこまでも冷たい表情を思い出して思わず愚痴を零す。
俺は今、尚柳で出ていった後にナナリエに連れられ、食堂へ向かう廊下を歩いていた。
何でああまで頑なに否定されたのか、全然分からない。
しかも、利用されるなんて……。
この人達がそんな事をする訳ないし、あれは被害妄想が過ぎていたように思えた。
「私もああいうタイプは絶対無理だわー」
「そうそう。空気読めってねー。皆と違う事言える俺カッコイイ、みたいな?」
メグと沙耶の二人が俺の呟きを拾い、同調してくる。
「私も驚きました……。まさかあんな事を言われるとは。かなり困る事でしたから……。あの方はいつもあんな感じなのですか?」
「……そうだね。喋ったことは無かったんだけど、いつも一人で、孤立してるって感じだったから……」
あの時初めて喋ったけど、俺自身、あそこまで捻くれているとは思ってなかった。
「……私、王女失格ですかね……」
すると、ナナリエは急に落ち込んだ様子で言った。
「いいや、そんなことはないよ。アイツが間違ってるんであって、ナナリエは全然悪くない」
やっぱり、誰かが悲しむ顔は見たくないんだ。こんな時こそ、俺がしっかりしないと。
俺は精一杯彼女を慰め、気を引き締める。
「……ふふ、女性の扱いが上手ですね。でも、ありがとうございます。元気が出ました」
「ええ……女性の扱いって……」
「っふふ」
これじゃあ、なんだか俺が軽い男みたいじゃないか。
「……でもまあ。ナナリエの笑顔が見れたから、別に良いかな」
彼女の笑顔を、守りたい。
俺は今、強くそう思った。
「そ、そんな……恥ずかしいですよ」
可愛いな、ホント。
「……ねぇ、アレ……」
「嫌だねー……また他の女と……」
ナナリエの横顔を眺めていると、突然後ろから声が聴こえてくる。辛うじて聴こえる程度の、メグと沙耶の囁き声だ。
「あーヤダヤダ。懲りない奴って何回やれば気が済むんだろ」
「ん? メグも、分かってて一緒に居るんでしょ?」
「あれ、もしかして……バレてる!?」
「そりゃそうだよ。私だって同じだもん。でも、また増えちゃったかー……大ボスさんがー」
「私、勝てるかな……心配になってきた」
「だよねー」
……? 何の話をしてるんだろう。
「ーーさ、隼人様。着きましたよ」
気になって、二人の会話を聞き取ろうとするが、その前にナナリエの声に止められる。
どうやら食堂に着いたようで、メグや沙耶、千夏さんにナナリエには劣るが、それでも十分可愛いと思えるメイドが「お待ちしておりました」と頭を下げた。
「「ーーわあ……っ!」」
これは、凄い。
大量の豪華な食器がテーブルに並び、五ツ星ホテルのような料理が乗っていた。
こんなの、6人じゃ食いきれない量だ。
部屋十を香ばしい匂いが充満し、メグの口からみっともなく涎がダラりと垂れる。
……それぐらい凄まじいんだ。
「今日は召喚に成功した日と言う事もあり、雇いの料理人さんに手塩を掛けて作ってもらった品達です。夜もありますので、楽しみにしていて下さいね」
そう言って、ナナリエは俺の手を引き、隣に座らせる。
また、その隣にはメグと沙耶が。
「いただきまーす」
開口一番、メグが肉にかぶりつく。
俺も一口。
「……うん! 超美味しいよコレ……っ!?」
頬の中で肉が蕩けて消える。
こんな美味しい料理、食べるのは初めてだ。
周りには俺の大切な人達が居て、楽しくてしょうがない。
だがーー
だが、ふと。俺はチラリと視線を動かす。
その先には千夏さんが。
突如、美味しい筈の料理が少し色褪せて感じてしまって、俺は慌てて別の料理を口に運ぶ。
それから腹が限界に達した、その時まで、ただ一人。千夏さんだけが離れていた事が、俺の心に抜けない棘を刺していた。
今話も読んで頂き、ありがとうございます(´∇`)