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P.2_願望石

 俺が隠れたのは城の端に位置する中庭の木の裏。

 高度を吹き抜ける穏やかな風が、俺の前髪を微かに揺らす。

 涼しい。

 心地の良い冷たさだ。

 すぐ近くの足場から見下ろすと全体的に橙色の建物の多い城下町が見え、空の方はここからだと雲までの距離がかなり近く見える。


「……しっかし、割と重いな」


 こうして、あの場所からかなり離れてきた上に、わざわざ見つかりにくい場所を選んでは、俺はこの場所で一人、中心が少し濁った一つの紅い宝石を手の中で転がしていたのだった。


「で、叶える願いで叶願、か」


 その正体は、【叶願の宝石】

 ステータスと念じると現れるレッドスクリーンにあった項目、【スキル】の一つだ。

 恐らく、効果は名前通りの意味で合っていると思うが、こんな小さい石にそんな大それた事が出来るとは思えない。


「でも姫さんが言うには、普通じゃ有り得ない事を起こすのも可能なのがスキルらしいし」


 ついでに言えば、唱えれば何かが起きるもの。

 詠唱と、その魔法に見合う魔力を費やせば、剣に焔を纏わせる事もできるし、雨を降らせる事もできるらしい。


 実際、俺がスキル名を唱えただけでこの石が上から落ちてきたのだから、こうして真面目にこの世界の事を考え直しているのだった。


「……ここは一つ。何でもいいから願ってみるか」


 これで望み通りに起こったら、まるだ。

 だから俺は、軽く何か降ってこいと願いながら、目を瞑る。

 何でも良い。……いや待て、やっぱ大き過ぎず小さすぎない物で。


「これでどうだ?」


 目を開けて空を見上げるが、澄み渡る青空と曇の無い白い雲が見えるだけで、何も変化も無い。

 五秒経っても、何も。


 ……やっぱり、そんな訳なかったか。


 残念だと、そう思ったーーその矢先に、だ。


「きゃあああぁっ!?」


 ポンっという空気の弾けるような効果音が聴こえるようにして、突然宙に人が現れた。


 重力と風で揺らされ斜め上方向にたなびく橙黄色の毛先。

 ポニーテールと黒いメイド服姿の少女が叫びながら落ちてきたのだった。


 それは俺の真上から降ってきていて、位置的に腕を伸ばせばしっかりと両腕に収まるようになっている。

 それまで約六秒……いや、三秒。


「ーーひぃんっ!?」


 これがスキルの真価だと知ると同時に、俺は彼女を受け止めた。

 それでも反動で少し浮き、少女は短く悲鳴を漏らす。

 それも、乙女が漏らしてはいけないような情けない部類の声を。


「……え? わたし、何でこんな所に……さっきまで廊下を歩いていた筈なのに……」


 ギュッと瞑られた目は暫く開かず、開けた時、空に現れた彼女は周りをキョロキョロと確認した。


「……って、あっ! ご、ごめんなさーーっ、申し訳ございませんっ! ……え、えっと……ありがとうございます。ですので申し上げにくいのですが……そろそろ下ろして頂けないでしょうか……!?」


 最後に顔を前に向け、俺の顔を見るや否や、早々に訴え掛けてくる。

 視線は忙しなく動き回り、一点に留まらない。それだけじゃなく、顔全面が赤く染まっていた。


「……」


 仕方ない、下ろすか。

 流石にお姫様抱っこはやり過ぎた。

 元はと言えば、俺が願ったのが原因なんだし。とは言っても、人が落ちてくるとは思ってもみなかったが。


「お、お見苦しい所を見せてしまいましたね。……所で、その黒い髪は……」


 黒い靴を地面に付けると、汚れていないのに何故かパッパとエプロンを手で叩き、髪を整えてから俺の方を見てはにかむ。

 正確には、俺の上の方を。頭の天辺を。


「珍しいのか?」


「ええ、はい。わたしが探している人が丁度、黒い髪に黒い眼の人だったので……。何でも、儀式の途中に出て行ってしまったとかで……」


 ああ、アレの事か。

 それは俺だ。


「もしかして、あなたがナオヤナギ ハルヒサ様でございますか……?」


 もちろん俺だ。


 恐る恐ると言った雰囲気で尋ねてくる彼女。碧眼の瞳が震えている。

 これは多分、殆ど察されている。

 その上での一応の確認なのだろう。

 彼女は俺の顔を知らないみたいだし。


「それは人違いだよ」


 だけど、俺はこう答えるしかない。

 考えた上で|嘘をついた(騙した)。


「そ、そうでしたか……。ありがとうございます、助かりました」


 あからさまにガックリと肩を落とすと、彼女はそれだけ言うと、小走りに去っていく。


「……さて、次やるか」


 気を取り直して、石を創り出す。

 さっきので、石の使い方は分かった。

 望みを叶える、とても単純で分かりやすいスキル。

 なんでもありなチートと聞いて、使い道の幅が広がらないはずが無いのだから。


 俺はまた木にもたれかかり、ひっそりと勉強に勤しむのだった。






 ^Y^Y^






 紅から黄金色(・・・)へと変わった宝石に太陽の光に当ててみる。

 いつの間にか中心の濁りは無くなり、その影響で日光はそのまま芝生を照らした。

 コレは興味本位で願った望みの結果だ。


 ……やっちまった。

 治らない。

【叶願の宝石】でも戻せない。

 利き腕じゃない分、かなりマシだが……。


「ーーやり過ぎた……」


 ステータス画面を開くと同時に、汗が頬を伝い落ちる。

 痛みは無い。

 ただ、感覚が消えただけ。

 まるで空間ごと消されたように、そのままポッカリと無くなっていた。











 ──────────────────



 《ステータス》


 名前:尚柳 悠久

 性別:男

 年齢:17


 体力:C

 魔力:

 筋力:C

 俊敏:C

 運力:


 〈スキル〉

【叶願の宝石 Lv.-】

【ステータス Lv.-】

【言語自動翻訳 Lv.-】


 〈称号〉

【異世界人】

【勇者の巻き添え】

【代償払いし超越者】


 〈スキル詳細〉

【叶願の宝石 Lv.-】


 Lv.-:[効果追加]払う代償を()にする。



 ──────────────────


読んで頂き、ありがとうございました(´∇`)

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