彼との出会い
始まりは、大学の中間レポートだった。
芸術やら美術館やらの講義で、中間レポートとして「美術館に行って来い」というものだった。
「美術館に行って来い」というのは、私の大学では日常茶飯事だ。
とはいえ、予定が詰まっている時期にひどい課題を出された。
私は結局提出日の前日に、他の講義を切って、上野の美術館に出かけた。そうでないと閉館してしまうからだ。前から行きたいと思っており、講義でも盛んに取り上げられた、ルネサンスの終わりの頃に活躍した画家の企画展に向かった。
そこで私は「彼」に出会った。
彼の名は「洗礼者ヨハネ」。あのイエスキリストに洗礼をしたという、いわば相当すごい人だ。
彼は半裸で体を半分おこし、まさに寝起きといったけだるい様子を見せていた。
髪は茶色で、くしゃくしゃ。そのせいで、目元はよく見えない。
筋肉がついていそうであまりついていない体つき。細いけれど細くはない。
妙に突き出た乳首と乱れた髪がなんともいえない色気を出していた。
その憂いに満ちた顔が一層私を惹きつけた。
私は「彼」を何度も振り返った。
なぜかって?
彼は展覧会の目玉の作品の一つ。さらにその次には彼以上の呼び物である、世界初公開の絵があり、一番の人だかりができていたのだ。
他のどの作品を見ても、彼のことが忘れられなかった。どれも素晴らしい作品であったが、足早に通り過ぎてしまった。
私は妙な胸の高鳴りを感じながら、企画展を後にした。