2話 ~腐れ縁と自動販売機~
「――先生?夏川先生?夏川先生!」
「え?・・・はい?、あぁハイ」
「なにがハイなの?」
「え、いえ・・・」
「だいじょうぶ?なんだかぼ~っとしてたけど緊張してる?」
「いえ、だいじょうぶです。すみません」
天使に奪われた夏川の意識がアダルトな呼びかけで現実に帰ってきた。
「そう、ならいいけど。しっかりしてね、今日から先生なんだから」
「はい」
「春風、昼休みに夏川先生に校内を案内してあげて」
「はい、わかりました」
2時間目の授業を終えた夏川は次の授業の準備のために職員室に戻る途中で村井にあった。夏川と村井は小学校からの腐れ縁で同じ大学に通っており、腐れ縁らしく仲良く同じ高校へ教育実習に出されたという訳だ。形だけでも様になっている夏川と比べて、村井はスーツを着ても学生らしさが漂っていた。
「よっ!」
「おー村井。どうだった?」
「もちろん。挨拶一発目で爆笑の渦よ。俺が全国のお茶の間を賑わす日もそう遠くないなこりゃ」
「おまえはなにをめざしているんだ…」
「ぬははは。で、おまえのほうはどうだったよ?かわいい子いた?」
「おまえなぁ・・・相手は高校生だぞ」
『学級委員の春風海咲です』
村井の言葉に、夏川の頭の中に海咲の姿がよぎった。
(なんで、あいつがでてくるんだ)
「まっ、そうだよな~、制服も捨てがたいっちゃ捨てがたいが、やはりここは大人の魅力に走るべきだと俺は思うわけよ。いや別に子供の相手が嫌ってわけじゃないが、大人には大人の恋愛ってもんがあるというか、相手が年下じゃプライドが邪魔してできないことがあるというか」
村田が自分の恋愛論を語っているが、夏川の耳にそれは届いておらず、海咲の事を思い浮かべた自分への疑問にふけていた。
「おまえもそう思うよな?」
「あ?あぁ(聞いてなかった、こいつ何言ってたんだ?)」
「そこでだ!ほら」
「ん?」
村井は向かいの校舎を指差す。
「あそこだよ、あそこ」
「あぁ、2年E組の・・・」
「そう!2年E組の」
「熊虎大門先生」
「そうそうそう熊虎先生。あのたくましい腕に抱きしめられたらと思うと僕もう…ってコラ!ちゃうわボケ!なんであんなイエティみたいなおっさん相手にせにゃならんのや。ってなんで俺大阪弁やねん!その後ろだよ後ろ」
「あぁ、俺たちと同じ今日から教育実習の」
「そう、2年E組教育実習生の美和先生だ」
「いや、おまえが年上がどうのって言うから」
「ふっふっふ、甘いな、甘いぞ夏川好樹」
「いちいちフルネームで呼ぶな」
「彼女はな、院生なんだよ」
「ほー、大学院か」
「そっ、年上なんだよ。そして身長167cm、バスト86、ウエスト58、ヒップ84cmのグラビアモデル顔負けのナイスバディ」
「おまえ、どっからそんな情報仕入れてくるんだ・・・」
「そいつぁ企業秘密だ。ちなみにおまえのクラス担任の真木先生のデータもあるぞ。一見平均的な体型に見えるが実はかなり着やせするタイプでそのお腹周りはなんと、いてっ!なにするんだよ?!」
村井が啖呵を切りながら振り返る。そこには手のひらで出席簿を鳴らす真木先生が立っていた。
「げっ…」
「村井くん、だったかしら?ちょっとお話があるからふたりっきりで話せる場所へいきましょうか」
丁寧な口調とは裏腹に親指を立てて生徒指導室を指し示す。その手はさながら地獄への案内板に見えた。
「い、いえ。せっかくですけど、遠慮しときます」
「あら、女性からお誘いしてるのに、レディに恥かかせるの?」
「そういうわけじゃないんですけど・・・次の授業があるので!しつれいしまーす」
村井は駆け足でその場を立ち去る。昔から逃げ足は人一倍速かった。
「あ、こら待ちなさい!もう、失礼しちゃうわ」
「すみません、昔からああいうやつで」
「同じ大学なんだっけ?二人」
「はい、小学校の頃から、腐れ縁ってやつですかね。悪いやつじゃないんですけど」
「生徒とはすぐ馴染みそうなタイプよね」
「はは、確かに。中身がガキのまんまですからね」
「夏川先生、次の授業の準備できでる?」
「はい、すぐに出れます」
「次が終われば4時間目は授業ないしゆっくりお昼休みできるわね、それじゃいきましょうか」
「はい、お願いします」
夏川は村井に緩められた気を改めて引き締め、午前中最後の授業に向かった。
4限目終了のチャイムがなる。それは同時に生徒皆が待ち望む憩いの時間、昼休みを知らせるチャイムでもある。窮屈な授業から解放された生徒たちは昼食や談笑と各々の過ごし方をしている。そんななか、4時間も自分たちを縛り付けていた元凶たる教師の巣窟、職員室にすすんで足を運ぶ女子生徒の姿があった。
「しつれいしまーす。2年C組の春風海咲です。夏川先生いらっしゃいますか?」
扉を開け、礼儀正しく決められた挨拶で用件を伝える海咲。しかしその問いに返事はなく――というより教師にとっても羽を伸ばせる時間であろう昼休みだというのにそこは異様に静寂していた。
(あれ、誰もいない・・・のかな)
恐る恐る中の様子を伺う海咲、室内に集中するあまり背後にじわりじわりと這い寄る影に気付いてはいなかった。
「わっ!」
「ひゃい?!!!!!」
後ろから迫っていたのは夏川と同じく教育実習にきている村井だった。
突然の出来事に距離をとって警戒する海咲、当然の行動である。
「な……なんですか?」
「ぷ…あははははははは―――」
「え…え?……」
「――はははっ、ふぅ、いやごめんごめん。困った顔して突っ立ってるもんだからつい」
「はぁ…」
「俺は村井、教育実習生だ。で、君は職員室になにか用かい?」
「あの、夏川先生に用があってきたんですけど先生たちいらっしゃらないんですか?」
「先生達ならどっかで集会やってるみたいだけど、夏川って実習生の?実習生は参加じゃないしー…あぁほら、あそこに」
「あ、ほんとだ。夏川先生」
「あ?あいつ寝てんのか?」
村井は夏川に乱暴に呼びかける。が、夏川が目を覚ます気配はない。
「なっちゃん、おいなっちゃーん。お客さんだぞ~」
「夏川先生?」
「ん・・・・うん~・・・」
小さく息を漏らして少し身体を動かしたが、起きたわけではないようだ。
(ふふ、かわいい寝顔、子供みたい・・・やだ私、なに考えてるのかしら)
「全然起きねぇ・・・しょうがねぇなぁ。こんなときは・・・・ヌフフフ」
村井はあくどい笑顔で机のマジック手に取る。
「え、先生もしかして・・・」
「いいからいいから、〜〜♪」
鼻歌交じりに夏川の顔面をキャンパスにした村井の芸術は順調に筆を進める。
「やっぱ定番は額に肉、これだよなぁ・・・で、こうやってこうやって~っと〜〜〜」
「え・・・あ・・・ちょっと・・・・だ、だめですよ。そんなことしたらっ。うくふっ」
海咲は村井の悪行に静止の説得をかけるが、その作品を見て吹き出さずにはいられなかった。
「ふっっ、せん・・・せんせ・・・くっ・それ・・・それ油性じゃないですか」
「よし、我ながら力作だな」
「ん・・・・・ん?」
「あ、起きた。じゃあハイ、これ」
「え?」
村井はマジックを海咲に手渡す。村井のその唐突さと迅速さに海咲はただただ流されるがままだった。
「はーい、こっちむいて~」
「はい?」
「ほら~、もっとしっかりマジック構えて」
「え・・・えと、こうですか?」
「そうそうそういいね~いいね~。はい笑って笑って~、はいっバターっ」
カシャリとカメラのシャッター音を模した電子音が携帯から響く。
「うし!ベストアングル。ほんじゃま、あとよろしこ」
「え・・・えぇ!ちょっとこれ、先生!」
「ばいばいき~ん!」
「ちょっと・・・まっ」
海咲の声も虚しく、村井はすでに遠くへ行ってしまっていた。さすが逃げ足No.1の男である
「んぁ・・・・おまえ・・・うちのクラスの・・・・春風」
「はいっ!」
驚きと混乱から普段の彼女からは似つかない元気のいい返事が飛び出す。
「どうした?マジックなんか持って」
「えっ!・・・・いえ・・・・これはその~・・・・な、なんでもありません、あははははは…はは…」
「そうか……ふぁ~ぅ…で、なんか用か?」
夏川はあくびまじりに用件を伺う。
「あのっ・・・えと」
「んあっ、なんかシンナーくせぇ。・・・・げ、なんだこれ。手がすげぇ汚れてる」
「先生・・・・あの、くく、手じゃなくて・・・・その」
「ん?なんだ?」
「あの・・・その・・・はっ、あはははははははーーー」
「???」
海咲は体を震わせながらも懸命に笑いをこらえて、ありのままの事実を端的に伝えようとしたが、生理現象には打ち勝てずその努力は実らなかった。
廊下の洗面所、夏川は顔を洗い流している。
「はい先生、タオル」
「ん………ふぅ、どうだ?」
「はい、もう大丈夫です」
「ったく村井のやろう」
夏川は蛇口を閉めながら愚痴をこぼす。
「あいつは加減ってもんを知らんのか」
「仲いいんですか?」
「あいつとはただの腐れ縁だ。小学校以来の」
「そんなに長い付き合いなんですね」
「高校は別だったんだけどな。大学でまた一緒になっちまって、まさかあいつも教職課程を取るとは・・・。あ、おまえ、なんか俺に用だったんじゃないのか?」
「あっはい、昼休みに約束してたので」
「約束?俺と?」
「はい、学校を案内するって」
「学校案内?あぁ~・・・そういえばそうだったような」
「もしかして、忘れてました?」
「えっ、いや、そんなことはないぞ。ははっ、うん、そんなこと全然ない」
「じ~~~~~~~~」
「な・・・なんだよ」
「忘れてましたね?」
「ち、ちゃんと覚えてたぞ?」
「顔に書いてありますよ」
「落書きなら洗い落としたばかりだ」
「まだ残ってます」
「えっ、うそっ?!どこっ?!」
「ふふっ、冗談です」
「なっ」
嘘つきさんに優しいお仕置きを返した海咲は微笑みながら軽く駆け出し、夏川を先導する。
「いきましょう、学校案内」
「あ、あぁ」
その何気ない純粋な仕草に、夏川はきらきらと輝く天使の姿を重ねていた。
「これで校舎内の施設はだいたい回ったと思います。なにかわからないこととかありましたか?」
「いや、だいじょうぶだ」
「あと、あそこが体育館と運動部の部室棟、ここからは見えないけど校舎の反対側に道場や売店なんかもありますので」
「おぅ、わかった。悪いな、俺のために昼休み潰させちゃって」
「いえ、かまいませんよ。わたしも先生とお話できて楽しかったですし」
「そうか、それならいいんだが」
このまま何もなしに海咲を帰してしまうのはもったいな…もとい、申し訳ないと考えていた夏川の目に壁沿いに並んでいる自動販売機が留まった。
「そうだ、まだ時間もあるしジュースでも飲んでいかないか?おごってやるよ」
「えっ、いえそんないいですよ。悪いです」
「まぁまぁ遠慮すんなって。付き合ってもらったお礼だ」
「そんな、大したことしてないですよ」
「いいっていいって、俺がそうしたいんだ。もらってくれ」
「ほんとに、いいんですか?」
「あぁ、なんでも好きなの選べよ」
「それじゃあお言葉に甘えて。ん~……どれにしようかな~」
「なんでもいいぞ。さて、俺はなににするかな。ん~…ん?なぁ春風、この自販機…なんか怪しげなジュースばっかり並んでる気がするんだが…」
生まれてこのかた見たことも聞いたこともない、それどころか普通なら絶対思いつかないような危険な香りしかしない味や、名前から全く味の想像のつかない物ばかりが並んでいる。これはジュースではなく、化学薬品の自動販売機なのではないかと目を疑いたくなるラインナップだ。
「えぇ、今は創作ジュースコンテストの期間ですから」
「そーさくジュース…コンテスト?」
「はい、それぞれの部活がオリジナルのジュースを作って校内で販売するんです」
「そんなイベントあるのか。今月の学校行事は一応全部目を通したつもりだったが…」
「うちの学校、行事予定には載ってない、いつ始まっていつ終わったかもわかんないような裏イベントが多いんです。このジュースコンテストもどれだけの生徒が知っていることか」
「それ、やる意味あるのか?にしてもこのジュース達、人が飲んで大丈夫なものなのか……?」
「この自動販売機は科学調理部と魔術料理研究部の商品みたいですね」
「なんか…いかにもな部活だな。なんなら別の自販機で買ってもーー」
「ぁ私これにします」
海咲を気遣ってというよりは自分の命を心配して場所の変更を所望する夏川を横目に海咲は怖気ずく様子もなく平然とその中の1本を指差す。
「飲むのかよ!・・・まぁ、死にはしないだろうし試してみるのも一興か。・・・ん?」
夏川はポケットを探るがそこにあるべき感触がない。
「おかしいなぁ・・・どこにやったかな」
全身のポケットをくまなく確認するが、やはり探し物はどこにも見当たらない。
「どうかしました?」
「いや~…あ~…やっぱないかぁ。財布、職員室に置いてきたみたいだ。わりぃ、今度絶対おごるから。ほんとごめんな」
謝る夏川の姿を見て海咲はくすりと笑いを漏らす。
「な、なんだよ」
「いえ、なんでもないです。ふふっ」
「俺のこと、かっこわるいやつだなとか思ってんだろ」
「そんなことないですよ。それじゃあ今日は私がおごります」
「そんな、先生が生徒におごってもらうなんて」
「いいからいいから」
「いや、でもー」
「次はちゃんと先生がおごってくださいね・・・・・・ん?」
「ん?」
海咲はポケットを探るがそこにあるべき感触がない。
「あれ…私も財布、教室に忘れてきちゃったみたいです」
「………ふっ!くくく――」
「もう、笑わないでくださいよぉ。…ふふ、あははははは――」
「ははは、だって」
お互い共通の抜け目になんだかおかしくなって二人はしばらく笑っていた。
そんな2人をたまたま通りかかって目撃した者がここに、バカップル(♂)の剣谷とK・Y・Oこと佐田である。
「あ、あれ。教育実習の夏川先生と海咲ちゃんだ」
「ほんとだ、そういえば昼休みに学校を案内するって言ってたな。ん?あの二人の雰囲気…これは」
「暇だしついてこうぜ」
「いや待て。ここは邪魔しないほうが」
「おーい、海咲ちゃーん」
「っておい!、・・・聞けよ人の話」
察し良くなにかに気付いた剣谷の静止などには耳を貸さず、佐田は餌でも見つけた犬のように2人の方へ向かっていく。
「はははっ…ふぅ、しょうがない。こうなったら奥の手だ。春風、ちょっと下がってろ」
「なにするんですか」
「こうすんだーーよっ!」
気合の入った一声と共に自動販売機に脚を振りかぶる夏川。なんの罪もない自販機を夏川の蹴りが襲う。自販機は為すすべなくその暴力に屈し、大切な商品を吐き出してしまう。
「お、でたでた。」
「先生、な、なにしてるんですか?!」
「なっ☆」
夏川は戦利品を取り出し口から引き出し、茶目っ気を含んで笑ってみせた。
「なっ☆・・・じゃないですよ!」
「かたいなぁ。これぐらいみんなやるだろ?」
「やりません!見たことも聞いたこともありません」
「そら、もう一本っーーと!」
夏川は再び 自動販売機に足を叩きつける。しかし自販機もこれ以上奪われてはなるまいと必死に耐える。
「あれ、でないなぁ。ねじり込む様に蹴るべし!蹴るべし!明日のために!」
「先生やめてください、怒られちゃいますよ」
何度も蹴りをいれる夏川、海咲は共犯であるかのような心境もあって気が気ではない。目の前の出来事に混乱しながら必死に静止をかける他なかった。その声に御構い無しに攻撃を続ける夏川には少し疲労が見えてきた。
「はぁ、はぁ、なかなかしぶといなぁ。ならばこれならどうだ。はああああああああああああーーー」
夏川は腰を下ろし、脇を締めて気合を溜め始める。全身を闘気のオーラが包み込み、上半身の服は裂け、あたりに烈風が舞う―――ようなエフェクトが見えてきそうなくらい本気の様相だ。
「ほわたぁぁぁぁ!!!」
これ以上ない渾身の回し蹴りが炸裂する。刹那、自販機はスロットマシンのジャックポットを引き当てたかの如く、けたたましい警報音と共に大量のジュースと釣り銭を吐き出し始めた。
「うわっやべっ」
「えっなにっ!どうなったのっ!」
これには流石の夏川も焦りを覚える。ただでさえパニック状態にあった海咲は突如として喧騒に包まれたこの状況にもはや思考回路は完全にショートしている。そしてその背後には、そんな異常事態をものともせずにこちらへ近づいてくる佐田、遠慮していた剣谷もこの騒ぎに駆け寄ってくる。
「海咲ちゃ~ん!夏川せんせーー!」
「あいつら、うちのクラスの」
「佐田君、剣谷君」
「うわっ、どうしたのこれ」
「えとえとその、ち、違うの、これはその、先生がガンガンやったらダーッってなってそれでそれで――」
「逃げるぞ春風」
夏川は、煙を上げた頭で必死に弁解している海咲の手を掴んで駆け出す。
「わっ、ちょっと先生」
「走るぞ、転ぶなよ」
手を握られて走る海咲は不思議な胸の高鳴りを感じていた。自分の胸の中で何かが揺れ動いた気がした。ずっとずっと心の奥深く。走ってるせいでも、自動販売機を壊して驚いているせいでもない。他とは違う初めての感覚だった。
「あっ!ちょ!先生これっ!」
「おまえらにやるよ」
「うわー、すげぇすげぇ!ジュースもお金もめっちゃ出てる!」
「ばかっ!俺たちも逃げるぞ!」
事態を的確に見極めた剣谷はすでに撤退を開始していた。しかし佐田は目の前の惨事に目を輝かせていた。
「え?なんで?おい剣谷待てって!おまえも手伝えよ!うわ~すっげ、マジすっげぇ!」
「佐田君?なにしてるのかしら?」
「あ、真木先生」
襟を捕まれ廊下を引っ張られる佐田。至極真っ当な弁解を立ててはいるが、状況証拠が強すぎてどうにも聞き入れてもらえない様子だ。未だ掴んで離さないジュースもそれを助長しているようである。
「まったく、信じられないわ。最近の子はなに考えてるのかしら」
「あの・・・先生、首襟ひっぱるのやめてもらえないでしょうか?」
「だめよ~、逃げられたら困るもの」
「逃げませんよ。っていうか俺、なにもしてないんスけど」
「はいはい、話は生徒指導室でじっくり聞いてもらってね」
「えと…、ジュース、いりませんか?」
「それは指導室にいる先生たちに配ったらいいんじゃないかしら。今日はね、すごいわよ~。先生達、教科別に集まって会議してたから。」
「はい?」
真木先生は満面の笑みで淡々と話す。
「生徒指導室、体育の先生と生活指導の先生がみんな集まってらっしゃるわよ。あなた、ついてるわね」
「えっ!ちょっと先生!ストップ!たんまたんま!」
「しっかりお灸すえてもらってきなさい」
「だ~か~ら~!俺じゃないんですって~!」