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大同小異

 「助けてくれ……頼むから助けて……」


 その助けを求める男の声は暗闇の奥からそっと聞こえてきた。その声は衰弱しており、今の言葉が男にとっての最後の言葉であるように聞こえた。

 すると、二つの眩しい無影灯が手術台のような物に仰向きになっている人を照らした。きっと、この人がさっきの声の正体だろう、と俺は思った。その男の手足はガッシリと台に拘束されており、顔は見えなくともあの弱った声からは男がどれだけ弱っているかは手に取るように分かった。


 また俺は困惑していた。なぜ俺はこんなところに突っ立っているのかと。ガスマスクの男を殺すと誓った瞬間に目の前が真っ暗になって、意識がとんだんだはずなのになぜ俺はここにいるのかと。


 そんな事を考えていると、仰向けになっている男の横に白衣をまとい、あのガスマスクの男と同じマスクを被った二人組みが歩いてきた。

 不思議なことに二人組みは俺に見向きもしなかった。

 そして、その二人組みは腕時計見ながら仰向けの人に向かいこう言った。


 「午後1時30分、これより新薬ナンバー24の実験を始める」


 俺はこの手術室に漂う妙な雰囲気に取り込まれており、体を動かすことはおろか、無意識のうちに息をする音は静かになっていた。


 二人組みはポケットから出した半透明のゴム手袋を両手にはめはじめ、実験を始める準備をした。

 そして、一人は注射器を持ち、一人は白く濁った液体の入った小さな瓶を持った。注射器に液体が入っていくのがあの男にも分かったのか、男は台の上で最後の力を振り絞ったように暴れだした。

 だが、二人組みはそれを見ているだけで何もしようとはしなかった。なぜなら目の前にいる男はすぐに暴れる力を失うのが分かっていたからである。

 

 やがて男は暴れるのを止めた。そして、部屋にはまた静寂が戻り、その静寂がより一層二人組みの怪しさを増大させていった。


 それと同時に瓶を持っていた一人はアルコールが染みた綿で男の細い右腕の皮膚を拭き、もう一人はその後に注射器をゆっくりと腕に刺し、液体を男の体内へと入れていくのだった。

 注射をする最中も静けさは変わることはなかった。聞こえたとすれば無影灯の小さなジリジリという音と、二人組みの単調な呼吸音と男の荒い息の音だけだ。


 注射器の中にある液体を全て体に入れ終わると男の呼吸は静かになっていった。だが、数秒もしないうちにその男の手足には太く、茶色に近い色の血管が浮かび上がってきていた。

 そして、その人が苦しんだかと思うと、すぐにまた大人しくなった。今度は呼吸の音をたてないで。


 「これより実験を終了する。王には新薬ナンバー24は失敗したと伝えといてくれ」

 注射器を持った一人は空になった注射器を手術台の横に置きながら、もう一人の方にそう言った。


 「分かりました。 お勤めご苦労様でした」

 「また失敗か……王はきっと開発班の誰かをまた殺すだろうな」

 「気の毒ですがそうでしょうね」


 そう言いながら二人組みは無影灯が照らせない暗闇の奥へと消えていった。


 俺には訳が分からなかった。目の前で起こったこと全てが。

 新薬? 開発班? 実験? 王?

 どの言葉にも俺の頭には思い当たる節はなかった。

 

 そして、あの二人が見えなくなったと思うと、急に体が動くようになった。

 俺は何も考えずに手術台に向かって歩いていた。手術台に近付くにつれて俺の目にはやけに細い体が入り、いたるところに体罰を受けたような傷が見つけられた。

 そうして、顔にはいつ、誰が乗せたかも分からぬ白い布が被せられていた。


 俺は知りたくなった。どんな顔をしているのかを。ただの探究心というやつだ。誰にでもある。

 

 そして、俺は白い布を恐る恐るめくった。そして当惑した。


 「なんでお前が死んでるんだよ……わけがわからねえ」


 そこにいたのは俺だった。上杉陸。白目をむき、紫色の唇を持った俺がそこにはいた。

 本当に朝からわけのわからないことばかり起きている。


 「うああああああああああああ」


 俺は叫んでいた。何で叫んだのかは分からない。だが、ただ叫びたかったのだ。このわけのわからない状況を必死で否定しようとするために。

まだまだ続きます!

ここまで読んでくださってる皆さん、誤字や変な文章を見つけたら教えていただけると幸いです。

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