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寡頭政治

 2057年11月25日の朝は非常災難時に鳴るアラームの音で俺の目は覚めた。頭痛を引き出させるこの音はいつ聞いても不快だった。ましてや、こんなアラームを朝に聞かされるとなると、不快なんて言葉じゃ例えられないくらい気分が悪くなる。

 

 俺の右手には夜に読んでいた本が握られていた。

 本を読んだまま寝てしまったのか。随分と疲れていたし、仕方がないことだ。


 「おい、アラームを止めてくれ。聞いてるのか?」


 俺は管理システムにこのうざったらしいアラームを止めるように怒鳴った。だが、反応はなかった。非常事態の状況でも反応を見せるはずの管理システムは黙ったままだったのだ。


 すると、俺の首筋に電流が走った。静電気のような感じではなく、何か他のものであった。

 それと同時に騒がしかったアラームは止まり、部屋の壁には昨日あの平地で演説をしたガスマスクの男が映っていた。

 男が視界に入った瞬間、さっきまでの眠気はどこかへと飛んでいった。


 「おはよう! いい天気だな! さきほどのアラームと電流で起きれなかった人はいなかっただろう。もし、起きてないならきっと気絶しているか死んでいるかだ」


 男は楽しげに言った。


 「そんなことはどうでもいいんだ! 死んでしまった人間の話をしても意味がないのだから! 今からする話はもっと大切な話だ」


 顔は見えなくとも男が真剣になったということはなんとなく分かった。


 「まず自己紹介をさせてもらおう。君たち日本人の王となったフォーだ。そして、俺達はこの世界を5つの領土に分けた。一つは私のアジア。一つはスリーが支配するヨーロッパ。一つはファイブが支配するアフリカ。一つはツーが支配する南アメリカ。そして、もう一つがワンが支配するアメリカだ」


 俺は男が何を言っているのかが理解できなかった。世界を支配? 日本だけじゃないのか?

 これはきっと今生きている世界中の人が思っていることだろう。


 「そして、私たちアジアに与えられた使命は新薬の実験、武器の開発、そして食料の生産だ。反抗しようとはしないことだ。いつでも私たちは君たちを監視し、支配している。殺すことも簡単だ。だから、変な行動をして、その一つしかない大事な命を守ってほしい」


 「よくそんな事が言えるな……」


 俺は男の命を守るという発言に吐き気が沸いた。よくこんな善人ぶった事が言える、と。


 「30分後に君たちの腕にそれから何をすべきかが出るはずだ。朝ごはんや着替えなどをして、優雅な朝を過ごしたまえ」


 そう言うと映像は消え、部屋には静けさが戻った。

 俺はベッドから降りると、洗面所へと足を動かした。普段は眠気が残っているが、今日はあいつのおかげで目が覚めていた。しっかりと昨日のことも覚えている。

 

 「今朝は奥様が朝ご飯をご用意されてないのですが、どうしたらいいでしょうか?」


 そうか。母さんは結局帰ってこなかったのか……

 心の底では分かっていたことだ。それほど驚きもしない。

 涙はもう出なかった。体に水分が残っていないのだろうか。胸が張り裂けるように痛くとも、俺の目からは一滴もこぼれ落ちてこなかった。


 「適当に……作ってくれ」


 俺は胸に右手を当てながら言った。

 これで身内も、友達もいなくなった。何が起こっているかも不明なこの世の中で俺は一人になってしまったのだ。零子さんや新城さんは昨日初めて会ったばかりだ。次にいつ会えるかも分からない。

 

 俺は冷たい水で歯を磨き、顔を洗った。こんな酷い朝でもこれは変わらない。


 あんなことが起きなければ、いつも通り学校に行けたのに。つまらなくても、皆がいた学校に。

 こう思うのは何回目だろうか。もう戻ってこないのだ。何をしても、どう足掻いても。


 リビングに着くと、味噌汁と白米が机に並べられていた。

 俺は椅子に座り、コップに注いであった水を一気に飲み干し、喉を潤した。乾いた体に水分が行き渡るのを感じると共に、俺は箸を白米へと動かした。


 時計は8時15分を表示していた。あと5分程で30分が経つ。

 俺は一言も喋らずに箸を動かし続けた。


 8時21分。俺は周りを見回したが何が起こるわけでもなかった。電流も走らなければ、映像も映らない。

 俺は箸をご飯へと戻そうとしたとき、それは表示されていた。


 新薬。


 そう俺の腕には大きな文字で書かれていた。

誤字や変な文章、アドバイスがありましたら教えてもらえると幸いです!

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