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暗中模索

 俺は風呂を出た。出たとき、体と心は燃えるように熱かった。体の奥底から常に高温の蒸気が出ているような感覚で、弱気になっていた心は引き締まったように感じられた。

 これも風呂の持つ効果なのだろう。


 脱衣部屋には管理システムが毎回パジャマを用意してくれる。綺麗に畳んであってご苦労なことだ。

 俺はそう思いながら黒いバスタオルで体全身を拭き、パジャマを着る。そして、ドライヤーで髪を乾かす。この一連の動作は目で見なくても出来るほどになっていた。気付くともう全てが完璧に終わっているのである。慣れというのは時に恐ろしく感じられる。


 脱衣部屋から出ると、管理システムは言った。


 「晩ご飯の準備が出来ました。冷めないうちにお召し上がりください」


 食べ物の味を一切知らない機械でもプログラムに書き込んであれば、それに従い、言うしかないのだ。冷めないうちにお召し上がりください、と。


 「ああ、ありがとう」


 俺は心がなくともいつでもご飯を作ってくれる管理システムに礼を言う。これもまた慣れというやつで何も考えずにそう反応してしまう。まあ、その礼に対してのプログラムがないのか、いつも何も言ってこないのだが。他の言葉は普通に喋れるのに不思議なことだ。


 リビングに行くとテーブルの上には美味しそうな食べ物たちがお腹を空かせる匂いを放っていた。考えてみると朝から俺は何も食べていない。そう思うだけでお腹がものすごい勢いで空いてくる。

 

 「腹が減っては戦は出来ぬって言うしな」


 そんな言葉が頭に浮かび、俺は木製の椅子に座った。

 テーブルの上には茶碗一杯分の白米、納豆、味噌汁、もうすぐ旬に近いぶりの塩焼き、きゅうりの漬物が並べられていた。

 それは俺の大好物の和食であった。特に油ののった鰤は疲れた体に活気を取り戻させてくれる。まさに今、この瞬間に食べたいものの一つであった。

 

 「機械といっても心は読めるみたいだな……」

 「いえ、帰ってきた陸様の体調が優れない様子だったので、陸様の好物の鰤を調理させていただきました」

 「鰤は冷蔵庫に入ってたのか?」

 「はい。奥様が買ってきていたと思われます。奥様の分も取っておいてあるのでご安心を」


 壁に表示してある時計は午後の8時を表示していた。俺が帰ってきてから一時間近くが経過していた。そして、依然に母さんは家に帰ってきていない。

 きっと、もう……

 いや、母さんはきっと大丈夫だ。俺はそう信じながら箸を動かした。

 

 ご飯の味はいつもと何も変わらなかった。塩っ辛くもなく、味が薄いわけでもない。完璧な味付けと盛り付け。今日がこの時間だけだったら幸せだったのに。学校に行かずにただ寝ぼけていたら何の異変にも気付かなかっただろう。


 「何でお前は俺を毎朝起こしてくれるんだ?」


 俺は管理システムにわけのわからない質問を聞いた。


 「午前の6時30分に起こすように設定されているからです。設定を変更いたしましょうか?」


 やはり人のように感情的な答えは返ってはこなかった。


 「いや、そのままで……やっぱり明日は朝の8時に起こしてくれ。今日は疲れてるんだ」

 「承知いたしました」


 これからは学校へと行く必要もないのに、6時30分に起きようと思う人はどこにもいないと思う。ましてや、今日は普通の平日の何倍も体力を使った気がする。今後のためにも今日だけはぐっすり眠りたい。


 「ごちそうさま」

 「食器を片付けさせていただきます。テレビをお点けましょうか?」

 「点けなくていいよ」


 今更テレビ局が正常に運営しているとは思えなかった。あの平地には多くの人が集まっていたし、その中には俺のような未成年だけではなかった。むしろ大人のほうが多かったかもしれない……


 「ちょっと俺の部屋にこもるから話しかけてこないでくれ」

 「承知いたしました」


 俺は二階にある自分専用の部屋へと向かった。

 部屋の中はシンプルで勉強机、ベッド、本棚、タンス、フローリングの床にはこれまでに作ってきた電子工作が散らばっていた。よく毎朝これを避けながら起きられるものだ。

 床に散らばっていた物の中にはこれまでに大会で優勝した作品の試作品もあったが、どれもが中学生の時に作ったものばかりだ。そして、中学を卒業して1年半経った今でも片付けられていない。

 とにもかくにも、この物で溢れた部屋を綺麗にしない限りは作業に取り掛かれない……


 「そうだ。前もこんなことがあって作ったよな。作ったその日は満足感と疲労で寝てしまって、それから使うのを忘れてたけど……」


 運よくそれは床の上ではなく、勉強机の上にあった。


 それというのは小型の片付けロボットであった。片付けロボットというのは俺が生まれる前から市販で売られているものだったが自分で作るほうが楽しいし、安い。もちろん俺が物を片付けるのを面倒がっていたということもあるが、そんな理由もこのロボットを作ろうと思ったきっかけであったと思う。


 この片付けロボットはカメラから物をとらえて、その大きさを判断して決められた箱に入れるという簡単な仕掛けのロボットだ。

 

 「名前は……」


 初めて使うが動かし方は覚えていた。俺は片付けロボットの裏にペンで書かれた名前を呼び、部屋の隅にあった3つの空の箱に入れるようにと命令した。


 「分かりました」

 「分かりました」

 「分かりました」


 そうだ。3体作っといたんだった。

 床にあった残り二つがゴソゴソと動き出し、周りの物を見始めた。


 「まあ、10分もあれば全部片付けられるだろう」


 俺はその間に本棚にあった電子工作の本を手に取り、ベッドに寝転がり、読み始めた。俺に出来ることといったらこれくらいしかないのだ。

 だが、どの本にも武器になったり、人を殺せるようなものは載っていなかった。

 それもそのはずだ。電子工作はどんな形であっても人を助けるものなのだから。昔の発明者達はどうやって形もないものを作ってきたのだろうか……

 中学生の頃まで俺は本やネットなどから得た情報を元に作品を作っていた。だが、今回はゼロからのスタートだ。今までにないスピードと破壊力をもった武器を作らなければいけない。銃よりも早く、日本刀よりも破壊力のあるものを。


 それにしても騒がしいな……

 俺は気になりベッドの下を覗いた。


 「おいおい!」


 ベッドの下で3体の片付けロボットが他の2体を箱に入れようとしていたのだ。初めて使うやつはこういう事が多々起こるんだよな。特にチェックをしない俺は。


 「とりあえず3体は争わないようにしないと」


 俺は片付けロボットの電源を切り、床に置いておき、読みかけの本を読み返し始めた。

誤字や変な文字、アドバイスなどがありましたら教えてくださると幸いです。

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