街談巷説
午前6時30分、毎朝この時間になると部屋のカーテンが自分勝手に開く。俺の目元には光が飛び込み、そして二度寝する間も与えずに家の管理システムが聞いてもいないのに自ずと今日の予定を話しかけて来る。
「2057年11月24日。天気は晴れ。今日の予定は午前8時30分から午後3時45分まで……」
すぐ傍に置いてあるリモコンを叩く様に押すとうざったらしいアナウンスは喋るのを止める。
美人は3日で飽きるとはこの事か。数年前にここに引っ越してきた時には朝にこの声で起きられるなんて最高だと思っていたが、所詮は機械であり、何回も同じことを言われてはどんな綺麗な声だって飽きるに決まっている。
そんな事を冴えない頭で考えながら俺は重たい体を起こし、のろのろと洗面所へ行き、歯を磨き、顔を洗う。それが俺が決めた朝の変わらぬ順番だ。
鏡をふと見ると相変わらず寝ぼけた奴がそこにはいた。開いているのか分からない目、ボサボサの髪、まったく見ているだけで殴りたくなる。俺はこの起きてすぐの顔が親父に似ていてあまり好きではない。そして、いつからかはなるべく鏡で顔を見ないように洗っていた。
リビングに行くと透明な硝子のテーブルには一件のボイスメッセージという文字が点滅していた。俺は無意識のままに再生ボタンを押した。
「えーと、陸? 朝ごはんは冷蔵庫に入れといたからちゃんと温めて食べなさいよ。あと学校行くときに忘れず鍵は閉めとくんだよ」
母さんの声がリビングに鳴り響いた。
母さんは毎日出勤前に忘れずに朝ごはんを作ってくれる。ありがたいことだ。また、それが美味いってのも一日の元気になるってものだ。
「テレビをお点けしますがどれにしましょう」
「ニュースでいいよ」
俺は低い小さな声で答えた。
正直言うとテレビなんてものはもう必要のないものだった。なぜなら今では至る所で色々な情報が見られる。眼鏡、手のひらの上、どこかの壁でさえも情報を得られるのだ。だから一々スクリーンの前に座って見るなど時間の無駄でしかないのだ。また、ニュースといってもくだらない事をキャスター達がオーバーリアクションをしながら話ているだけだ。
「こちらは昨日から動画配信サイトで話題になっているアメリカで撮られた雷の映像です。見てください! この雷、一ヶ所に10秒も落ち続けたんですよ!」
「えー! 凄いですね!」
2人の女性キャスターが甲高い声で嘘くさい動画の説明をしていた。でもまあ、よく朝からこんな高いテンションでいられるものだ。逆に感激する。
「さらに、これだけじゃないんです。このような動画は他にもあってですね、東京、ブラジル、フランス、そしてエチオピアでもこのような動画が撮られてるんですよ!」
「えー! 凄いですね!」
この人達は本当にやる気があるのだろうか? 少し疑問になりつつ俺はチャンネルを変え、ごはんを食べることに集中した。
「午前7時35分。学校に行くお時間まであと10分です。」
管理システムがそう言うと機械の腕が朝ごはんを台所へと運び、わざわざ俺に制服とカバンを持ってきてくれた。
「はあ……」
俺は無意識にため息をついた。
今回の作品が初投稿です!この話の続きは近日また投稿しますんでお楽しみに!
誤字など見つかりましたら、教えてくださると幸いです。