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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
邪神の躍動
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81話 false@偽の救い

朱雀が最初に逃げた後、霧島とヨグの二人はお互いある事を話し合っていた。

それは彼女が持っている木刀と、その根付。

その時点で既に相手の使うものが何か分かっていた。

だからこそ彼はヨグに頼んでいた。


「偽の右腕を作ってくれ」と。


霧島の願い通り、ヨグはすぐさま触手の一本を使って彼の偽の右拳を作り出した。

それはいつだって着脱が可能な、神ができる創造の産物。

それを使って2度目の奇襲を行なったが、それは失敗に終わる。


しかし、彼は最初から自分の拳で解決する気であった。

予想通り、三度目の正直というべき場面で自身の本当の拳を使った。




-------------------------------------------------------



殴られて気を失った彼女は過去の記憶を見た。


彼女が2年前までずっといた神殿…いや、神様として外界と接触することされ禁じられ、一族の手によって閉じ込められていたあの長く忌まわしい年月。


不自由だとは思わなかった。

いや、今思えば不自由だった。


そんなことも思えないほど私は外と接触できずに、興味を持たないように育てられた。


背中が痛かった。

ずっと座っていた。


朱雀の役目は全ての亡者を天に送り返すことだ。それが、生まれついての才能であり力だった。


でも、朱雀は朱雀じゃなかった。


そこには色がない。

辛気臭い、香と匂いと色の無い精進料理。

朱雀を取り囲む環境には笑顔のある人間はいない。家族である者とも会話をしたこともない。


神聖に扱われた。

次第にそれが当然だと思えた。

寒くても暑くても、自身の身体が大きくなってきても。

当時の朱雀はそれらを感じなかった。


ただ、全ての人々を救う担い手だった。

救われない自分、そんなことも考えずに。


しかし、そんな生活に終わりが訪れる。


神殿の重い扉がひしゃげて破壊され、先に投げ入れられたのは朱雀の祖母だった。

その姿は潰れたカエルのように手足が折れ、体からは体液が溢れ出ていた。

微かに息をしていたが、次に入り込んできた柄の悪い人相と不気味なアクセサリーを首から下げる男が祖母に木箱を投げる。すると、その木箱から腕が伸びそのまま祖母を木箱に引きずり込む。


グチャグチャと音を立てる木箱。

そのまま音が無くなると宙に浮いていたそれは静かに床に落ちる。


そして、その男の背後から別の人物が顔を覗かせる。

その人物は、男のくせに化粧をし、口紅を赤く塗りたくった奇妙な男。

それには初めて感じる恐怖を感じる。


しかし、その男は優しく朱雀に微笑み、ただ手を差し伸べてきた。

何も言わない、何もしてこない。

ただここに来いと言っている。一緒に行こうと言っている。


朱雀は立ち上がって、初めて感じる恐怖に怯えながらも、未知との出会いに心が飛び跳ねる。

恐る恐る、その手が届くところまで歩く。


やっと届いたところで、その不気味で奇妙な男は顔に似合わない声で彼女に言った。


「もう、貴方を縛るものはない。でもこの諸行無常の世の中がある限りあなたに似た人が同じ目に会う。縛るルールも力も変える。その為に私と一緒に来てくれる?」


言っている意味がわからない。


でもーーーその言葉を聞いた時に初めて周りの世界が広がった。

光が、明確な光が見えた。

神以外を求める声を聞いた。


その手に引っ張られ、彼女は初めて外の世界に出た。

こうして了承した朱雀は共に動く。


連れ出してくれたニアに恩返しをする為、それ相応の非道をするため。



-----------------------------------------------------------



朱雀は目を覚ます。

目の前には真っ暗な夜空が広がっており、とても強風が吹いている。

風で髪が乱されてしまう。


「…どこ、ここ?」


「もう目覚めたのかよ、ここは近くのビルの屋上だ」


ふと口にした言葉に返答する声があった。

朱雀は未だに痺れる上半身を起き上がらせて声の主、あの男を見た。


それは自分を殴った男、霧島 弾だ。

彼はビルの屋上から夜景を眺めながら朱雀に語る。


「下は大騒ぎだ。お前と俺たちが暴れたせいで警察も消防も駆けつけ始めちまって、ヨグに頼んで急いで逃げたってわけ」


そう言いながら朱雀の後ろの方を指さす。

顔をそちらに向けると、背後にヨグが腕を組んで佇んでいた。


ヨグは朱雀のことを面白く思っていないのか表情を厳しくしたままだ。



「…ふん、私なんか放っとけば良かったし。今まさに下で受けた恨みをここで返しても良いし」


そう強がる朱雀だったが、その内面は恐怖でいっぱいだった。

今この場にはリンフォンはない。

自身の力を最大限に活用出来る呪物が無ければ、いくら神ともてはやされた朱雀でも何も出来ない。


自身がした非道、それらに激しい怒りを見せた霧島。こうして人目につかない場所に連れて来たということは、恐らくトドメを刺すからだろう。


覚悟はしていなかった。そもそも負けるとは思ってもいなかった。

不敵に笑いながら冷や汗を垂らし、手足が震える。辛うじて歯がかち合うことを止めるが、この恐怖は隠せるものではない。


しかし、それに反して霧島は朱雀に対してあるものを投げつける。


攻撃か。


突然のことに慌てて身をよじらせる。

だが投げたものは朱雀までは届かず、彼女の目の前で落ちる。


それは見覚えのある木製で出来た根付のストラップ、リンフォンの本体である『小さな地獄』だった。

それを見て朱雀は目を丸くした。


「な、なんで壊さなかったの?」


そう問い出す。

これが朱雀の界外術の神、その本体だ。

それを壊せば全ての力を失い、為すすべもなくなる。それは彼女自身が1番理解している。


だからこそ木刀をオプションとしてカモフラージュしてきた。そうすれば本体の破壊を免れると思って。

だが、今相手からそれを無傷で渡された。


異常がないかまだ動きが鈍い体を使って、ソッとそれを手に取る。

異常はない、それどころか内包している亡者の数も減っていない。


ポカン、とリンフォンを眺めていた朱雀に霧島は言う。


「お前はあのオカマに恩があってやってたんだろ。あいつが人を救うってのはおかしな話だけど、あいつの周りにいる人間は少なくともお前みたいな連中ってことだ。誰かを傷つけない方法をしなかったのは間違いだろうけど、それでも信じてるのは良くわかった」


「…だから、私を助けるの?」


「いいや、お前にはちゃんと罪を償ってもらう。けど、ただムショに行かせるってわけにもいかない。自分で蒔いた種だ、お前たちがなんとかしろ」


そこまで言ってから霧島は朱雀からヨグに会話を変える。


「ヨグ、今街中で不穏な動きしている界外術使った野郎の位置は分かったか?」


「こんだけ雑魚臭漂わせたらすぐに分かるわ。んで、この人間と邪神を使ってどうするの?」


「なあに見とけよ。蔓延る雑魚の回収なんて俺の発想次第で何とかならぁ」


そう言ってまた朱雀に語る。


「お前を警察に突き出さずに助けたんだ。その恩を返してもらうぜ」


「…良いよ、もう飽きていたし。それに…もう手遅れだろうし」


その発言の最後の言葉には流石に反応する。


「どういう意味だ?」


それには朱雀は乾いた笑みを浮かべて答える。


「もう、生贄は揃っているってことだし」




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