80話 Unreasonable@いつ仕込んだソレ
朱雀は向かって来た霧島に対してリンフォンを振るい、空間を切る。
そこに、最大の力と目の前にいる敵を殺す感情を込めて放つ。
切れ込みから瞬時に飛び出した亡者はその力を糧にし、神と等しい力を一瞬だけ手に入れる。
そこに霧島が突っ込んで来た。
そこまでは人の身で行う予想外の行為だった。
しかし、朱雀は躊躇わない。
目の前の亡者の力であの男を殺す。
いくら人間でも、作り物の神で出来た力には勝てない。
それが絶対の法則だ。
それでも、霧島は右腕を振るい、進んだ先にいる亡者に向けて拳を放とうとする。
馬鹿か、とほくそ笑む朱雀。
いくら最上級の神を出せる人間でも、神を打ち倒す。そんな奇跡は起きるはずがない。
それこそ、盤上を狂わす出来事だ。
朱雀の思った通り、亡者は当たり前のように片手でその拳を掴んだ。
これでおしまい、これで勝った。
あとはこの男を殺すだけ。
朱雀は指示を出す。
「そのまま殺しな…」
さい。
そこまで言っている間に、あり得ないことが起きた。
霧島は右腕を切り離したのだ。
まるで最初から、この右手で騙せるよう。
そうであるかのように。
目を見開いて驚く朱雀と亡者は対処が遅れた。
右腕を置いていった霧島は亡者の横をすり抜ける。
次の瞬間には切り離したはずの右袖から本来の右手が出ており、態勢を僅かに捻って彼女に向かって飛びかかる。
それには、戦闘員でありながら地獄を作り出す朱雀は何も出来ない。
ただ涙を零して、これから走る痛みに怯えることしか出来ない。
渾身の力は、全て使った。
今ヨグを抑えている神の力をこちらに回しても間に合わない。
この状況の打開はーーー不可能だ。
そう思考できた直後、彼女の顔に三度目の拳が突き刺さる。
それにはもう対処も出来ない。
ただ吹き飛ばされるだけしか出来なかった。
こうしてこの勝負は、決着を迎えた。