表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
邪神の躍動
78/88

78話 Raid@23区内での奇襲

東京23区。


広大な平野と海が隣接する日本の中心部。その中で最も埼玉と近い練馬区、とある時間指定の貸し駐車場で事は起きた。

複数の人だかり、その中心で何名も倒れた少年を足蹴に彼らは立っている。



「テメェ、どこのチームのもんだ!?」



周囲を囲んでいた少年の1人が、突如として自分たちの談笑を邪魔した男たちに向かって吠える。

しかし、男達は全員彼には目もくれず、ただ足元で倒れた少年の頭をグリグリと足で踏みつける。

仲間を襲って痛めつける彼らのその態度に少年はプツンと頭にきて、男達に殴りかかろうと前に走り出す。

流れに乗って周囲八方から同年代の仲間達が4人ほど、彼と同じように男達に向かっていく。


それは一瞬であった。


足蹴にしていた男の1人が不気味に「界外」と呟くと、倒れていた少年達の傷口から流れていた血が集まり出し、それがまるで蒸発していくかのように消えた。


そして、1番最初に走り込んでいた少年の目の前。何もなかった場所から大きな藁人形が突如として現れた。


少年はその藁人形に驚く間もなく薙ぎ払われ、周囲にいた他の仲間に当たって一緒に駐車場の壁に打ちつけられた。


残りの4人も、同じように認識する前に薙ぎ払われてしまい、周囲にいた少年の仲間達も先と同じように一緒にどんどん倒されていく。


残ったのは最初に集まっていた15名から4名だけとなり。襲撃してきた男たちは3名ともいた。そして、正体不明の化け物を連れている。


両足を震わせながら目の前の現実を直視する少年の1人、須藤 義昭はこの場で集会を企画した人物でありながら新たな不良グループのリーダーを務めていた。

関東最大の不良グループ【フラッグ】に所属していた下っ端だったが、1ヶ月近く前に襲撃された際にグループを抜けて地元で新たな不良グループを創設しようとしていた。


この数週間、集会を行う事に様々な学校の不良が自分のグループに入り、グループとしての体裁も整ってきた時に目の前の男達が急に集会場に乱入。先に腕っ節のある仲間をさっきの化け物で倒していった。


咄嗟の指示で周辺を囲めと須藤は言った状況は一変。数で押すはずがさっきの一瞬で仲間のほとんどは全滅、残った仲間もさっきまでとは違って全員顔色を変えていた。


「な、ななななんなんだあんた達は!?」


震えてしまう声で精一杯声を張り上げる須藤に、男たちは彼に指をさして不気味に嘲笑う。

馬鹿にされて怒りたいと思ったが、足が震えて走り出すこともできない。



「あぁ……俺たちはフラッグ……フラッグだよ」


男達の口から出た意外な言葉に、須藤は震えをさらに増しながら応える。


「フ、フラッグ!?……まさかグループを抜けた俺に粛清をとか思っているのか!?」


「違う……ちがう……、俺たちは別にそんな事をするために襲ったわけじゃない」



3人のうち真ん中にいた男が一歩前に出る。

近づいたらダメだと思い、須藤は3歩以上下がる。

男は須藤に攻撃……ではなく、握手を求めてきた。



「…………へ?」


「フラッグに戻れ、そうすれば力も手に入るし俺たちは最強のチームになれる。もう他の地域の不良グループも同じ状況だ、俺たちが襲って服従させている」


「他も……」


「抵抗すれば容赦しない、拒否すれば一生歩けないようにする。さぁ、どうする?」



男の顔は無表情で虚ろだったが、その背後に構える大きな藁人形が凶器である大きな五寸釘をチラつかせてくる。

逃がさない。

そんな意志をまざまざと見せつけられる。

仲間達も怯えた表情で須藤に視線を向ける。

この状況、もし抵抗したら殺される。

ただの小さなグループのリーダーである須藤の腹は決まった。



「わ、分かった……俺たちはフラッグに従う。だから、あまり痛いことは勘弁してくれ……」


「そうか……なら残ったお前達は私たちについて来るのだ。新たな力と俺たちフラッグの崇高なる教えをその体に刻み込ませる」



黙っていた2人の男達は歩き、顔色変えて呆然と見ていた少年達を引っ張りながら駐車場から出て行く。

最後に喋っていた男に連れられるように須藤は後から大人しくついていく。



「あの……あんたらにやられた仲間は」


「この騒ぎだ、すぐに救急車がくるだろう。さぁ大人しくついて来い」



須藤は「はい…」と消えそうな声で答えるとそのまま黙って歩く。

背後から近づくサイレン音に、助けてくれと思いながら。




----------------------------------------


「で、今んところどうなの?」


「えぇ…今東京中で手下達がいい感じに襲って頭数を集めてる。問題なのはサツが介入間近って所ですかね」



新宿駅前の自動販売機前で、2人の男女が会話をしていた。

1人は髪を後ろに縛り、動きやすそうなランニングスーツに着替えていた南條朱雀。

もう1人は彼女以上に身長があり、小太りの【フラッグ】のボス、テツロウ。


彼女はつまらなそうにテツロウの報告を聞いてあくびする。人だかりができた横断歩道前で、南條は自分の背後にある自販機で買ったお茶を飲みほした。


彼女は今、ある人物達と鬼ごっこをやっている。

自分を捕まえることができたら今この街で行っている計画の全てを止める。つもりだったのだが……。



「なーーんか、スムーズに事が進んじゃうせいで、もう私を止めても遅くなりそうだし、ぶっちゃけるとこれって無駄なお遊びだったんじゃね?」


「良い時間稼ぎだと思います。本命があんただと思ってるなら」


「あははははははは!! 狂ってるなぁ私!」



相手の滑稽なまでに動きを想像してしまい、お腹の底から笑い出す。急に笑い出した朱雀に周辺の人間も不審に思うが、すぐに笑いを止めて「何でもない」といった感じで笑顔を向ける。



「あはは……いやーおかしいねぇ。鬼ごっこはフェイクで本命は襲撃したりして攫った子供の地肉だっつーのにさぁ」


「そして、それを贄にして得た力を持って俺たちは再興する」


「ンーーー、ネットを張り巡って天才界外術師(プリンセス)を監視する邪神。使い勝手の良い腕っ節の良い部下。そして元メンバー達を使った大界外術。こんなもの1日で行うものなら悲劇を通り越して喜劇になるし!」



恍惚な表情を浮かべながら、朱雀は自分の顔に両手を当ててこの先の未来を想像する。

その顔に元々は下請けのような協力関係だったテツロウもなぜか喜んでしまう。



「もう東京なんてどうでも良い……この力とあんたらの思想さえありゃ俺たちは何でも良い!」


「フフフ、協力サンキュー」



朱雀が醜く笑うテツロウに出来る限りの愛想笑いを浮かべようとした。

だがそれは視界からテツロウが消えた事によって半分のところで止まる。

朱雀はゆっくりと足元に視線を移す。消えたわけではなく、地面に這いつくばさせられていただけだった。

頭部には何やら蠢く生物が鎮座しており、投げられた衝撃が強すぎたのか、テツロウはピクピクと白目をむいて気絶しまっていた。


この攻撃に周辺の人間は気づいてその場を離れるが、南條朱雀は違った。

周囲の人間をかき分けてこちらにやってくるその二人の人物が最初に自分を見つけるだろうと思っていたからだ。



「鬼さんこーちら……なーんてね」


「面倒な尺とかいらないから、さっさとくたばってくんない?」



周囲の人間の視線を浴びながら、綺麗な金髪に花のシュシュをつけた年下の少女が見た目の歳に似合わないドスの効いた声、ヨグ=ソトースに話しかける。

その後に続いて、高校3年生の赤みがかった茶髪の青年、霧島 弾が出てくる。



「おいアンタ、鬼ごっこならもうこれでゲームは終了のはずだよな? さっさと諦めて大人しく降参しろ」


霧島が朱雀に対して投降するように呼びかけるが、無視して朱雀が質問をなげかける。



「どーして私がここにいるって分かったんだし。探せないように天海が監視の為の邪神を放ってたんだけど」


「あぁ、それね。あーも弱っちい神なんて簡単にあしらえるわよ」


「人を贄にしてるんだよ? あれの出力が90%、アンタの出力でも70くらいなのに出来っこないじゃん」



周囲の駆け寄ろうとする人達をヨグは片手で制止させ、少しずつ朱雀に近づく。



「ネタバレとか好きじゃないけど、してやるよ」



二マリと笑うヨグに、同じくらい狂気に満ちた笑顔を浮かべる朱雀は後1メートルほどの間隔をあけて対峙する。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ