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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
邪神の躍動
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74話 Dissolution@この後また

「つまりお前が、子供達にイジメを強要していたと?何も関係ない、悪いこともしてない子を辛い目に合わせたと?」


「そう言うことだ……」


「よし、歯を食いしばれよ」


神宮寺がそう言い切る前に、彼の右手からいつも以上の正拳を繰り出した。

顔面に当たり、ドガァ、と鈍く大きな音を立てて吹き飛ぶ(かこ)。地面に倒れるその巨体を、神宮寺はすぐに近づき何度も殴る。


「えぇ? 何が言いてぇのかしらねぇが、どうしてそんな事したんだ!! 助けを求めるだぁ?……あんまり調子に乗ってんじゃねーぞ!! こっちは危うくなんの罪もない子供が他人を殺す寸前までいってんのを見てんだぞ!! それが今更『あいつは【フラッグ】で好き勝手やってるから止めてくれ』だと、ふざけんのも大概にしろよ不良もどきが!!」


ドガ、バキ、ボゴ、とそれ以上の擬音が付くほどの衝撃を持った拳で圍を殴り続ける神宮寺。

それを見てた霧島がマズイと思って止めに入り、一旦その場は落ち着いた。

圍は、その大きな巨体のわりにすぐに気絶し、昼休みが終わるまでに起きれるようヨグが治癒をしていた。

止めに入るのに疲れ息を切らせてた霧島がそれを見ていてふと疑問を口にする。


「……あれ?おまえってこんなこまかいことできんの?」


「あんたさぁ、主神を舐めすぎ。これぐらい(ことわり)を弄るまでもなくできるから。ほら邪魔だからあっち行ってろ」


へーへー、とヨグから離れる霧島。

怒りに拳を震わせる神宮寺。

それを傍目で見てたアリアと渡と浅倉はこんな会話をしていた。


「今の話だと、《約束された盤上》ってのがまた変な事しでかしたってことにしか見えないわよね。そもそも、あの組織について裏で働いてたあんた達はなんで存在すら知らないのよ」


「こっちも色々と人脈があるんですけど……その、何度聞いても知らないし、謎だらけの組織なんですよ」


アリアの質問に、申し訳なさそうに頭をかいて答える。アリアもそれ以上は聞いても意味がないと思い話を変える。


「あいつらの考えって、何か分かったりする?」


「考えって言いますと?」


「メリットとデメリットみたいなもの、最初にあった時のようなメンバーがいるのなら、どうして子供の憎悪だけの界外術で出した弱い呪神(ツキモノ)を量産する真似をするのか……そこが分からない」


「それって街の憎悪を掻き出すってやつなんじゃないですか? 被害者と加害者、そんな大勢の怨みの感情が積もれば生け贄次第で主神級も出せますし」


渡がそう言って答えの解を出した。

だが、それに同僚の浅倉が意を唱えた。


「でもさ、界外術って周りの感情と質が問題じゃん、どんなプロでも同時期にそう易々と感情を一定に保てるもんじゃないんじゃない? それに、呼ぶ為の術式だってデカくしてその数も何百倍にして増やさなきゃならないし」


「そうだっけ?俺っていっつも即興で出すから大々的なもんの出し方なんてわかんねーよ」


「そもそも大規模な界外術に成功したやつなんていないし」


「いるぞ」


3人の論議の中に意を唱えたのは、立ちながら気持ちを落ち着かせていた神宮寺だった。


「いるって……誰さ?」


神宮寺の言葉に疑問を投げる浅倉だったが、それではっ、とアリアも思い出した。


「まさか、ニア?」


アリアが言ったその名は、さっき圍が言っていた《約束された盤上》のボスであり、大規模な界外術を行おうとしていた人物だ。

しかし、その脅威を知らない渡と浅倉の2人は、キョトン、とするのみだ。


「ニアは、迷惑メールを利用した術式で東京中を儀式上にしたんだ、それを知った時や暴いた時はゾッとした、こんな盲点をついた発想とあと一歩遅かったら手遅れだったって」


「マジかよ…神奈川にいたから知らんかったわ……」


「で、でも今回は子供に界外術を教えてるだけなんだから、別にそんな盲点っぽい意図があるわけじゃ……」


青ざめる浅倉の横で、神宮寺に渡が反論しようとするが、その場で言葉を詰まらせた。


「…だったら、なんでお金なんか渡すんだ? いや広めるのもあるんだろうけど、そもそもそのお金で他に人を雇えばいいのに、どうして【フラッグ】なんて落ちぶれたグループに渡したんだ?」


「そこだ、俺が疑問だったのはそこの部分だ」


渡の疑問を知っていたのか、神宮寺は深く考えながらアリアの方を向く。


「アリア、界外術って才能とかが大事なんだよな」


「そ、そうね」


「じゃあよ」



「関東最強のグループを作るほどのカリスマ性を備えた奴って、界外術が使えたらどれぐらい強いと思う?」


その質問に、一同は気付く。

彼ら《約束された盤上》の意図の少し先が。

唖然と、加害者側の【フラッグ】が目的の先なのだとようやく気づく。

それでは終わらずに神宮寺は喋り続ける。


「《約束された盤上》が前回のような事をしでかすなら、今回の子供の件はただの誘導なのかもな。俺たちが手一杯のうちに【フラッグ】の構成員に界外術を教えて、違う方面で何かするっていう」


「つまり盲点は……」


「あぁ、盲点だったのは実行側のはずの【フラッグ】の方ってことだ。あそこでのびてる馬鹿が何で俺たちに助けを求めたのか、ようやく合点がいった」


結論を言って深く考えながら一人納得する神宮寺だったが、またも問題が出てくる。

それを発したのはアリアだった。


「でも、そうだとしてもリーダーのそのテツロウってヤツを《約束された盤上》に誘えば良いわけで、他のメンバーまで巻き込もうとする意図がわからない。混乱を起こしたいのならあの時のように自分たちの構成員を使えば良いわけだし」


「人手不足、ってことなんでしょか?」


「幹部があの実力なら人手不足なんてことはないだろう」


遠くで静かに見ていた東條がそう言うのもつかの間、すぐさま否定する。

前回、あのビル内で見た2人の界外術師だけでも人手不足を補えるはずだからだ。

考えれば考えるほどこんがらがりそうだが、ちょうどその時にお昼休みの終わりを告げる予鈴がなる。


「うわまじい、おいヨグ早く学校戻んねーと間に合わねー!」


「今治療中だけど、ちょうど痣がなくなったしこんなもんか」


ヨグが圍から離れ、すぐさま霧島の手を握る。そこに遅れないように今度は渡と浅倉も霧島の手を握る。


「ダンナと姐さん、俺たちはいつも通り途中で降ろして下さいね、そいじゃみなさんまた!」


「学校終わったらまたねー!」


別れを告げるのと同時に、ヨグが空間をあってそこに入ると次々と中に消えていった。

最後に浅倉が入るのと同時に空間が元に戻るかのように破片が集まり出し、さっきまで砕けていた光景が、何事もなかったかのようにキチンと見えているだけだった。


「さてと、おーい起きろ馬鹿」


「うぅ……」


4人が去った後に残ったこの波野高校在学生4人と神様1匹。

神宮寺が顔の傷が消えてスヤスヤと寝ていた圍を足蹴にして起こす。


「あ、あれ? 俺は確か殴られて……ん?傷が無ぇ?……」


「そーいうの良いから、もうすぐ授業始まるから、話はあとで聞かせてもらうぞ」


「え、あ…あぁ」


色々と不思議そうにしながら恐ろしい剣幕の神宮寺にビクつき、屋上の出入り口あから足早に去る(かこ)

その後ろ姿を睨む神宮寺の横を他の2人、下田アリアと東條絵里も続くようにドアに向かう。


「ま、あんだけあんたにビビってたらあのバカもコトの大事に気付くでしょ、多分だけどあいつは私たちに協力するよ」


「仲間が危ないってのも気になりますし、私はそういうのほっとけませんよ」


そう言い残し、彼女らもドアを開けて自分の教室へと戻る。

最後に残ったこっくりさんもお腹いっぱいといった満足顔で神宮寺に言った。


「神宮寺さん、早くぅしないと授業が始まっちゃいますよ? 」


ゲップ、と食べ過ぎたのかはしたなくゲップをするこっくりさんに「こいつ、いままでの話聞いてなかったな…」と心の中で突っ込むと、何となくだがさっきまでの緊張感や怒りがほぐれた気がした。


なので目の前にいる『残念都市伝説』こと、こっくりさんに笑顔でこう言ってみた。


「お前、あとで妹が作ったおにぎり食わせるから。終わったら食えよ」


その瞬間こっくりさんの顔から、感情が消えた。

それを見届けながら、静かにドアにをくぐり、気分良く屋上の階段を降りる神宮寺の背後から、まるで幼い女の子が蛇でも見たかのような悲鳴が聞こえたが、それは今の神宮寺には元気が出るものだった。

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