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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
輝きの裏にある綻び
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67話 本当に解決とは言えるのか?

「あーいい風だな、なんか屋上で弁当食うってのは穏やかな感情にさせてくれてとても良い」


そう言いながら神宮寺 孝作は幼馴染である下田アリアが作ってきたお弁当を咀嚼しつつ、束の間の昼休みを堪能していた。


「孝作、あんたって毎日同じような事があるっていうのに楽しそうね。私は飽き飽きしちゃうけど」

「いやいや、界外術も事件もなく過ごす日常こそ穏やかで最高だという事だろう。むしろ毎回事件に関わらされる俺の意思を尊重しろ」

「悪かったわね毎回事件持ってきて」


神宮寺がばくばくと美味しそうに食べるお弁当を横目で見つつ、アリアは自分のお弁当を食べる。


屋上で二人きり。


本来ならアリア自身は内心嬉しいはずのシチュエーションだが、あの事件での出来事が頭の中で思い出すとそんな気分にもなれない。



あれから5日経った。


あれから警察の事情聴取を難なく乗り越え、ここにいない霧島も問題なく学校に来れたが。東條絵里だけは学校に姿を現さなかった。

電話を掛けて彼女の神でマネージャーのヘベから聞いた話では、彼女の義手を作るのに3日は掛かるそうで、その期間どの番組にも出れなくなって対応に追われているそうだ。


4日目には二人の元に大鷲誠治の護衛金として数十万が届いたが、下田アリアが問題なく神宮寺と山分け&彼の分を母親に渡して貯金の方向に成立、解決した。

もちろん抗議の声も聞こえたが、無視した。泣いていたような気がする。


だがそんな過程でも、モヤモヤとした問題が頭に残っていた。


デルモンド・キルギス。

彼は自分たちの弟子を連れて何処かに消えた。

へべから聞いたところ、東條絵里宛に彼からお詫びのしるしにと高級メロンと手紙が届いたそうだ。


手紙には数々の無礼を詫びる文句と、東條と神宮寺達に対してのお礼が綴られていた。

追記にデルモンド達はアメリカに渡ったと書いており、自分の魔法で何処まで出来るのかを考えていくつもりらしい。


とりあえず、この件に関しては解決した。


問題はその後現れた二人の男。


陸奥と名乗る人物と、奇妙な首飾りの男。

どちらも『約束された盤上』に所属する謎の者たち。


下田アリアは彼らのボス、ニアなる人物と対面したことがあったが。組織全体の思想そのものが狂っている印象が強かった。いうなれば衝動的行動に近いような、そんな印象があった。


しかし、今回会った二人を見て改めて確信した。


思想もそうだが、界外という非現実の常識を超えそうな領域に立っている者だと。


自分の界外術でさえ敵わないと悟って逃げた『魔法師』の弟子を、血塗れにして投げ飛ばすあの力量。

どう考えてもあれは挑んではいけないモノだ。


それどころか、もし自分があの男に攻撃した『カマイタチ』が彼に当たっていたら。おそらく死んでいたのはこちらだった。


未開。

その一言に尽きるほど不気味であった。


もしまたあの男に出会ったら勝てるのか。

そもそも、『魔法』に負けていた自分で本当にあの男に勝てるのか。


天才界外術師(プリンセス)』の二つ名を持つ少女は自らの才能に自惚れていた未熟さに改めて羞恥を感じ、この先どのようにすれば今回の彼らのような存在に勝てるようになるのか。


アリアは俯き、弁当を食べる手を止めてしまう。


「気にすんなよ」


考えに押しつぶされそうになったその時に、横に座っていた神宮寺が呟く。

神宮寺は一旦箸を置いてご飯を咀嚼し喉に流すと、今度ははっきりとアリアに言った。


「今回は俺たちあんまり活躍しなかった。そりゃ、俺やお前は他の奴らとは才能が違くて上だって言われてるから、期待された以上の成果を出さなきゃって思う。でも、そーしたってあのおっさんの用に過去のしがらみに囚われて暴走しちまうんだ。だったら、後からゆっくりと克服すりゃいい。他の奴らと協力して世界一の魔法使いに勝ったんだ。大切なのは才能だけじゃないんだって思わねーか?」


アリアに語った神宮寺は、ニッと彼女に向けて笑顔を作った。

その顔に、下田アリアは再度なぜ自分がここまで頑張れるのか改めて考えて、さっきまでの陰気くさい雰囲気を捨てた。


「……そうね、みんながいなきゃ解決できなかった。それだけでも才能よりも価値があることね」


「まぁ、俺たちが全てを把握できてればもう少し被害は減らせたんだろうけどな。結局はそれだけが無念だっただけなんだ」


「あんたらしい、本当に……」


「考えたって同じだ。そーやって勝手に塞がっちまうのはお前の良いところで悪いところだしな」


そう言いながら再び箸を手に取って弁当を再度食べ始める。

そんな神宮寺にアリアも微笑みつつ箸を進めた。



どんな事があっても、悲劇や悔いは残る。

それは荊の棘のように心の痛みを継続させていく。


でもそんな誰もが持つ心の引っ掛かりは、いずれ抜け落ちて当然だ。


神宮寺 孝作と下田アリアの二人は常にそんな傷みを負うが、それを支えあう二人の力は傷みすら超えてしまう。

そう、誰かが決めたから。





「……あれ?そういやこっくりの奴はあれからどうしたんだ」


「罰として私の家の庭の雑草抜かせてる、あの子ったらあれからまた料理食いながら逃げてたらしいから」


「……他の二人は?」


「椅子に縛り付けてホラー映画のDVDをループ再生見せてる」


「神様に対しては本当に容赦がないのな!!」




彼らのお話はまだ続く。

それこそ神話に終わりがないと区切られるように、創造されていく。








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