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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
輝きの裏にある綻び
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第66話 repeat@そしてまた謎と出会いは出来上がる

しかし、そんな全ての幕が閉まる場面で、アリアは口元に手を当てて何か考え事を始めていた。


「どうしたんだアリア、なんかまだ引っかかってんのか?」


「…………」


そう尋ねた神宮寺の言葉に少し反応して、辺りを見渡すアリア。このフロアの壁や床がボロボロになっている所をまじまじと見つめる。


まるで、その風景そのものに違和感があるかのように。


「…………ねぇ、孝作。この騒動が始まってもう40分は過ぎてるよね?」


「そだな、なんつーか濃厚な時間だったな」


「それにしては静かすぎない?」


アリアがとても嫌な顔で言ったそれは、今更になってゾッとする現実を神宮寺に見せつけた。


確かに、この騒動は多くの招待客が見ている中で堂々と行われた。逃げ惑う客人の中には携帯を耳に当てて警察を呼んでいる者もいた。


それなのに、なぜ40分以上も経った今現在、窓や壁が壊れて外観が現れているこのフロアに外から一切のサイレン音が響いていないのか?


あらためて思い、神宮寺は目の前の和解する彼らに慌てて叫ぶ。



「まだ終わってねーぞ!」



神宮寺がそう叫んだ次の瞬間には、彼らの頭上を何かが飛び過ぎていった。

それは神格者である神宮寺の驚異的な視力から確認した姿は『ボロボロのゴスロリ服の少女』だった。


飛び過ぎた少女はそのまま床に激突し、うつ伏せのままピクリとも動かず、代わりに大きな血だまりが少女の周りから広がっていく。


「……ひよりか!?」


デルモンドがそう叫ぶと彼は自分の体の傷などものともしないように、フラつきながらも走って少女の元に行く。

その後にティアレが真っ青に顔色を変えて付いていく。

デルモンドは、ひよりと呼ばれる少女の体を抱き上げると血まみれで真っ赤な少女の顔に手を当てて淡い光を生み出す。ティアレもその補佐として彼よりも弱々しくも光を出し、腕の傷から出ている血を止めようとする。


さっきまでの温かみに満ちた空間が壊れ、恐怖に塗りつぶされてしまった。

神宮寺は顔を動かし、少女が飛んできた階段付近を見る。


「…………どうやら、あんな事をしたのはあいつみたいだって事で良いんだよな」


そう言って身構える神宮寺の視線の先、そこには一人の男が立っていた。


男は見た目30代といった風貌で、服装は半袖のランニングシャツ1枚。首に掛けている髑髏や黒い十字架がより一層怪しい雰囲気を醸し出していた。

明らかな異常。


「スマンスマン、こっちは陸奥やら他の雑魚どもの回収のために来ていたんだがね、階段を昇ってる途中にその嬢ちゃんにばったり出くわしちまって。そしたら向こうから襲ってきたから反撃したまでだ。あーっ、痛ってぇなー」


そう言いつつ首をコキコキ鳴らしながらこちらに歩いてくる男。

男の手には小さい木箱が握られている。


「お前は一体……」

「一般人なわけないよね」


霧島とヨグが東條を守るように前に出て男に尋ねる。

他の二人、渡と浅倉は自分達を半殺しにしたゴスロリ少女が急に倒されて現れたので復讐すべくトドメを刺そうか迷っていたが、その場の空気を読んで取り敢えずは霧島達と同様に構えを取る


「俺は『約束された盤上』の構成員……と言っておこうか」


男のその発言に、事情を知らない渡と浅倉二人を除く他のメンバーの緊張が一層に高まった。


約束された盤上。


3週間前にニアという男が東京全体を界外術の儀式場にし、神とは違う何かを界外しようとした事件。

そのニアが率いる組織が【約束された盤上】と名乗っていた。


目の前にいる男がその組織の構成員だという事実に、神宮寺はキッと睨みつけて男を見据えて警戒する。


「…………なぜだ、確か君たちの陸奥くんには話は通っているはずだ。ボクたちとは敵対しないと」


デルモンドは血まみれのひよりの顔に手を当てながら首だけを向けて男に言う。

男はまだ首をコキコキと弄りながらデルモンドの質問に答える。


「そーだったな、確かに陸奥からはそー聞いてた。だから外で倒れている雑魚どもを回収に来たわけだが、問題はその雑魚どもだ」


指を倒れているゴスロリ服のひよりに向けて指す。


「全員重症だったからな。ひでーことするから協力するもの同士、おあいこって事でやったまでだ」


楽しそうに、けれどそこに何の感情も無い風に言った男に、デルモンドが歯噛みする。


「……万全だったら殺していた」

「どーだか、世界最高の【魔法師】がただのガキ共にのされたんだ。それだけでテメーの実力はその程度なんだろうが」

「…………ッ!!」


そう言いつつ男は背を向けて元来た階段の方に立ち去ろうとする。

だが、それは他のものたちが許さなかった。


「どうやら警察が来ないのはあんた達がなんかしているわけね。警察署に刺客でも送ったとみた方がいいわね」

「おい人間、お前の『約束された盤上』には嫌な思い出があるんだっつーの。このアタシのトラウマ払拭のために倒されろ」


下田アリアが即座に周りに紙人形と飴玉を撒いて界外の準備をするのと同時に、ヨグは両腕を前に伸ばして鞭のようにしなる触手を振り回す。触手が男に届く寸前に、アリアが界外を終えて鎌を持ったイタチを呼び出す。


『カマイタチ』は疾風の如く、すぐに触手と同列になりながら共に男の元に届こうとしていた。


ドゴンッ、衝撃音と共に二つの神の攻撃が男に当たったものだと思われた。

だが、それは一本の大きな腕によって全て遮られる。


「…………余計な事を、今のが当たってりゃ殺せたものを」

「お前の界外術の手の内はまだ見せてはいけない。これが現場応援の許可を出したニア様の御達だったはずだが」

「へーへー、そんじゃ俺は先帰ってますよー」


大きな太い腕。

それを子供のような体型のマントを被った者の下から宙に浮く感じで伸びだしていた。

そしていつの間にか黒いスーツ姿の違う男が立っていた。

彼は男の顔を睨みつけると男は肩をすくめ、持っていた木箱をポンポンと手玉にしながら階段を降り始めた。

新しい第三者。


しかし、その姿には下田アリアと霧島コンビは見覚えがあった。


「あんたはあの時の!!」

「………久しぶりと言っておこうか」


黒スーツの男、陸奥は手短に挨拶するとアリア達を無視してその後ろにいるデルモンドに向く。


「どうやら本当にこの子達に負けたようですね。貴方様の実力ならこの結果は無いと思っていましたが」

「……ボクより君はどうしたん。お望み通り大鷲氏を殺せたのかい」

「いいえ、それについては解決しました」


そう言って陸奥はポケットからUSBメモリーを取り出すとそれをデルモンドに見せつける。


「どうやら『真実』とやらはこの中にあるそうなので、殺す理由も復讐もこれを見て判断することにしました。あの男には感謝ですよ」


陸奥は言いつつ、次第に後ろに退いていく。


「………知ったら戻れなくなるぞ。その組織の幹部達は、界外や神、最近ボクも知ったが魔法ですら凌駕するかもしれない存在になりつつある。世界中にメンバーがいて休む日もなくなる。そうなったら死ぬかもしれないぞ」


デルモンドが声を低くして忠告する。

だが、陸奥はそんなデルモンドの忠告を眉を少し動かしただけで。あとはいつも通りといった風に背を向けて立ち去る。

陸奥が階段に差し掛かる前に、彼は一言ポツリと呟く。


「………世界中が敵になる……あんたがやろうとしたお遊びに、こっちは本気で挑むんだよ」


デルモンドが彼の言葉に何も言えずに黙る。その内に陸奥は階段を、降りた。


「………えーと、とりあえずは助かったって事でいいんだよな」

「それでいいんじゃない。うちら関係ないし」


この一件には何の関係もなく、ただ巻き込まれた渡と浅倉は呑気にそう言いながらお互いに顔を見つめ合う。



この後二十分程してから警察と消防車及び救急車が到着した。


どうやら遅れた理由は渋滞に巻き込まれたそうで、その間にも死傷者が出るほどの事故が6件も起きたそうだ。


その時にはデルモンドはもちろん、片腕が義手であった東條絵里は姿を消しており。保護されたのはパーティー会場にいた招待客とそれに加わっていた神宮寺達で、主催者の大鷲誠治。

救急車によって運ばれたのは霧島と、大鷲氏に雇われていた渡や浅倉の界外術師達。


騒動自体はその後、ビルや周辺にあった防犯カメラが機能していなかった事で正体不明の犯人が起こした謎の事件として片付けられた。


『メビウスの輪』はいつの間にかいなくなっていた。


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