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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
輝きの裏にある綻び
58/88

58話 1vs?

デルモンドに攻撃するべく、四人は一斉に襲いかかる。


前と背後と、挟み撃ちになるような状況だ。



しかし。


「死ね」


その一言だけで、血まみれだった男女の片割れ、男の方が何か見えない何かに当たったのか、体をくの字に曲げて後方に飛ばされた。



「ちょっ! 大丈夫わた……」



並んで走っていたもう一人の方、浅倉も飛んでいった渡の心配をして背後を振り返ろうとしたが、急にふらつき出してその彼女の頭が地面に落ちた。



「あ………が、がは…………!?」



浅倉はまるで苦しむように顔を歪ませて、ボロボロになった床のタイルの上を踠いていた。



これで1対2


「次は……」



デルモンドが何か言う前に、彼の体が大きな鞭に打たれた。

それを片腕で一本で受け止めた。その際にグギン、と受け止めた片腕の骨の辺りから不吉な音がしたのを嫌な顔で聞いた。


幸い、デルモンドは鞭が完全にぶつかる前に自身の体に防御魔法を張っておいたのだが、今回はそれ以上の力でやられたようだ。



「へーー! 人間がこの出力の鞭に耐えるとかやっぱり魔法ってのは昔から厄介ってやつだね」



鞭を繰り出した女。

正確には『クトゥルフ神話』のヨグ=ソトースという主神級の神は、己の腕を触手に変えたそれで乱れ打ちのように攻撃を繰り出す。



「……ック!!」



デルモンドはそれらの攻撃を防御…………ではなく。自分の前方の上下から発生させるように出した多くの剣や槍でそれらを迎え撃った。

剣が目にも見えない勢いで射出され鞭共々相殺されていく。



大きな攻防戦。

そこに赤茶の少年が突っ込んでいく。



「オラァァァァァァァァァァァ!!! ブッチ殺しじゃー!」


叫びながらデルモンドに突撃を見舞おうとする霧島。


瞬間、彼がいた場所に槍と剣が現れて地面を突き刺していく。

原型も止めないようにと、数百もの剣と槍が降り注いだ。




デルモンドにとっては霧島のような人間はただのハエにすぎない。

先に倒したあの2人の方がまだ界外術の知識がある分強く、霧島はその点なんの武器も持っていない雑魚。


そう認識してしまっていた。


デルモンドは自身の考えが浅はかだとまだ気づかずに。



「これで終わりかね」



そう言いながらヨグの方を見るが、彼女はこちらを見下すように笑っていた。いや、嘲笑っている。


その顔で、デルモンドは気付く。


霧島が串刺しになったであろう場所には、彼から流れ出るはずの赤い液体などはどこにもなかった。

そして決定的だったのは、霧島がいた場所の空間がひび割れていたことだ。




「しまっ……!!」


そこで自分の失態を思い出す。


デルモンドはすぐに自分の防御魔法が破壊されていることを、ヨグの空間割りが自分の元まで伸びている可能性がある事を。


思考がそう答えを導き出す頃には既に自分の鼻っ柱が強烈な痛みと共にメキッと音がしたかと思うと、体が仰け反って足が地面から離れていった。


いつの間にかデルモンドの目の前に姿を現していた霧島が、右の拳で彼の顔を強く、勢いよく殴りつける。



熱く、とても痛い。



意識が飛びそうだ。


デルモンドは床に叩きつけられるまでの数コンマの間、薄れていく意識の中で走馬灯のように過去の事を思い出していた。




––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––







あれは自分が母国を出て世界をまわり始めて3年前。

平和な西側諸国を歩き終わって中東の地域に行った頃だ。




そこは昨日、一昨日まで見た平和な街並みなどはなかった。


瓦礫の山


ただそれだけだった。




入国初日にその地域の反政府軍のゲリラ部隊に連行された。

その道中、路上に転がっている幾つもの死体を見た。


連れて行かれた場所はゲリラ達のアジトのような場所だった。

着くなりマスクを被った男達が自分に銃を突きつけ出す。


どうやら、異国の自分を使って脅迫がしたいのだろう。『観光客の命を助けて欲しければ金を出せ』だろう。

当時のボクは『まったく、もっと頭を使いたまえ』と考え、心底呆れていた。

だから自分はそこで魔法を使った。


その場にいたゲリラ達の武器全ての銃口に花を咲かせてやった。


兵士達はみな驚き、現地の言葉で『なんだこれは!』と一唱した後に一斉に引き金を引くが、弾は出ない。


ボクの魔法は極みであり最強だった。


そこから彼らに敵ではない事を話し、その日のうちに解放。さらに友好的な関係となって彼らの潜伏地の街を案内してもらった。


そこでたくさんの子供達に出会った。


彼らは全員その日食べるものに困っている。それほどまでに苦しい生活を過ごしている子供達だった。


だからボクは、彼らに魔法を見せてまわった。


手から飴を。


指をパッチンと鳴らして虚空からパンを。


何もないところから水を出してコップに注いで分け与えたりもした。


それだけで彼らはボクに感謝して笑いながら涙を流してくれた。


今までまわった国で同じ事をしたが誰も見向きもしなかった。幼い子供ですら。

おそらく、これが本当の世界なんだなとボクは心が痛くなるほど思い知った。



【デルモンドさん、ありがとう!】



その一言で、ボクは『魔法師』という称号を得た時以上に嬉しかった。


あの一瞬が、まるで写真立てに飾ってあるかのように今も鮮明に思い出せるぐらいに。





次の日、潜伏地の街で大規模な戦闘が行われ、街での戦闘は政府軍と反政府軍の総力戦に発展していった。




ボクは昨日まで笑いながら歓迎してくれた兵士達の亡骸を越え、瓦礫に下半身を潰されたあの子に会った。





【ねぇデルモンドさん。どうしてあたしの身体は動かないの?】




そこで走馬灯は途切れた。




––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––










地面に顔じゅう血まみれにして仰向けになって倒れたデルモンドを一瞥した霧島は、先ほどやられてしまった(わたり)と浅倉の元に駆け寄った。






「おーい、大丈夫か?」


「……うぅ、頭がガンガンしますけどあたしは無事です……」


「そっちの吹っ飛ばされた方は?」


「……なんとか生きてますぜダンナー」


「良かった。てっきりお前の方は死んだのかと思ってたよ」


「こっちはプロですぜ。殺られる前に界外で適当な神を出してクッション代わりにしてたんですよ」


「どうでもいい」


「えーー……」






霧島は(わたり)が本当にどうでもいいようにため息をついた後、浅倉の手を握って起き上がるのを手伝い。スタスタとヨグや東條がいるところまで戻っていく。



そんな場面を渋々見つつ壁から「よっこらせ」と出てくる(わたり)は、仰向けで倒れるデルモンドを横目に通り過ぎて行こうとした。



だが、(わたり)は見てしまった。


デルモンドの血に塗れた顔にくっきりと浮かぶように、両の目がこちらをギロリと見上げているのを。


「ひぃぃぃ!!?」



(わたり)は情けない悲鳴をあげながら急いで霧島達のいる場所に走りだした。




「ダンナ! 野郎まだ気絶してないっすよ!!」




そう言いながら彼らの横を駆け抜けて無駄なスライディングをかます。

それがうざったかったのか、ヨグが静止した渡(渡)をポカリと殴る。


一瞬だけ場が和んだように見えたが、それでもヨグと霧島は構えていた。


先ほどからこちらが優勢にも見えるが、あくまでデルモンドの虚をついた攻撃がヒットしているだけに過ぎない。


正攻法で勝てる相手ではない。

ましてや、ヨグですら軽くあしらえてしまう最強の【魔法師】。


勝つのは難しい。





「…………よう、ヨグ」


「なに?」


「俺は絵里ちゃんを助けに来たんだ。そんでここで俺たちが全滅したらダメだよな」


「……だったら逃した方がいいんじゃない?」


「バーロー、こいつには仲間がいるんだぜ。そいつに襲われでもしたら俺は死んでも生き返って死体を守るぜハァハァ」


「…………キモい」





蔑むような目で霧島を横目に、それでもフッと少しだけ微笑むヨグ。

対して霧島は東條絵里の壁になるように立ちはだかる。


そしてハッとするように何かを思い出した霧島は、同じように構えていた(わたり)と浅倉に向かって言う。



「……二人とも、お前らは大鷲の護衛なんだから絵里ちゃんを連れて逃げてくれ。そうすれば何とか時間稼ぎにはなるだろ」


だが




「っへ、つーわけにはいかないっすよ。まだこの建物には化け物がわんさかいるんですから。俺らなんて瞬殺ですよ」


「退くよりはここであたいらがこいつを倒すのがもっとも安全な道だと思うんだけどね」




そう言って彼らは手に幾つもの紙人形を構える。

それを見て霧島は一瞬躊躇したが、一つ頷いて前を見据える。

傷だらけの彼らの意思は固まったようだった。





そんな彼らを、むくりと上体を起き上がらせてさっき以上に憎悪に満ちた瞳で睨みつける。


黄色のスーツは赤黒く汚れ、シルクハットもどこかにいってしまって被っていない。

しかし、未だに手に持つその黒と白のステッキは折れていなかった。

それだけで、デルモンド、キルギスは化け物よりも恐ろしい存在を保っていた。



「…………邪魔なんだ」



その一言だけだった。






瞬間。





霧島達は地面に突っ伏すように倒れていた。

同時に気を失う。


あのヨグですら。



「…………え?」


東條絵里は目の前での起こった状況を理解できず、ただ目の前から再び近づくデルモンド・キルギスに戦慄した。




「……あぁ、原理なんてものは魔法にない。ただ才能があればできる範囲のことをやったまでだ。ボクは、【魔法師】だからさぁ……」




右手に持つステッキを変化させて長剣に変える。

それを引きずるようにゆっくり、ゆっくりと血を垂らしながら近づいてくる。



「……ック!」




それを遮るようにへべが絵里の前に無理やり立って壁になろうとしたが、デルモンドが左手で横一線に刻むとへべは遠くの壁にぶつけられた。

そのまま気を失うへべ。



デルモンドがついに東條絵里の目の前までたどり着く、その頃には絵里の顔には絶望の一つしかなかった。




「……死ね」



それだけだった。


剣を大きく振りかざして





一気に彼女の頭に落とした。








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