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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
輝きの裏にある綻び
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53話 決着『part1』

「うぅぅ…………」



三階の大広間。

日当たり一帯に日が燃え移ったり、氷が幾つも鎮座している。

奇妙な光景だったがそれよりも奇妙だったのは、呻き声をあげてボロボロのワンピースを着た少女が、スーツ姿の少女の顔面をわし掴んで宙ぶらりんにしていた。



「な、なんなんですのぉ……。ただの、神格者、のはずです、わよね…………」



掴まれて宙に浮かされている少女、ティアレは痛みに苦しそうにしつつも、自分を掴んでいる女を睨みつける。


先ほど、自分の魔法と肉弾戦が繰り広げられていた。そのさいにほんの一瞬の隙を見せてしまい、現在ティアレはボコボコにされて至っているという。



実力に負けた。

その意味がもたらすのは死だ。


だからこそ、ティアレは自分を救った師であるデルモンド・キルギスの為にある程度の情報収集をしようとしていた。

自分が死んでも、その情報が師である彼に届くのなら本望と。




「……ねぇ、貴女はさっきの二人に何を渡したんですの?私には、貴女があの二人を助ける意図がサッパリですの…」




ティアレ自分をつかむ女にそう問いただす。


女、シズクはその言葉にコクリと首を頷かせる。


「…………」



それだけである。

無言、眉一つ動かさない。

それだけでティアレは予測していた。



(……話すことはなく、私を殺すつもりですのね。まったく、あの方に遺言のみを報告するしかないのですね)



そう思い、ティアレは空いた右手で指を鳴らす。

するとその音と共に一羽の鳩が虚空から飛び出し、フロアを上へ、上へと飛んでいきやがては見えなくなった。



ティアレは目を瞑り、今までの人生を振り返る。



















彼女の人生はとても綺麗で、最も汚いものだった。


ティアレは日本で生まれた。

しかし、親は自分の存在を疎ましく思っていたのか、幼少期の彼女の記憶にはすべて暴力と暴言しか入っていなかった。


そして、人間性に問題があり。自分が小学生になるまで外には遊ばせてはくれなかった。


ただ一つの感謝は、彼女の顔も見たことのない父が美形だったおかげで小学生活には何の嫌な思い出がないことか。



楽しかった。

初めて友達と話した。

そして6年間をその友達、親友と過ごした。


家では相変わらず服で隠れる部分を重点的にぶって蹴っての虐待は続いたが、それでもティアレは成長し続けた。





でも日常は壊れる。



中学2年の時、帰宅したら彼女の母が包丁を持って襲い掛かってきた。




幸い何とか母を止めたので大事にはならなかったが、それでも怖かった。

実の母のいる家に帰るのが嫌になった。



だが不幸は終わらない。


中学に上がってもティアレは人気者だった。

異国の地が混じったハーフということもあっってのことだからだろう。告白される回数も小学生の時に比べて増えていた。



だから、ティアレは売られた。


彼女は親友と呼んでいた女子に人気のない場所に呼ばされて、来たのは知らない不良たち。

どう考えても年上のおじさんやお兄さん。全員見知らぬ人物だった。



親友は、モテていた自分に嫉妬していた。

だから男たちに売ったんだ。と。



襲われる。


ティアレは、その時ほど自分の人生に絶望したことはなかった。


でも…………。



『やぁやぁ君たち、淑女を襲うとはまるで猿のようではないかね? 』



あの時、あの場所で、最低の気持ちの時に。


あの人が私を助けてくれた。


そこから数分で辺りは血の海となった。

文字通り、たった数分であの人は動かずに男たちを全員殺した。


返り血を浴びて気が動転して笑いながら泣く私。

もう、どうでもいいやと思った。



この男が私も殺してくれたら、私も楽になれる。



そう思いながらも辺りに漂う死の匂いを掻い潜るようにシルクハットのおじさんがティアレに近づき、手を差し伸べる。


それだけでティアレは心臓が止まりそうなほどの恐怖を抱くが、その反面で男は柔らかい笑みを浮かべて言った。



『君はこの世界を変えたいと思うかね? 不幸な境遇、絶えない理不尽な暴力、そんな冷めた世界を変えたいと思うかね』



シルクハットのおじさんに言われて、ティアレは自然と首が縦に動く。


『……よし、なら君はこれから私の弟子となるが良い。ボクの魔法のすべてを教えてあげる。その代わり、君の人生は平凡には戻れない。それでも良いかね?』



魔法という単語。

さっき目の前で起こった現象が魔法。



それを理解した時にはティアレは決めた。


この人についていくと。

そして、さっきの魔法で理不尽に傷つける人間すべてを殺すと。








人生のすべてとはいかずとも、自分にとって命の恩人とも言えるあの人の出会いは大切な思い出だ。

綺麗な人生の一幕だった。




ティアレは涙を零して、これから起こるであろう死よりも自分の師の身を案じていた。




さようなら、好きでした。




心でそう呟くのと同時に、彼女の視界は真っ暗になる。













『安心しろ。峰打ですよって聞いていない!?ガビーーン!?』



彼女、『メビウスの輪』のパートナーであるシズクは持っていたスマートフォンのメモ帳でそう書いていた。



『参ったな、この子が気絶しちゃうと話が聞けないな。つーか、さっきの鳩って情報伝達のだよね。なら、あの後についていけばあの男に出会えるってことだよね!』




シズクは、淡々と文字を打ち込む。

その文体は今の彼女とは違って結構なキャラ崩壊を起こしているようだったが。


『よーーし! 見ていてよ葉月くん、私ってばこの前の借りを返しに行っちゃうんだからね!ファイオー! シズクファイオー!」



シズクはそう書いてメモ帳を閉じ、電源を切るとポケットにしまいこむ。

そして眠るように気絶した敵の少女を肩に担ぐように持ち上げると、上に続く階段を登る。







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