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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
輝きの裏にある綻び
50/88

50話 女神と少女と……

みなさんどうも瀬木御 ゆうやです。

いやー、忙しい日々っていうものはほんと最悪ですね(笑)


この夏はずっと仕事で遊んでないですし、休日は寝たっきりです。本当に不健康なわたしです(笑)



そんなわけで1ヶ月近く更新が止まっていましたが、この調子で明日も頑張りたいと思っています。


さーって! なんだかよくわかんなくなってきたぞ(笑)

へべが最初に力を行ったのは東條絵里の願いからではなく『腕』からだった。



左腕の出血を終えて、しばらく安静をさせたへべはすぐに行動に移った。



『……まずはここから』



そう言いながら、彼女は『とある組織』の研究機関に注目を浴びせた。



それは、汚れたお金を元手に精密な補助具を作り、破格の値段で海外のブローカーに売りつけている『表にはでない』会社だ。



そこに、注目を浴びせることにした。


すると、元々裏でひっそりとしていた会社が世間の注目を浴びることになった。



名のある投資家たちがこぞってその会社に資産をつぎ込む。



株も上がり、もはや裏で活動するようなものでもなくなった。


それこそ、汚い闇が光に引きずり出されるように。



力を使ってわずか2週間、その会社は過去の事件や詐欺紛いの交渉などが表沙汰となり、作り手含む社員全員が捕まる事態となった。


その前に、へべは自身の注目を外して製造場所に侵入し、そこから義手とその設計図のデータやファイルを全て持ち出していた。



そして、片腕が無くなった少女に義手を渡した。



最初は途切れた神経を義手の作動部分に繋げるといった作業があり、絵里は泣きながらもその苦痛に耐えて義手の装着に成功した。



次に、人工的な皮膚の問題もあったが、それも前述と同じ手段で外道の研究機関を破滅させた際に方法やデータを盗んだ。



そうして、16歳になるまでこの義手を人工皮膚で隠しならが生活することになった。




そして、ようやくへべは願いを叶えることにした。





東條絵里の母親の『病気』を『注目』させること。




その際、目の前にいなければ注目の設定ができないためへべは人間の格好になって彼女の母親に直接会うことにした。



初めて対面してへべは自分が消す『病気』の深刻さを知った


やせ細った顔。

顔はやつれたようにげっそりとしており、頭には髪の毛が無いのか帽子を被っていた。


しかし、その顔にはやはり芯に強い意思があるように思えた。


(これがあの子の母親……)


見舞客としてきたへべは、隔離されている母親の病室の外側から電話で会話した。



もちろん、相手は自分が何者か知らないはずなのだが。



『……あなた神様ね』



開口一番がそれだった。



『なんで、私が神だと思うんですか?』


『ふふふ……』



そう聞くと、うっすらと笑って笑顔を見せる。

本当に、死にそうな病にかかっているとも思えない。



『……分かるわよ。だってあたしはあの子の母親なんだから。あの子が見舞いに来なくなってから来た見知らぬ見舞客って、もうなんかわかっちゃうわよ』



その一言で、自分の娘が何をしたのかを悟っているとへべは知る。



『……あの子は、自分の腕を界外に使ってわたしを出しました。申し訳ございません』


そして、へべは母親に今までの経緯を語り、深々と頭を下げた。



『……そっか、あの子はやっぱり』



母親はどこか落ち着いた雰囲気のまま小さく頷き、ベッドの傍に置いてあった写真たてを取った。


その写真立ての中に入っている写真には、母親が今はない長髪をなびかせて赤ん坊を抱き、横には顎髭がボサリと生えた男が立っている。


懐かしそうに、そして悲しそうにその写真を眺める。



しばらくそのままだった。


そして、ようやく何かに意を決したように写真たてを戻し、へべの目を見るように言った。



『女神さま、娘を頼みます。この病気を消したところでわたしの運命は決まっています。もうこの命は短いのです』


『なにを言って……』


否定しようとするへべに首を振る。


『ううん、分かるんです。運命が変わったのはこの病気です。もし女神さまの力を使ってこの病気の運命を破滅に導いても、死ぬ運命が変わらないわたしはここまでなんです』


『そんなことはない! わたしの介入で運命を変えることができるんだ! なら』



『いいんですよ。あなたも薄々分かっているんでしょう……』



それでも否定し続けた。

それこそ、神が人間を否定するように。


けれど、ただの人間である彼女はそんな神様の言うことに決して頷くことはなかった。



母親は死ぬ。




それは、ようやく信頼した人間の少女の願望を実現不可能にする禁句だ。


母親が救われなければ、自分はまた後悔してしまう。

それこそ、詐欺(さぎ)(まが)いと揶揄した自分に。



『あなたには生きてもらわなければ、あの子の期待に応えられないんだ!』



だからこそ、必死だった。



それでも、東條絵里の母親である彼女は、うっすらと幸薄そうに笑顔を作る。



女神に向けてだ。




『……でしたら、約束してください』



『な、なにをだ?』



『もし私が生きれたら、あの子と三人で一緒に生活しましょう』



『そ、それはもしもの話だが、本当に私も一緒でいいのか?』


『えぇ、歓迎しますよ女神さま。でも、もし死んだら』



そこから見せる表情は今までと変わらない。

でも、言葉に乗せられた意味は違っていた。


まるで、そこに固い意志があるように。



『あの子を、私以上に面倒をみて育ててください。約束ですよ?』












それからすぐにへべは『病気』に『注目』を注がせた。


最初は雑誌や地方の放送局で病気についての記事が掲載する程度だったが、一週間で世界中の放送局でおなじ病気についての特集が組まれて流された。


そして、募金活動も始まった。


資金も集まり、同じ病気に苦しんでい患者達の治療費に回された。


それと同時期には高名な医師が集まって、その病気に対する治療法を議論しあい。結果、治療法の確立に成功した。



その期間はたったの1ヶ月。



それだけで、治療不可能と言われた病気の治療法が確立し。



世界中から一時的だがその病気が消え去った。





東條絵里の願望は叶った。


病気が消えたのだから。


けれど、彼女は黒いワンピースを着ながら俯いていた。

その側には同じ黒の女性スーツを着たへべもいた。

彼女は風呂敷に包まれた箱を持っている。



辺りには線香の匂いが立ち込めていた。




母親の容体が急変したのは注目を集めて三週間後のことだった。


その際に意識を失い、そのまま目を開けることはなかった。



東條絵里の夢は、叶わなかった。


女神 へべ の希望が、消えた。



『……おかあさん死んじゃった』


『……ごめんなさい』



へべは、女神である自分が、神という地位にいる自分が人間一人すら満足に救えないことが悔しかった。


『三人一緒に暮らそう』



へべは悔しく歯噛みする時、あの時交わした約束を思い出した。



目の前で肩を落として覇気を失った自分の契約者である少女。


その少女の生涯を共にすると誓い、かなえられなかった自分。




『もし死んでも、あの子を、私以上に面倒をみて育ててください。約束ですよ?』




だから、あの約束を守ることにした。



へべは項垂れて涙をポロポロと流す少女の肩に手を乗せた。何事かと思って顔を上げる自分の契約者に、へべは言った。



『……絵里、あなたの夢を叶えられなくて、本当にごめんなさい。あの人と交わした約束も叶わなかった……。私ってば本当にダメな神様ね』


『そんなことない……』



絵里は涙で濡れたほおを手で拭いながらへべの顔を見ようとするも、また濡れてしまう。


それでも、少女ははっきりと言った。



『女神さまのおかげで世界中にいるお母さんとおなじ病気の人が消えたんだよ。だから、それだけでもじゅうぶんなんだよ……』



それに、と付け足すとボロボロの顔で言う。



『おかあさんは……さいごまで頑張ってたんだ……。輝いていた、だから、女神さまのおかげなんだよ……』



その次の言葉は、涙と嗚咽でもはや声には出ていなかったが、口の動きとその表情から読み取れた。



ありがとう と。





それを聞いてへべは決心する。

初めて会った時に抱いた思いと、母親との約束。

そして、自分を動かしたであろう言葉を思い出す。



《この世界に輝かない石はない、どんなボコボコの石でも水や布で磨き続ければいずれかがやく。最初から輝いている宝石は、にせもので、ホンモノは、どんなに汚れても光って輝く》




この言葉とあの約束。


その二つを神話の女神は教訓として。



『絵里、あなたは世界中の人たちを光り輝かせたいのよね?』



女神がそう聞くと絵里はコクリと頷く。



『なら努力をしなさい。あなたがそう望むなら、私はどのようなことでも付き合ってどこまでもあなたのために尽くします。あなたが諦めない限り、あなたがみんなを光り輝かせられる。私はそう信じています』


いい聞きかせるように、それでいて約束を結ぶように語って自分の小指を出した。


おやゆびげんまん。


この短い間で覚えたここ日本の約束事を守る際のおまじない。

それにはどんな力もない。でもこの瞬間、二人の間にだけ効力のある言葉だった。



『約束します。あなたを輝かせ、その力を持って神の御技すら超えた奇跡を多くの人々に流布することを。あなたには出来るはずです』




そう言われて少しの間考える絵里。

まだ小学生の彼女にとってはとても難しく、内容をシビアに考えてもまだ想像もできなかった。


けれどこの約束は大切だ。今後の人生も、亡くなった母親の意思を尊重しようとしているへべの為にも。




そうして、ようやく答えを口にする。



『うん……。わたしは、みんなを輝かせる。その為に、いっぱい努力する。だから、手伝ってね?』



絵里は言うと自分の小さな小指を、目の前にいる女神の小指に絡めさせる。



『……約束ですよ絵里? 嘘ついたら針千本ですからね』



『女神さまこそ』


『フフ』



泣いていた顔に笑顔を作って優しくこちらを見る自分の契約者でもあり主人でもある少女を見つめ。今度こそ、今度こそこの願いを本当に叶えようと本心で思った。



女神はそうして『(たいらの) 彩女(あやめ)』という個人となって、東條(とうじょう) 絵里(えり)の保護者となった。




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