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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
最初の騒動
30/88

最後で最初の決着



「…………お前達が細工したメールは確かにすごい。強大で巨大な儀式場の形成、それだけなら確かにすごい。でも、これはさすがに凄すぎる」


神宮寺が地上で起きていることについて感想を言うと、アリアはそれに加わる。


「なるほど。ようはデカイ容量のメモリーに元々入れる大きなデータが消えて、その後に待っていた小さなデータが順番に入っていくようなものかしら」



ようは『元々いる大きな物』が無くなって、そこに『小さな物』あるいは『無関係の物』が入ってきた。

そしてその大きな物がニア達の出そうと思っていた物で、儀式場が無くなったのを気に他の神達が介入し始めている。



「えーーー、なんか良くわかんないが。界外って術者がいないと無理なんじゃねーの?」



会話に疑問を呈すように霧島が意見する。それをアリアは「確かに」と言った後に、それに答える。



「けど、今回のコレは結界を広げて出す場所を拡大したって考えれば良い。パスコードのない特別な場所と言えばいいか。だったらそこにニアがいても、他の人間が何の準備もしないで界外をすることができるわけ」



「つまり」と、そう付け足して霧島からニアに移すように、きっぱりと言い放つ。



「この街が、才能があって界外を知らない人間が無意識下で出した物が、あの『都市伝説』ってこと」


「そ、そんなの、一体どんな感情を媒体にすれば……」


「簡単だろ。警察官はもちろんのこと、市民を守るって意志を持って下では色んな人が行動しているんだ。そっから『善意』が同一になるのは普通初めてだ」



神宮寺は一歩前に出る。

それに反するようにニアは一歩後ずさる。



「お前たちは、この東京の善意と『都市伝説』に負けたんだ」


さらに一歩、神宮寺が前に出る。

それと共にアリア達も一歩踏み込む。



「さぁ、リアルを見ようぜ。お前らの計画も、夢も、出来損ないの神頼みも、ここまでなんだよ、ニア!」


神宮寺は、両の拳を握りしめ、次の一歩で駆けあがる。

速い。

その速度で、2人の距離は一気に縮まっていた。


神宮寺は、この事件の決着を着けようと、ニアを殴って昏睡させようとしていた。


だが




「あら、それとこれは別じゃないかしら?」




そう、ニアが言ったのを聞いた直後、左の耳元を何かが触れたような感触があった。



「孝作! そいつまだ諦めてない!! 」


後ろからアリアの焦る声も聞こえる。

そしてそんな間にも左の耳元の何かが、どんどん明確になっていくようだ。


しかし。


「ならその前にィィィィィィィ!!!」


「ぐぶっ!?」


伸ばした右拳を一旦解き、空いたその手でニアの厚化粧に塗ったようなその顔を、鷲掴みにする。

そして、左の耳もそれと同時に何かに噛まれているような激痛が走る。

左耳から血が弾けるように勢いよく飛び散った。

痛い。


高校生で、神格者という体質の神宮寺 孝作でも、その痛みには耐えられず痛みに顔を歪ませる。


その歪んだ顔を、わずかコンマ数秒で動く世界で、ニタリと神宮寺の手のひらの中で笑うニア。


しかし、その笑みも僅かで消えた。


『決着を…………』


痛みで声が出ないのか、口だけでニアに言い放つ。

ニアにしか見えないその口で笑いながら、彼は言い切る。



『着けるって言ったろ?』



その勢い、神宮寺はニアを神の力を使って投げる。

数回地面をバウンドしたニアの体は、静かに静止し、少なくない血を流しながらその場にうつ伏せになっていた。


うごきはなかった。


もう手も動いていない。


おそらくフェイクはない。




それを遠くから見た神宮寺は、その事実を確認すると、ゆっくりと目を閉じ、自分の体が動かせない事を知覚した。



(あぁ……こりゃさすがの俺も……。いや、アレが……俺を生かすかもな……)


そう頭に思い浮かべながら。

神宮寺は静かに、息を止めていた。














アリアはニアが最後に界外したものが何か知っていた。

それは、ヒュドラ。


かつて『ギリシャ神話』に出てきた数本もの頭を持っている蛇。その蛇が持つ毒は不死身の肉体ですら蝕み、その永遠の命を捨てたくなるほどの猛毒。


それが神宮寺の耳を襲った蛇。

界外で呼ばれていたので、実力の30%だが。その毒はこの地上で一番の毒と同じくらいに危険なものだ。



「……うそ、ねぇ、嘘だよね?」


そう言いながらも、体はすでにヨタヨタと動かなくなった神宮寺の元に駆けつけていた。


体に触れた時、さっきまで動いていた体が冷たくなっていた。


信じられない。



アリアは必死に神宮寺の体を揺さぶる。



「…………ねぇ、起きなよ。ここは学校じゃないんだから。今ならそんなイタズラ許してあげるから、早く…………」



その頬を、涙が伝っていた。

いつもの強気なセリフが、若干揺れていた。



「なんで……なんでぇ……ッ!」



そう悲痛な叫びをした。そんな時だった。



「なぁ、下田アリア。こ、これは俺の提案なんだけどさ」



素っ頓狂に、間抜けな声で提案を出す霧島。

そんな霧島にアリアが鋭くガンと視線を向けたので一瞬怯えたが、やがて、立ち直すように言い切る。



「俺の、ヨグを使ってそれは解決できないだろうか?」


「…………何言ってんの? ヒュドラの毒は全身に回って犯されない場所なんてないと言われているってのに。解決できる……」


「いやさ、その毒が治せるとかだったらどうよ?」


「はぁ?」



霧島の意味不明な説明と内容に眉をひそめたが、それと同様に、ヨグが神宮寺の近くに近づいていた。



「ヒュドラって、確か他の神話にも出てくるんだよねー。たしかそれはこう言ったそうだけど」



神宮寺の頭の近くに屈むと、そのぶかぶかの袖を神宮寺の顔の上に垂らす。



「『クトゥルフ神話』 後世に書かれた本でありながら、他の神話とは違う邪神についてを書いた『創作の神話』。それにはその蛇に似た生き物もいる。つまり」



「その世界の副神に、出来ないことはないってこと」


すると、垂らした袖が光り出して、そこから黒い霧が吸い込まれるように袖口に入り込んでいく。


「空間と時間。あたしが本気を出せば時間を戻しても良かったんだけど、未来は変えられないからダメだし。なら空間、あたしの世界から毒を吸い出せばいい」


ヒューヒューと、黒い霧が神宮寺から出なくなった。そうして、ようやく神宮寺の鼻と口から呼吸音が聞こえ出した。



「お前すげーな。やっぱり神様なんだな」


「あなたこそ。まさかクトゥルフ神話を勉強しているなんてね、感心したわ」


「へ? いやしてねーよ。する気ないし」


ヨグは、それこそ「へ?」と驚く。

読み違えた。というより、霧島が当てずっぽに言ったことに驚いていた。


「それじゃあの言葉の断言は一体…………」


「なに、そんなの決まってんだろ?」


そう言って赤いランプをバックに、それこそヨグも見たことないその姿と顔で、彼は彼女に言った。



「お前を信じているから。なんたって俺が認めた神様だからな」


それを聞いて、ようやく何かを満たしたヨグ。これが欲しかったのかはわからない。しかし、誰かに必要にされた瞬間は悪くないものだ、と。



そんな良い感じの二人を横目に、神宮寺の寝顔を眺めるアリア。



「………………良かったぁ」


ちゃんと息をして、体温も上がっている。

その当たり前の生の感触を手で感じ、触れて確信する。


何事にも無茶をする神宮寺の性格で、死にそうになるのは自業自得。そう割り切っていてもこのドギマギした気持ちがアリアには何かわからない。


いや、本当は知っていた。


だからこそ、アリアはその感情を胸中にしまいこみ。本業に戻る。



まずは、ニアの捕縛とその記憶と才能の削除。

頭で仕事を割り切り、今後ニアの後ろからどんな闇が出てくるかを懸念し、ニアが倒れている場所に目を向けた。




そこには、全く知らない男と女がいた。




「ニア様。今回は我々の敗北のようで、各地で敗戦報告があがっております」



男は淡々とそう告げて、ニアをお姫様抱っこしていた。なにも知らない人物が見たら笑いものだが、知っているアリアが見たら奇妙だ。



「ニア様。わたしらの敗残兵たちは雇っていた傭兵に回収させておき、証拠も削除するように処置しておきましたよ」



女はそんなニアのボロマントを人って事務報告のように告げた。


いつ現れたのか分からない2人。

出で立ちもそれぞれ違う。


女は、まるで軍服のような格好をしており、帽子や胸に光る様々な勲章がそれを強調している。


男の方は、黒一色のスーツ姿で、その黒一色が背景に溶け込むように黒くて不気味だ。

白いワイシャツがなければ首だけのようだ。




「今回は引きましょう。いずれあなたの目指す世界を手にするその時まで」


「出直しましょう。あたしらが準備を終えるその時まで」



そう言ってくるりとアリアたちに背を向ける。

このままではいかない。


アリアはポケットに入れていた紙人形をばら撒き、界外術を瞬時に行って地面からたくさんの腕を呼び出し、その2人の背中に向かわせた。



「全く、あなた達は運が良い方だ」


その腕が、男の前から伸びてきた巨大な禍々しい腕にぶつかり、逆に全ての腕を切り刻まれる。



「この計画の欠点は、ニア様の遊び心、ワザと配置した実力のない人員、そして最高幹部である私たちの不参加」



禍々しい腕が男の横を戻っていき、その出している者の姿をアリアは見た。


いつ現れたのか見ていなかった。

それは子供、フードをかぶった足が無い子供のような異形。

腕はその下半身から出て来ているようで、そこから戻っていく。


「本当に、あたしらも参加したかったのにね。まぁ『救済』の暗示は今回の計画には相なすからかな」


二人はお互いに子供の元に行くと、その子供の下からまた腕が出てくる。

その腕にニアを担ぎながら二人は掴まり、そのままアリア達の方に顔を向ける。



「これはヒントだと思うんだな。この計画が意味することや、我々の構成員が全員が貴様ら以上のベテランだということを」


「この世界を救うためなら今を滅ぼすのが一番。それは常識でしょう」



そう言い残して、二人を掴んでいた子供の姿をした神はビルから飛び降りる。


それからしばらくは静寂でシーンとしていた。

なんとも言えない、気分だった。

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