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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
最初の騒動
3/88

3話 Summons@俺の昼飯(ジャムパン)

数分前にゴミクズみたいにボコボコにされた神宮寺孝作は、幼馴染の下田アリアと並んで下校していた。

……顔の腫れが凄まじく、表現しにくい顔になっていながら。


「うぶぅう……」

「ほら、止まんないで歩きなさい。殴るわよ」


もはや小さな女の子に連れられるペットのブタ状態の神宮寺孝作。

見慣れた光景なのか。通り過ぎる同級生や先輩やらがなにやら温かくもその一歩手前のような笑みで2人を見守る。

やがて、学校の人の目がつかなくなった頃に2人はようやく口を開いて会話する。


「お前なぁ、なんでか知らないけど高校生になってからの俺に対する暴力がおかしくなってるだろうが! 女の子(笑)ならもっとおとなしく暴力を振るえ!」

「なによその妙な暴力……。つか、今私のこと嘲笑ってなかった?」

「全然!! むしろお前を嘲笑う奴がいたら殴り倒してやるよ(^∇^)」

「……自分で言っといて死を選ぶなんて、やっぱり孝作は真性のマゾ野郎ねぇ」

「いやーお前をからかうの楽ぐりゅばっは!!!」


誰もいない帰路で、二人の若い男女が殴り合い(女が一方的)をする。

それがさも当たり前のように。

夕日が彼らを紅く染める。


しかし、その夕日の色が紅から徐々に黒く染まってくるにしたがって、二人の纏う空気が変わる。

下田アリアの顔は神妙な面持ちに、瞳はより一層鋭くなり。

神宮寺孝作は腫れたかほおを手でさすりながら、真剣味に帯びた顔つきに変わり。


「………ほっぺが痛てぇ」


などと呟いて全くシリアスさを感じさせない神宮寺に、隣を歩いている下田アリアは話しかける。


「それよりも、昨日入った依頼については目を通しているわよね?」

「まあな」

「それじゃ話は早いわね」


そう言うとアリアは、自分が持っていた学校指定の鞄に右手を突っ込む。

中で何かを探し出すと、それを鞄から取り出す。


それは8枚もの紙束。紙には様々な漢字の文様が刻まれている。


精霊解放(でてこいバカども)


アリアはそう呟くと紙束をその場に放り投げる。

すると、一枚一枚が小さな長方形の紙が人のような形に変わる。

地面に落ちる時には紙が一つも残らず二本足で立っていた。


「さーて、これから私は『索敵』の出来るのを呼ぶから。あんた達は『探す』って心に強く思ってなさい」



それを後ろから眺めていた神宮寺孝作は、小さい頃からこれを見ている為か不思議に思わない。


これは神を呼び出すための儀式。

現代の世界ではありえないファンタジーな光景だ。

しかし、それは表の話だ。

この世界の裏側には『界外術師』と言う神を呼ぶことが可能な才能のある者たちがいる。

『界外術師』はこの世界にはいない神や神話の存在を呼ぶことができる。

しかし、神を呼ぶことは界外術師一人では不可能なのだ。

矛盾していると思うがそうではない。

神を呼ぶには界外術師の他に普通のたくさんの人間が同一の感情をそれぞれ思い、さらに神にお供えする物を用意した時にしか神を呼ぶことができない。

その為、四百年前にあった事件に。邪神などを呼び出そうとしたカルト集団の総勢69名が、界外術師と他3人を残して全員死んだ事件がある。彼らは『殺意』を強く意識したために儀式場で殺し合ってしまったのだ。

このような経緯があるせいで『悪意』で神を召喚するのは禁忌となっている。


そんなこともあり、約200年前までは界外は本職の者でも運試しの儀式だった。

しかし、そんな時にある界外術師が使い魔、もしくはそこらに彷徨う霊魂を使役することで召喚する方法を発見した。

それにより、形式上は『界外術師なら誰でも簡単に呼べるもの』となった。


だがこれらの召喚法にはある難点があった。


それは質と量だ。

使い魔は質の高い力を所有し、召喚師の感情を素直に思い浮かべてくれる。

そのため、高確率で指定の神を呼び出せるが、この使い魔を呼び出せる数は上限4体までで、使役する界外術師側の体力に負担がかかるため限りがある。よって、界外術師とその他の技術と高い才能を有する者でしかこの使い魔は扱えない。


もう一方で霊魂は、どんな才能の薄い界外術師でも何億体も召喚が可能だが、元々未練があって彷徨っていることもあり。言うことを聞いて『思い』を重ねても、呼び出せる神が邪神だったりする。

仮に意図した神を呼んだとしても、本来持つ力を引き出しにくい形で界外されてしまう。


このため現代になった今でも、界外術師達は容易に神を召喚することができない。


しかし、それらの常識が通用しない者がいた。

下田アリアという少女だ。


彼女は生まれた頃から『使い魔に好かれる性質』の持ち主だった。いや、むしろ守られている。


使い魔たちは、神や自らの召喚時に術師の肉体に課する負担全てを、使い魔が自ら負担して彼女を守り支えているのだ。

そんな事情もあり、彼女は何体でも使い魔を使役することができ、一度に何十体でも神を召喚することが可能だ。


そんな、何体でも連続で神を召喚するほとんどチートのような彼女を知っている者はみな口を揃えて言う。

天才界外術師(プリンセス)』と。


さて、そんなほとんど無敵の少女、下田アリアの背中を真面目な顔で眺めながら、心中では「鳥の胸肉の方が胸あるよな……」などと明後日の方向に思想を傾けている神宮寺。


そんな神宮寺(バカ)の目の前では、二本足で立った紙たちがアリアの指示に、こくりと四角い頭で頷く仕草をする。

それを確認したアリアは、また鞄から物を取り出す。



それは、一つのジャムパンだった。



「え、それ俺が今日の昼食のために用意したやつじゃ……」


アリアは離れたところで自分を眺めていた神宮寺の発言を聞かなかったふりをして、そのジャムパンを地面に放る。

すると、地面に落ちたジャムパンから無数の幾何学的な模様が広がる。



ちなみにこのジャムパンは、神を呼ぶ際に必要な贄の役目を務めている。

それを知っているからこそ神宮寺孝作(アホ)は絶叫する。


「なんで俺のジャムパンをお前が持ってんの!?つーか、勝手に贄に使うなよぉぉぉぉ!!」


そんな背後から聞こえるバカ(孝作)の声に少しイラっとしながらも、完璧な無視を決め、静かな声音で呪文を唱える。


「早くでてこい。こちとら界外術師の時間は貴様ら神様に比べりゃ少ないんだ。契約もとっくの昔にしてんだろうが早よ出てこいや。あん? 」


………召喚法の呪文は人それぞれだ。

真面目に定型文を言っている奴もいれば、才能さえあれば適当に言う奴。

下田アリアは淑女でありながら、後者の方だ。

ようは、神より界外術師の立場のほうがデカかったりする。

だが、これは呼びだす神にもよるので、状況によってはちゃんと定型文で唱えたりする必要がある。


言いたいこと言ってスッキリしたような顔をして唱え終わったアリアは、幾何学的な模様から離れるように二歩後ろに移動する。


それと同時に、幾何学な模様が広がっていたジャムパンが、フッ、と空間に溶け込むように消えてしまった。


「俺のジャムパンンンンンンンンンンンンン!!!!!???」


神宮寺の絶叫が迸った。

同じタイミングで、ジャムパンがあった場所にいつの間にか人が立っていた。


それは着物を着た可憐な少女だった。

一見してただの少女のようだが、人間にはないものが付いている。


獣の耳と尻尾だ。


場所が違えばコスプレの類のようなものだが、人気のない道端でそれらの要素は怪人物の烙印を押されそうだ。


そんな見た目が怪人物のケモミミ少女。

顔も同じ年頃の子供と並べても違いが出るくらい凛々しく気品のある表情だ。まるで美形の日本人形だ。

しかし、雰囲気が違う。

子供のように見える姿形でも身に纏う雰囲気が人間とは明らかに、遥かに違うものだ。

しかし、それとは対照的に周りの空気が眩む、漂う雰囲気も歪む。

まるで、辺り全体が少女の領域になってしまたかのように。


これこそが、界外で呼び出された神。



明らかに人外、そしてさらに高みにある存在なのだ。











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