最強の策
ニア達『約束された盤上』は自分たちの我儘が全て叶う世界を作ろうと、その思想の元で行動していた。
ある時は人を殺し。
ある時は資金を得るために汚い仕事にも着手していた。
しだいに、組織はデカくなっていき。最近まではある国の重要人物とも交渉するほどだった。
だが、彼らの考えは常に世界の書き換え。界外術は、あくまで利用するだけに過ぎなかった。
彼らは時期や好機が来るまで全員が慎重に行動していた。
それも、世界の裏にいる他の同じ界外術師にも気付かれずに。
そして今回、主神級であり、自分たちの計画に必要だったヨグ=ソトースが界外した。
それを好機とみた彼らは、ヨグと霧島が【フラッグ】を襲撃している間、界外に使う儀式とその準備を進めていた。
儀式としての布石に使ったのは、なんの変哲も無い世間一般で言う『迷惑メール』というもの。
一見、内容は胡散臭い業者がうまい話や催促の様なものだが、彼らはその普通の文面に少し手を加えたのだ。
たとえば、催促の文が前半にズラッと並んでおり、下まで読むものがいないことを想定し、最後の一文を界外に必要な文と言葉にしていた。
そして、このメールは絶対に消せない仕様になっていること。
魔法の類の様なものに思えるが、これもれっきとした界外で呼び出されたものが細工したもの。
通常なら読みもされず削除されるこれらを、自動的にメールフォルダの下に混ぜておくだけの、くだらない力だ。
けれど、こうした力によってメールを受信したその携帯電話を、歩く儀式場に変えていっていたのだ。
そこからは同じ手段で、何万通ものメールを東京中の携帯という携帯に送り。巨大な儀式場を少しずつ形成、少しずつ環境を変えていた。
各病院に入院中の不良たちの恨み。
東京中に存在する儀式場。
誰にも恨みは消せず、メールも消すことも不可能と思われていた『約束された盤上』の最強の策。
それが、わずか数分で瓦解していた。
正確には最も打開出来ない点を、ニア達が練った策をこのただの『神格者』の少年に、粉微塵に破壊されていた。
「いつ気付いたのよ!!」
ニアはヒステリックに叫ぶと、歯をガチガチと神宮寺が立っている場所まで聞こえるくらい鳴らした。
「さっきだよ、地図でピンを指してる時。そん時に、東京で起こったことで些細な事を探してた。最初は妙な看板やシールが儀式場の形成をしていると思ったけど、そんな単純な思考じゃお前とは対峙できないからな」
「な……」
「だから、条件を変えて『最近届いたもの 東京』で調べたら、案の定迷惑メールに突き当たった。でもこれも些細な事で、最後の一文が解読出来ないって、質問を掲示板に書いてたのしかなかったけどな」
判明した経緯と見つけた経緯。
その両方が分かったが、まだ分かっていない事があった。
それは消し方だ。
あのメールは1通1通に効力があり、それら全てを束ねる神と界外術師は厳重に保護されている。
それも探すし出しても分からないくらいに。
「ど、どぉぉぉぉして!? あのメールを消せるわけが無い!! 仮に消せても……」
「はいはい、どうやらリアルが見えて無い様だったのはお前達だったんだな」
「な……っ!!」
「都市伝説、人々を怖がらせたその伝説がこの街を救ったんだ」
そう言って、神宮寺はスマホを見せつける。
画面は砂嵐で、ザーーーッ、と音がしていた。しかし、画面の向こう側ではなにやら叫び声が響いており、何かが起こっていた。
「な、なんだってのよ……」
「本物達だよ。本物達」