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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
最初の騒動
25/88

約束された盤上の真理

「……あのさ、拳銃を頭に押し付けるのやめてくれない?」



ヨグと霧島が改めて契約を結び、改めて対等な関係となった場面を終始見ていた少女、下田アリア。


彼女は今現在、その霧島に抱えられながら拳銃を突きつけられていた。



「おっと、すまねぇな」



霧島はそう言って拳銃を退き、抱えていたアリアを降ろす。


「……あんた、不良を襲撃したのには変わりないのは分かってるわよね」



「あぁ、その罪は後でどんな方法でも償う。だから今は許してくれ」




アリアは霧島の顔を見る。

初対面で泣き喚いているような醜態や、記憶や才能を消されることに対する恐怖もない。

迷うがなく、本当に決心が付いた顔だ。



「……わかった。今はあのニアってヤツらのやろうとしていることを阻止しなきゃいけない。あんたの処断はその後でやるから」


「すまない」



短くそう答える霧島に、アリアは一区切りついたと思いこれからのことを考える。



(ニア……、あいつらが行うことは、昔行われた魔女狩りを利用した国全体を結界にする界外術式。確かにこれは私でも予想がつかない)



それでも、アリアはある打開点と疑問点を見つけ、さらに頭を回転させる。



(この界外の術者がニアなら、気絶でもなんでもいいから意識を奪えば中止になる。けど、その保険はかけているはず。そもそも、この界外は一人じゃ出来ない。組織全体で行うか、あるいわ……)



そう思考を巡らせていた、その時だった。



ズガァァァァァァン。



どこか遠くの方から何かがぶつかり合う爆発するような音がした。

その音がする方を見ると、ヨグの空間に白い亀裂が入っていた。



「な!?」


「何が!? あたしの空間に何かが介入しようとしている!!」


「おいそれってヤバいのか!?」


「初めてだって言ったらやばさが伝わるんじゃない?」


「クッソ!!」


そう話している最中もヒビは広がり、やがて黒い空間に明かりが灯る。

その光は電気の光だ。

そして、ヒビが空間全体を覆うように広がったと思ったら、弾けるように割れた。



そして、三人はある場所に立っていた。

そこは、どこか大きな高層ビルの屋上の様だった。


強く吹く風が霧島とアリアの髪を荒らし、風が治まってから髪を掻き分けて真正面を見る。


目の前には、赤い航空障害灯に薄っすら当たり、夜の空気と景観に合うような出で立ちのボロマントの男がいた。


「うふふ、霧島くん来るの遅いんじゃないの?イラついて、こっちから介入させてもらったわよ」



数十分前に聞いたことのある声。

その艶めかしくも、太い声を発するのは一人しかいない。



「ニア……」


「それで? あなたの考えはどうなったのかしら?


「それよりもだ!! どうやってヨグの空間を割って来た!? 今の現象はお前が強いとかそんなんじゃないだろ!」


「えーー、そんなことを聞いても理にならないってば」


「答えろ!!」



目の前で起こったことに驚き焦る霧島に対してニアは平然と夜風を浴びる。



「んー、それは簡単。ここら辺、と言いますか東京中の空間が歪みつつあるからよ」


「それってまさか……!」



霧島に変わりアリアが驚く。

霧島は彼女がプロの界外術師とやらだと知っていたので、その彼女が驚くことが意味することを考え血の気が引く。



「もう儀式は始まってる」



その一言、それを聞いた時には霧島の腕はすでに動いていた。

持っていた拳銃の銃口をニアに向けて、弾を2発放つ。


初めてだったので反動で右腕を痛めてしまい、小さく呻いたが。

その2発の弾は、初心者の腕でありながらもニアの胸元を正確に撃ち抜いていた。



しかし



「うふふふふ、さすがはこの界外のメインちゃん。術者であるアタシをオートで守っちゃう機能があるのかしらねぇ?」



ボロボロのマントに空いた穴から血は流れず、そんなの解せずにニアは不気味な笑みで語り出す。



「この界外で呼ぶのは、あるおとぎの国の世界にいる悪神。かつて、様々な概念という括りと共に、すべての異世界そのものに闇を蔓延らせた名前のない神」



突然の説明。

何かについて語っているようだが、そこにすかさずアリアが否定する。


「そんな神いない!!そんな神がいたんなら原初の出典物に記載されてなきゃならない!それに、界外は人間の感情を使ってこの世界に現れるのに、そんな漠然とした闇や異世界、直接確認出来ないものをどうやって認識させて感情を抱かせるの!」


「簡単なことよ。ワタシ達がそれを教えれば良いのだから」




そう言ったニアの言葉に重なるように小さな爆音が、いや、どこか遠くで爆発音が響いた。

突然の出来事。

しかし、この爆音が偶然とはこの場にいる2人と神1人は思えなかった。



「……何をしているの?」



「言ったでしょ? 教えてあげてるのよ。この東京中の人間に」





その時、原宿の表参道近辺で巨大な藁人形が、道路に敷かれているアスファルトをボコボコと殴りつけていた。



その時、東京タワーの真下では全身を包帯で包まれた巨人が観光客を大きな掌で薙ぎ払っていた。



その時、浅草の雷門前では刃物を持ったピエロと警官が戦闘をしていた。





「今、この街に界外を知らない人物達が揃って化け物に対する恐怖を持っている。それが、自分たちを殺すものとも知らずに………」



ニア、いやこの『約束された盤上』のメンバー達全員が普通じゃない。

そこまでして界外したい存在。

アリアや霧島、さらにはあのヨグですらこのニアと『約束された盤上』に恐怖を抱いた。




「あんた達は……その神で何がしたいの?」


「ン? そんなの決まってるじゃない」




アリアの素朴な、しかし目的が分からないでした質問にニアは当然といった口調で答える。


「勝利すること。この世界に界外させた後、一度この世界は滅ぶわ。でもこのアタシとそれに従ったアタシの部下達がその神の従者として仕え、滅ぶ前の時間の世界に戻してもらうの」


「……………」


「………で、そこで何がしたいんだ?」




そのとんでもない回答に唖然とするアリアに代わり、まだ規模が想像できていない霧島がその続きを聞く。




「ンフ! アタシ達はその世界で「絶対に自分の都合のいいようになる』事が出来るの。従者なら当たり前、それこそが『約束された盤上』。世界はアタシ達の手のひらで踊らされるようになる!!」




そう言って両腕を横に広げ夜風を受けながら盛大に語る。

それと同時に、またどこかで爆発音がした。





「……なるほど、なんでこいつとヨグ=ソトースが必要だって言ってたのはその為ね。ようするに主神を生贄にそれを出すってね。同時に、界外術師の霧島も取り込めば永遠に消えない存在になってあんたの言う事を聞くようになる……と」



アリアは全てがわかった。

このニアという男やその仲間達がやろうとしている事が。

だが、それでもわからない事があった。





「それにしても、なんであんたや仲間達を使わなかったの? 主神級なら余裕で出せる実力を持っているってのに」



「ンフ、それはね『内包された力』が他の主神とは違うからよ。ヨグは、空間やその宇宙という概念の全てを支配するもの。そのせいか、他とは違って無限に力の供給が出来るのよ」


「本当なのそれは?」


「えぇ、あたしが常に7割を使えるのはそのおかげだけど……。頑張ればあんた達でも出せるでしょ」



「それが、出そうとした部下がみんな死んじゃったのよ。40人も犠牲が出て頭を抱えたものよ」




その発言が霧島の背筋を凍らす。

何気なく自分の仲間が死んだ事実を淡々と語る事に。



また近くで爆発音が響く。



「ヨグ=ソトースは出せない。どうやら体質が合う人物じゃないと界外しないようでねぇ。そこで霧島クン、あなたを攫ってヨグを呼び込もうとしただけ」



ニアの発言のすぐ後に、また爆発音が聞こえた。

どうやら近くでもやっているようだ。



「……そう、分かったわ」


アリアは全てに合点がいった。

つまりは、霧島がヨグを呼び出せるただ一人の特別な存在の人間であるという事。


これだけが知りたかった。



「そう言えばさ、何か気づかない?」


「あらー、もしかしてそう言って隙を見せる作戦かしら〜?なら無駄よ、喋って疲れたからそろそろアリアちゃんをぶっ殺してそこの2人を…」


「違うよ。周りの状況に」



その時、ヨグはアリアの顔が余裕で満ちている事に気づけなかった。

そして、周りの状況という言葉に何かを感じて今まで起こった事に疑問を抱く。



爆発音。



果たして、部下が出したあの付喪神達に爆発を連発して起こすような種類がいただろうか?


そもそも、こちらの付喪神は藁人形などの人形が大半だ。

その火と相性の悪い人形がわざわざ爆発を起こしてまで恐怖を抱かせるだろうか?



この違和感に気付いた時には、すでにニアの身体は地面に顔をぶつけ、屋上の床数メートルをバウンドしながら転がっていった。

わずかに見た視界の先には、高層ビルの外側から登ってきたのか、神宮寺 孝作がいた。


その神宮寺がニアの後頭部を蹴り、床に打ちつけたようだ。



「ぎゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


痛みに悶える絶叫するニア。

それも気にせず神宮寺はアリアの元に近づき、何事もなく会話を始める。




「遅いよ、孝作」


「すまないな。ちょっとお片づけをしていたら遅れた」


「他のみんなは?」


「全員が全員で、他の付喪神共を圧倒してる。多分数分でここに来るはずだ」


「よろしい」


それだけだった。

それ以外の会話はせずに、二人は倒れ悶えるニアに敵意を持った視線を向ける。




「あとは、お前だけのようだな。ニア!」





それは宣戦布告。

二人の少年少女が巨大なオカルト組織に、ちゃんと向けてのものだった。


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