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界外の契約者(コール)  作者: 瀬木御ゆうや
最初の騒動
2/88

2話 Peace@平穏な保健室(ヤバイ)

私立 波野高校。

この学校は埼玉県にあるが、東京のほとんど隣にあり校舎の横を荒川が流れているのが特徴の高校である。

全校生徒7000人、教員400名の定員数を誇るこの高校は校舎の敷地も校庭も広い。

一見して壮大な高校だが、最近では不良生徒が多数みられる。


さて、この物語の主人公である神宮寺 孝作は、波野高校の保健室のベッドでグッスリと寝ている。


先ほど、女子更衣室の女子全員に二階から思いっきり落とされて気絶していたのを不憫に思ったのか、強面とその仲間たちがみんなで神宮寺を保健室まで運んでくれたようだった。保健室の先生が言うには強面が「一週間後に決着をつけるって言っといてください」と神宮寺に言付けを頼んだそうだ。

その伝言を言うとすぐに先生が「安静にしてないとダメよ」と午後の授業を休むようにと忠告する。

すると、勉強やテストが苦手な神宮寺は「もちろん!」と先生に言うとすぐさまベッドの枕に頭を下ろし掛け布団を掛けて寝てしまった。

先生は最初、呆気にとられていたが。

神宮寺が寝ている間に彼の担任の元に行き、事情を説明して何とか話をつけたのだった。

保健室に戻ると先生は事務机に座り、改めて幸せそうに寝ている神宮寺の顔を眺めながら首を曲げて不思議そうに疑問を口にする。


「それにしても丈夫な子よね。二階から落ちたら軽くて骨折くらいするものだけど………」


実を言うと、神宮寺が保健室などに運ばれるのはこれが最初なわけではない。

最初の記念すべき1回は入学式の翌日からだった。

ある女子生徒が屋上から落としたスカーフが木に引っ掛かり、それを取ってあげようと登って落ちて運ばれたのが最初だ。

その日は朝から学校中が大騒ぎになったが、神宮寺が気絶したのみだった。(その後すぐに担任が付き添いのもと神宮寺を病院に連れて行ったが、無傷だったとのこと)

2回目は2月にリクレーションがてら学年で遠足で長野の山を登りに行っていた。

その途中、神宮寺が1人崖から誤って落ちてしまった時。

辺りは騒然として生徒間でパニックに陥ってしまった。無理もない、目の前で同級生が間抜けな顔で「あ」なんて言って崖から落ちてしまったのだから。

教員が警察や消防などに連絡を終え、レクリエーションが中止になろうとしていた時の頃、神宮寺 孝作は崖下の道端に倒れていたところを、地元の土木業の人たちに保護されたと連絡が入った。生徒をその場で待機させて数名の教師が麓まで下山した。片道はおよそ50分の道をだ。

保健室の先生はその遠足に参加してなかったので、当時ついって行った親しかった同期の女性教師が言うには「あの崖、自殺の名所みたいなものだったの。あの高さから落ちたら絶対助からないのに………」らしい。


その後も「それは死ぬ。いや、絶対死ぬぞ」的な事故に巻き込まれているが、高いところから落ちるのはもちろんの事。車やトラックにはねられてるのに、すべて保健室で眠って全快している。


それから彼は校内で『不死身の神宮寺』なる異名を生徒はもちろんのこと、教師までが陰でそう呼んでいる。


なぜここまで丈夫なのか、4年前に波野高校に付属した保健医、鈴木園美は彼が運ばれるたびに頭の中に毎回疑問符を浮かべる。

しかし


「ま、健康なら何でもいいけど」


今まで考えていた疑問をすべて頭のゴミ箱にほうっと捨てる。鈴木は、毎回考えた後はいつもこうするのがもはや習慣になっていることに嫌気を覚えながらも、事務机の上に広がる書類に意識を移す。


そして、何事もなく時間が過ぎる。

本当に何もなく。


だが、保健室の先生である鈴木は知っていた。この後に神宮寺がどうなるのかを。



時は流れて放課後。下校のチャイムが鳴り、保健室のドアの外が騒々しくなる。

だが、その下校の鐘に真っ先に反応したのが神宮寺孝作だ。

彼は鐘の『キーンコーンカーンコーン」の最初の『キ』が聞こえるかどうかの辺りでパチリと目を開け、『ン』の時にはすでに掛け布団から出ており、『コ』からそれ以降の時には身支度をしていた。主に布団を畳んだり、制服のシワを整えたり。

やがてベッドから降り、「今日も早いこと…」と呆れた顔で呟く鈴木先生に深くお辞儀をしてすぐに保健室のドアに向かう。

もちろん下校するために。



「よっしゃ!今日は早く帰ってテレビ見ながらダレるぞー!!」

そう意気揚々に言いながらドアの取っ手を手にして開けようとしてた。

…………………………してた。

その直前、ドアが勢い良く内側に開き神宮寺の顔にぶつかる。


「んなッ!?!?!!」


背中から床に倒れる神宮寺は、ドアが開いた際にぶつけた鼻と顔面を押さえながら痛みに悶える。

ドアが内側に徐々に開き、保健室の外で神宮寺を見下ろすかのように、仁王立ちで睨んでいる女の子がいた。

女の子は、ボブヘアーの髪をしていて。目は怒っていて目が据わっているが、通常の時は優しさを帯びた瞳をしている。顔付きはいたって悪くない。むしろ良い。

しかし、胸部の方は表現としては「スレンダー」で、身長はその背に合うように150cmくらいだ。


「ねー孝作? あんたまた保健室に運ばれたんだって?」

「……今回は見逃してくれねーか幼馴染ちゃん」

「は、なんで私があんたを見逃さなきゃならないの? これから授業サボった分のノートを写す作業をするあんたを」

「いやさ、それなら毎度の事ながらここじゃなくて俺の家でやってくれない? ここでノートを写すのってなんかさ……嫌なんだよ」

「神宮寺家のおじさんやおばさんは息子がお隣に住んでいる幼馴染にノート写させてもらってる姿見たら悲しんで泣くわよ。……それに、あんたの妹が私のこと嫌ってるし」

「え、なんだって?」


急に口ごもった幼馴染の会話の後半が小さくなり、神宮寺は聞き取れなかった。そして問の代わりに足蹴にされた。


「……ともかく! 保健室の主って二つ名が付いた途端『俺ってば凄くね!? ねぇねぇ凄くね!?』……なーんて一日中私だけに自慢してきたあんたにそんな羞恥心が芽生えてるんだー。へー知らなかったなー」


神宮寺を見下す少女の目が、もはや冷たいを通り越して痛い。


「あーもー!天才ってのは、なんでどうでも良いことをいちいち覚えてんだよ! つーかそれって何ヶ月前の話だ!」

「まだ3日前なんだけど……」


あーいえばこーいう。


そんな進退する口論を眺めている鈴木先生。

神宮寺が保健室に運ばれると毎回来て文句を言いながらも放課後は共に下校する。

最初の頃は止めに入ったが、何回も同じ場面に遭遇すると「仲良しね」などと言ってしまう(当然否定されたが)


「そんなことよりお前なんか身長伸び……てないか」

「なに、殴られたいの抉られたいの? もしかしてMに目覚めちゃった!?」

「そんなお前はSだよな。え、サド? 違いますショートのえ……」


続きを口にする前に少女に顔を蹴られる。

すごい痛かったのか、顔を押さえて必死に悶えながら保健室の床をゴロゴロと転げ回る。

そんなミノムシみたいになった神宮寺に蹴りをお見舞いした少女は、今度は自らの拳をポキポキと鳴らす。


「撤回しなさい。あなたは今何を言いたかったのかしら?」


もはや、どこぞの世紀末救世主のようなセリフを吐きながら神宮寺に近づく少女。

対するどっかの「モヒカンヒャッハーー!」の雑魚キャラのように地面に寝っころがるイモムシ神宮寺。


ある意味修羅場の場面を保健医の鈴木先生は温かい目で見ながら思う。


(……毎回これ見てるとほんと浮気がばれた夫を倒す妻のような図よね)


そんな先生の的確な心情に、イモムシ神宮寺は当然気付かず。

ジリジリと近付く世紀末救世主少女(ケン○ロウ)に、最後まで抗おうとするために涙目ながらに言いたいことを主張する。


「そうだった!SじゃなくてAだなアリアは!高校2年でバストがAでしたね。いや、最近じゃどんどん周りの女子に抜かれて、俺の中のアダ名がガラパゴスでしたっけ!」


直後、どんな事故でもケロリとしている『不死身の神宮寺』と呼ばれた少年は、同い年で幼馴染の女の子、下田アリアに目も当てられないほどボコボコにされる。

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