14話 絶対的な力
廃工場では、ベルゼブブと名乗る老人がヨグという神と思念で会話していた。
しかし、すぐに切られてしまい。今は霧島の頭をわし掴みにしている。
「イタタタ多々痛い痛い痛い!!」
ものすごい力で掴まれているので霧島は頭部を締め付ける痛みに悶える。
「フェフェフェ……。おい小童、あのクソみたいな神はなんじゃ?」
そう尋ねてくるベルゼブブの声は優しく凛と響きだったが、行動と一切一致していなくて逆に怖い。
「痛い痛い痛い!! 知るかんなもん! 勝手に出てきて、勝手に契約結ばされてんだこっちはイタタタタタタタ!!!」
霧島はすでに涙目だった。
手足を縛られて地面に転がされ、よくわからないけれどおじいさんが突然怒って頭を圧力で痛めてくる。
まさに、さんざんである。
「……フン。おい銀城よ、ヨグが思念を切って消えたぞ。どうするんじゃ?」
「心配するなや。こっちにはウチらの愛用してる結界が張ってあるんや。いくら主神級でもこないなもんを超える奴はいないで」
グラサンがベルゼブブにそう言って周りにいた自分の手下、いや、傀儡達に命令する。
「もうそろそろやで! ウチらのトップが雁首そろえて来るのは!!気ィ引き締めや!」
すると、周りにいた手下達が皆一斉に休めの姿勢になり、微動だもしなかった。
「フェフェフェ、貴様の邪眼も恐ろしいのぅ。全く関係のない人間共の好奇心に漬け込んで洗脳するとは、もはや貴様が『約束された盤上』のトップになればいいんじゃないか?』
ベルゼブブは未だに霧島の頭を掴んで痛めながら銀城にそう言うが、とうの銀城は。
「いいえ、ワテはそないな人間じゃないんで。それに……」
まだ話している最中だというのに銀城の顔色が突然変わる。
ベルゼブブは包帯で見えないはずの目でそれを見て思った。
何かヤバい、と。
そして銀城は焦るようにベルゼブブに怒鳴る。
「なぁベルゼブブ、お前は何もしてへんよな!?」
「何を言って……」
「そんじゃ、何でウチの結界が潰されてんねん!! こないな事だとヨグに居場所ばれてもーてるで!!」
そう聞いてベルゼブブはふと頭に疑問符を浮かべた。
結界
それは古来より、悪しきものから自らを守ったりする聖なる囲いだ。
だが、ここで言う結界は魔法使いや魔術といったものではない。
界外術師が自らの身を他の神から守るためのものだ。けれど、彼らが口にしている組織『約束された盤上』の結界はそこいらの界外術師が使う結界とはだいぶ違う。
彼らが使っているものは主に主神級相手のもので、その範囲内の神なら破壊は不可能と謳っているほどだ。
それに、今回の結界の用途は守るものではなく存在を消す効果のものだ。
バレる心配もないはずだ。
だが、その結界がなんらかの力で見つけ出され破壊された。
それが意味するのは、主神級のヨグ以上の存在が今回の件に介入した。そんなところだろう。
ベルゼブブは思考をそこまで巡らせ。
「おい銀城! お主が言うことが本当なら早う此処から……!!」
どう対処するかを聞こうとして、横からタコのように伸びる触手に薙ぎ払われた。
「がっ………!!?」
触手に殴られるように打たれたベルゼブブは工場の壁に激突する。
銀城はその一瞬を見逃してしまったが、触手が出ている所を見てさらに絶句する。
その触手は空間を破って伸びていた。
横から見ると何もないところから触手が出ている様に見える。
しばらくして、触手が空間に戻っていくと、その穴から三人の男女が出てくる。
1人は青いシャツにぶかぶかのパーカー、下はジーパンを履いたボーイッシュな感じの少女。
2人目はふわっとした髪で、どこかの高校の制服を着ている身長が150くらいの少女。
最後に出た3人目はワイシャツにネクタイの167くらいの普通の男子。だが何故か雰囲気がなよっとしている。
「………で、今のが小うるさい虫で良かったのよね?」
ぶかぶかのパーカの少女が、呆然と立ち尽くす銀城に問いかける。
銀城は冷静さを戻すためサングラスをくいっとあげる。
「………せやな」
語気に少しだけ怒りの色を見せつけ、なんとか虚勢を張ろうとする銀城だったが。
パーカーの少女、ヨグ=ソトースはあっさりと見抜く。
「なに? もしかしてさっき界外したとかじゃないよネェ? ここであたしの一撃でやられるとか、あのジジイは出来損ないのクズの神様ってことかなぁ?」
ヨグは、内心焦る銀城にさらに追い打ちを仕掛ける。
「つーか、そこに転がってるうちの奴をどーして攫ったのかな? いろんな疑問を省いてまずそれな。ただあたしを入れるためなら、さっさと半殺しになり心を壊すなり危害加えるでしょ?」
「……知ってどうするんや?」
「あたしが界外して3日目の14回目の不良襲撃の時よ」
そう言ってヨグは自らが薙ぎ飛ばした老人が倒れている壁に向かって歩きながら喋る。
「あの日、不良を殲滅した後、あたしに不意打ちをかました奴らがいるの」
老人の元まで行くと、低く唸る老人の頭を掴み持ち上げる。
「そいつらは人間の女達で、こんなキモい感じの神を使役していたわね。全員ぶっ倒したけど」
そして掴んでいた老人の頭を、握り潰した。
血などは流れなかったが、代わりに老人の身体が灰のように崩れて空間に消えていった。
「……さて、どうしてなのかな?偶然じゃないわよねぇ」
そう言ってヨグは、今度は銀城に向かって歩きだす。一歩ずつ、ゆっくりと。
対する銀城の方は、自らが界外した神が消え去ったことによるショックと、ヨグの圧倒的な実力の前になす術がなかった。
だからこそだった。
彼はこの状況を楽しんでいた。