13話 Provocation@宣戦布告
喫茶店で頼んだコーヒーを味わう四人。
苦いコーヒーにお砂糖とミルクを入れながらまろやかにするアリア。
その倍以上のお砂糖をドバドバとコーヒーに投入するこっくりさん。
手頃な感じに空間を割って、得体の知れない液を取り出してコーヒーに入れて飲むヨグ。
ブラックオンリーにコーヒーを飲み大人の感じを味わいながらも、胃をキリキリとさせながら冷や汗を垂らしながら痩せ我慢する神宮寺。
四人が思い思いのひと時を過ごしていた。
そんな時だった。
「……ん?霧島いるの」
呟いたのはヨグだ。だが、さっきまで明るい表情だったのが一瞬で暗くなる。
「……おい、誰だよジジイ。お前がウチの界外術師を攫ったのか?あん?」
不機嫌に何かと対話するように喋るヨグ。 思念で何かと会話しているようだ。
「………孝作、少しの間ごめん」
「へ?」
急にアリアが神宮寺の肩に左手を置き、今度はこっくりさんの腕を左手で掴む。
「憑依」
アリアがそう言った途端、こっくりさんの身体が、スーッと消えてしまう。
それと同時に頭を抑える神宮寺。
「おい! アリアお前は急に憑依するな『ではアリアさん。私ぃは霧島を探し上げますぅ!』ってお前は仕事がはや『それじゃ、100%でいっきますぅよ!!』あーもーー!」
意識が混同して何を喋っているのかアリアには少し分かりづらかったが、とりあえずまずは行方不明の霧島の居場所を探すべく優先してこっくりさんに頼む。
「それじゃ、霧島の居場所を、細かく教えて」
こっくりさんは神宮寺の姿で「はい!」と元気よく返事をすると静かに瞼を閉じる。
「………居場所が分かりました!」
「良くやったこっくり。場所は!? 」
「お台場、東京湾沿いにある元海産会社の加工工場ですぅ。近くにたくさん黒い車が停まってるので分かりやすいですぅ!」
「あぁもう! なんか面倒くさいのに捕まってんのかよ霧島って奴は!!」
アリアがこっくりさんの力で居場所を見つけ、さらにはその霧島を拉致したとみられる第三者の勢力を確認した。
その間にもヨグは思念で霧島と繋げつつも、本人とではなく第三者である謎の老人らしき人物と会話をしていた。
『フェフェフェ、こんばんはですなお嬢さん。いいや、ここはヨグ=ソトースとフルネームで言っておきましょうかの?』
「なんとでも言えばいい貧弱な神。……いや、お前は界外されているクセに神の気がしないな?霧島を私や100%の出力が出せる神から隠すとか、お前はどこの神話の神だし」
『フェフェフェ………。その件についてはさっき界外されたワシにも分からんが、ワシらには造作もないんじゃとお答えしとこうか。ワシも神話では大切な役割を背負っているからのう』
「あはは、おっさん今『ワシら』って言ったろ? もしかして徒党組んでる雑魚神話の連中とかか!? そんな奴らあたしも昔から見てるよ全員哀れに死んだけどなぁ?」
『……フェフェ、良いじゃろ。なら霧島とやらはワシが食い殺してやる』
急に老人の声が違う音に変わる。ヨグには喋っているのか鳴いているのか聞き分けられない喋り方に。
相手を怒らせてしまい、思念の向こう側では霧島が今にも殺されてしまうかもしれない。
だが彼女は。
「やれるもんなら」
なおも挑発する。
それがクトゥルフ神話の副神としての余裕と優越感があるからこそ言える言葉だった。
『言ったなこの新参者』
対する思念の方では、老人の声に潤いが満ちるようにハッキリと言い返す。
しかし、これを聞いてヨグは。
「殺るチャンスはいくらでもあるでしょう? あはは、もしかして認知症かなー?界外された存在にもバカはいるもんだねー!! 」
『………フェフェ、なら殺さない程度に精神を壊してやるわい』
「もううっさいから下等さん。早く要件言えよ。それ頼む為に脅し文句言ってわざわざ私に連絡を入れたんでしょうが」
ヨグが質問を返すと、老人は黙り始める。しばらくして『フェフェ』と小さく囁いたのも束の間。さっきまで荒れていた話し口調が元に戻る。
『……そうじゃなヨグ=ソトース殿。ワシらは貴様にある提案を申し込もうと思って連絡したのじゃ』
「提案?」
『貴様、いや、ここに居る小童もわしらの組織に参加しないか? そしてお主が目指している『絶対のその先』の存在をワシらで追求せんかのう?』
「却下だ馬鹿たれ」
即答だった。
それを聞いて老人は息を呑む。
『な、なんじゃと……。この世界に界外した理由はこの小童の記憶にもあるぞ。ワシらがお主に加担すればものの早く『未踏』に辿り着けるはずじゃぞ。なのになぜ断るんじゃ?』
その質問を聞かれ、ヨグはさきほど神宮寺に言われたことを思い出す。
「よく聞きなさい下等な神。あたしはすべての神を倒し、その頂点に立つ事が『絶対のその先』に辿り着けると信じている」
『なら……!!』
「その最初に倒す神はあんた達なんだなコレが」
そう言うとヨグは座っていた椅子から立つと、向かい側に座っていた神宮寺とアリアの方に歩き出す。
そして、そのまま二人の腕を掴むと、二人にこう言う。
「さぁて、あんた達がお探しのウチの界外術師も、あたしがぶっ殺したい神の元へも、一緒にご案なーい!!」
ヨグは右足を上げると勢い良く地面に下ろす。
すると、床に不思議な光を放つヒビが広がる。
「嘘でしょ……」
「まさかですぅよね……」
アリアも、こっくりさんの神宮寺も両者とも顔を青ざめて呟く。
「あははは!!! そのまさか………よっ!!」
もう一度右足を振り上げて下ろすと地面が割れる。いや、空間が割れる。
この空間は空間や時間その他を司っているヨグだからこそ出来る力だ。
「さぁ! ショーの始まりだぜ!!!」
ヨグがそう言うと割れた空間に落ちるように入る。そして、腕を掴まれていた他二名も同じように落ちていく。
「ちょっと待て勘定がまだよ………!!」
「ヒャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………!!!」
そう言いながら落ちていった三人。
そして誰もいなくなったテーブル席の床にあった割れた空間は自動的に閉まる。
「お客さん? どうかなさい……」
ウェイターのおじさんが異変に気付いてテーブル席に来た時には座っていた四人の姿はなく、荷物も無くなっていた。
あるのは四つのコーヒーと使用後のおしぼりのみだった。
「………お会計踏み倒しやがった」
そう呟くやすぐに厨房に戻り、店長に警察を呼ぶよう伝える。