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ベアナックル・ヒーラー  作者: 夏野菜固定金具
1/3

ゲーム開始前

バーチャルリアリティゲームが製品化されて四年の月日が過ぎたのだが、自分の生活にはさしたる変化は無かった。なにせ当時の自分はラガーマン。朝から晩まで泥にまみれてボールを追いかけ人を比喩で無く跳ね飛ばしていたのだ。そんな俺を尻目に学校の友達は皆こぞって新しいゲームに夢中になっていき、休み時間の他愛無い話しも合わなくなって行った。猫も杓子もと言った具合になったところでやっとゲームを始めたのだが、バーチャルリアリティ専用のヘッドギア?は品薄のうえに高価だったからまずは普通のゲームからという事に落ち着いた。




普通のゲーム?を始めてから暫らくして、自分にはこういうゲームは合わないというのが解った。敵の攻撃は避けられないし当たったら吹き飛ぶしで詰まらない。むしろこの時間をトレーニングに費やした方がよっぽど建設的だと結論付た。この時自分は中学二年生。後から解ったのだが中二病というのを発症していたらしく、やたらと体を鍛えたり格闘技を習ったりしていたのは思春期特有の病気が原因だったそうだ。




部活動を引退して高校進学も決まった頃、進学祝いとしてバーチャルリアリティゲームのヘッドギアを買って貰った。ゲームに苦手意識が有りまくりだったので、以前から興味のあった古武道をバーチャル空間で習うのに使っている。この時はゲームを始めるなんて思ってもみなかった。なにせ土曜と日曜は進学先の高校でラグビーの練習に混ぜてもらい、平日は筋トレと中二病故に始めたムエタイという格闘技のトレーニングジムに通うという日々を送っていたのだから。




年が明けて節分が終わった頃、とある事件が起きた。自分が進学予定の学校で薬物の不正使用と暴力事件が起きたのだ。詳しくは知らないが結果として幾つかの運動部の廃部と試合出場禁止が言い渡された。その中にラグビー部があったのを知った時、膝に力が入らなかった。その場に崩れ落ちた。自分が取り組んできたものを否定された気がして。


それからはバーチャル空間での古武道の練習とムエタイ、筋トレを我武者羅に繰り返す日々が続いた。正直荒れていたと思う。家でも学校でも腫れ物扱いされる最中、通っていたムエタイジムが閉鎖されるという知らせが届いた。ムエタイジムの責任者と自分達にムエタイを教えてくれていたトレーナーのお爺さんがタイに帰る事になったのだ。聞いた処によると過去のわだかまりが無くなり、ある種の凱旋なんだとか。その時の自分の心情としては見捨てられたという気持ちと、おめでとうという敬う気持ちがせめぎ合っていた。




学校は春休みに入り、自分は発散の場という物を失った。ジムはゴールデンウィーク前までは希望者に解放するという事だったので当面は問題が無いと言えるが。




高校に入学してからは今まで以上の筋トレとムエタイの練習に明け暮れた。ジムには人がほとんど居なくなった。他のジムメイトは新しいジムを探しに行ったらしい。自分は残り一ヶ月無い練習を懸命にしていた。そんな汗臭いある日、トレーナーのお爺さんと責任者から餞別という形でムエタイの古式、ムエボーランと秘伝の形を授けられた。この時、自分は喜びを感じた。久しぶりに溢れる感情に戸惑った。この日から荒んだ心が少し丸くなったと思う。何せ学校で友達が出来たのだから。




ゴールデンウィークが始まる四日前自分唯一の友達、大伴大治郎おおともだいじろうと校舎裏で昼ごはんを食べていたらイジメの現場を目撃した。自分は丸くなったと言っても発散の場を求めていたし、友達の大の字も柔道部が事件のせいで駄目になってから自分と大体同じ日常を送っていた為、阿吽の呼吸でイジメッ子で鬱屈を晴らすのに賛成した。





変な話しだが、これがゲームを始めるきっかけになった。

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