第一話 三
7
昨夜の戦いで、音鈴は激しく消耗してしまった。そのため、伊織が霊力を注いでくれている。それでも、自分体を具現化するほど力は回復せず猫の姿となり、日向ぼっこを楽しんでいる。
「それにしても何なんだ奴らは?」
青龍は眉間にシワを寄せて呟いた。あの時の人間達は恐らく既に亡くなっていたのであろう。
そもそも、自分達はどうして亡骸だと気づかなかったのか。自分ならともかく回復をになっている音鈴が間違うはずがない。
どこにもわからない事件に憤りが募っていく。
「青龍様。そんなに怒っても何も変わりませんですニャー」
のんびりと日向ぼっこしていた音鈴がのほほんと呟いた。昨夜の事件の影響で自分が一番被害を被っているにも関わらず音鈴はのんびりと寛いでいる。
「おい。音鈴。そんなんであいつに負けた事悔しくないのか?」
「悔しいもなにも、あいつの術に惑わされたのは事実ニャー。それに、今度騙されなければいいことニャー」
音鈴は縁側で寝息を立て始めた。音鈴の姿を見ていると青龍も力が抜けてしまった。
音鈴は元々戦いを好まぬ妖怪。猫又で伊織と意気投合して式神に降った。それ以降、伊織の為に懸命な努力を惜しまないでいる。
「いいのかよ伊織。こんな調子で……。他の奴らに先をこされでもしたら……」
「構わないさ。この辺りの陰陽師は都の邪気払いに切磋琢磨しているさ。そもそもタダ働きなんてごめんだね」
伊織は一人暮らし。つまり、稼ぎがなければ路頭に迷う事になるのである。それだけは絶対ごめんこうむりたい。
妖や物の怪といった類は夜に活動するもの。それを退治する陰陽師は夜に活動するのが、筋の通った話である。
「ちょっと報告に行ってくる。それと、何か情報があれば収集してくるから……」
「それじゃあ、あたしがついて行ってやるよ」
玉緒が伊織の後を歩いてくる。残された青龍は不満をぶつける場所を探しに飛び立ち、音鈴は日向ぼっこを再び楽しみなおした。
8
都の中は予想以上に荒れ果てていた。陰陽師が丁寧に邪気を払ってはいるものの、穢れは少しずつ浄化していかなかれば意味がない。
人々は邪気の穢れに負けて、殆どの者が床についている。
「これは、大変な事になってきたな」
昨日まで活気に溢れていた人々が青ざめた表情をしている。街に活気がなくなれば異形の者達は都を闊歩するようになるだろう。
そうなれば、この辺り一帯人々は住めなくなってしまう。
「玉緒。俺はとりあえず志摩家へ行ってくる。都の様子をみてきてくれないか?」
「それでいいのかい?」
「陰陽師の仕事だからな……」
玉緒は伊織の元を離れ都の方へと飛んで行く。
「さて、どこから調べたらいいのやら……」
伊織は無意識の内に溜息を付いていた。