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第一話 二

 6

 都には黒い陰達が舞い降り始めていた。

 屋根に止まるや否や、黒くモヤモヤした陰は、羽のようなものを飛ばしていく。すると、羽が舞い降りた近くを通る人々が苦しみもだえている。異形のもの達は、確実に人間の負の感情や悲鳴、苦しむ姿を見ては何よりの喜びとし、人々へ災いをもたらしていた。


『ケッケッケ人間とは以外に脆いものだぜ』


 烏があざ笑うかの様に空から都を見つめていた。

 戌の刻を過ぎているにも関わらず、空よりも漆黒で烏よりも若干大きく禍々しい物を周囲に放ち、紛れもない瘴気が都を包み込みつつあった。

 都全体に瘴気が広がっていくのを烏は薄笑いを浮かべ『我が主に祝福を』と言い放つ。

 更には翼を高く広げ、黒い羽根を降り注いでいく。

 すると、空気が加速して悪くなり、黒い羽根に触れた植物や人々が次々に倒れていく。


 ーー


 伊織の胸にざわめきを覚えた。


「青龍、玉緒、音鈴」

「了解」


 張り詰めた空気が伊織の部屋を流れた。邪気の量からみて、普通の人にはどうしようもない状況だというのが手に取るようにわかる。

 報酬のないタダ働きにはなりそうだが、人々が困っているにも関わらず放っておけるほど落ちぶれてもいない。


「行った方が懸命なのかもしれないな……」


 青龍達に命令を下すと誰もいなくなった部屋の六壬式盤を見つめていた。


 ーー


 都で一番の大通りでは、人々が黒い風を受けて倒れていた。既に亡骸となり、白骨しているものもある。


「酷い……」

「やってくれたじゃないか……」

「クソ……」


 苦虫を噛み潰した顔で三人が邪気の強い方へと向かっていると、生きている人間達がいた。皆、虫の息で苦しそうに呼吸をしている。

 中には幼い子どもまで巻添えを受けていた。

 慌てて人々の方に駆け寄り状態を詳しく調べてみる。


「今なら何とか助かるかもしれません」


 音鈴は心臓の鼓動を確認し、自分が周りを浄化できれば何とかできると確信する。


「頼む!!」

「はい!!」


 音鈴は周囲の邪気を浄化していった。すると、虫の息で呼吸していた人々の呼吸が少しずつ穏やかなものへと変わっていく。


『もう少しで楽になれたものを』


 何かが青龍達の頭上へと飛んできた。恐らくは都に邪気を放った犯人かもしれない。青龍は槍を抱え戦闘態勢に入った。

 すると、何かは御構いなしの様子でこちらに強烈な瘴気を放ってくる。


「クソ……」


 青龍の体が少しずつ押し戻された。玉緒はこれ以上瘴気が広がらないように、結界を張り巡らせていく。


「これ以上人々に害を加えるのであれば許しません!!」


 音鈴が自分の中にある力を一気に解き放った。すると、辺りは一気に浄化されていく。そうなれば、青龍の力は思う存分に発揮させる事が出来た。


『何!?』


 烏は予想外の出来事に目を丸くしてる絶好の機会を青龍は見逃さなかった。すかさず烏の体に槍を深くまで射し込んでいく。


『ギャァァァァ』

「その傷ではそうは持つまい」

『その様だな。しかし貴様に命を奪われる覚えもないこの命、主様に捧げる』


 それだけ言い残して烏は何処へ姿を消した。


 バタン


 音鈴は倒れると、そのまま紙の姿に戻った。

 周りを確認すると、人々は気を失っているだけ。あるものは泡を吹き、あるものは蒼白となり、あるものは頭に大きなたん瘤を作っているが生きている。


「ん……?」


 倒れている人間達が何処と無くおかしい事に青龍が気づいた。よく見ると人から生気が感じられない。

 顔は薄暗く変化し始めていて亡くなったばかりの人間とは思えず首を傾げると亡骸が膨らみ始めていた。


「逃げろ!!」


 青龍の掛け声とほぼ同時に空へとかけ上がると亡骸は更に膨らんで弾けた。

 中から邪気が地中へと染み込み黒く染まっていく。


「残念だったな式神ども。ギャハハハハハハ!!」


 どこからともなく烏の声が喜びの声音を混ぜて響いていた。

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