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第一話

始めて書くジャンルの為いろいろとあると思いますがよろしくお願いします。

 〜プロローグ〜


 1

 この処、宮中にてとある噂が流れていた。

 それは、黄昏刻を過ぎると怪奇な現象が起きるというものである日、一人の男が歩いていると暗がりから琵琶の音が聞こえてきたそうだ。怪しがりつつも誘われるように音のする方へ足を踏み入れると、その場から男は姿を消したという。

 次の日、男の妻や友人達が集まり、いなくなった男を探すべくあちこち探し回ったそうだ。人々の話を集結しその場所に訪れると、地面に大量の血が染み込みボロボロになった衣服だけが発見されたんだとか。

 それ以降同じような状況で沢山の人が姿を消した。共通点は皆若い男という事とボロボロになった衣服だけが発見されたという事。

 今ではすっかり怯えきり暗くなる頃になると都を往来する人影が消えていく。

 所々に点在する松明と月明かりがぼんやりと壁や地面を照らしていた。

 そんな夜道を、十代後半の青年と二十歳を少し過ぎた女、それと十代半ば位の少女が逆三角形の形で歩いていた。出で立ちはというと、青年は青い山伏に似た服装をし、女は浴衣を着崩し、少女は巫女装束で首には大きな鈴と三人の服装は統一性がなくチグハグしている。

 時々松明を持った武士や陰陽師とすれ違うも服装は彼らと比べてみても明らかに目立っていた。


「琵琶ねぇ……」


 青年は独り言のようにつぶやいた。


「一応、男なんだから誘いに乗ってみたらどうだい?」

「バカいうな‼︎」


 青年は冗談混じりに言う女に対して本気で嫉妬した。


「フフフ」


 後ろにいた十代半ばの少女が袖で口元を隠すかのように笑ている。そんな何処か和む雰囲気の最中、噂の琵琶と思わしき音色がどこからともなく聞こえて来た。

 耳を済ませてみると透き通っているようで何処か不気味な音色は、大通りから少し離れた場所から聞こえてくる。

 彼らは怪しい琵琶の音色がする方へ足を向かわせてみると、暗がりで怪しく光る二つの目。

 青年が一歩だけ足を踏み入れた。すると先程まで聞こえた琵琶の音色が消え、怪しげな風がまとわりつくように流れていく。じっとりとした汗が額から流れ落ちる。

 間違いなく瘴気だ。

 青年は槍を召喚すると怪しげに光る目へと突き刺した。


『ギャァァァ』


 人とは思えない何かの叫び声が辺り一帯に広がった。その何かはその場から高く跳び大通りの方へと逃げていく。慌てて追いかける三人を先程の何かは待ち伏せてた。

 月明かりに顔が写し出され、はっきりと相手の顔が見て取れる。


「絡新婦」


 青年が戦闘体勢を整えた。すると、女は四方八方に透明な壁を張り巡らい、少女は後方に待機する。


 ガキン


 槍と絡新婦の腕が交差した。青年はバランスを崩し若干の距離を取る。青年の腕の部分が相手の爪によりほんの少しだけ破けてしまった。

 悔しがる青年に絡新婦は不敵な笑みを浮かべ喜んでいる。絡新婦は大きく腕を振り上げると勢いよく青年目掛けて振り落とした。


「おっと」


 青年は難なくかわし、体勢を立て直し絡新婦と再び対峙する。


『その動き式神か? お前ごとき式神が我ら妖ものに関わったのが運の尽き。死ねぇ‼︎』


 絡新婦は大きな腕を刃に変え青年目掛け振りかざした。


「死んでたまるかよ」


 青年はニッコリと微笑むと一瞬で絡新婦の後ろへ回り込み、槍を背中に突き刺した。


『ギャァァァァァ』


 これが致命傷となった。

 絡新婦は断末魔を残し跡形もなく砂になり崩れていく。

 青年は片膝を付き槍を地面へと刺した。


「ちっ、時間切れか……」


 そういうと青年は人を模した紙へと姿を変えた。紙の中央には五芒星が書かれている。

 青年は人に変化した式神だった。


「力を全て使うんだから」


 二十歳を過ぎた女は大切に青年だった紙を握しめると、元来た方向に帰って行った。



 2

 二人と一枚が屋敷へと戻ってくる頃には既に陽が高く昇り、卯の刻となっていた。

 この時間になると、主は朝食を食べていることが多い。案の定、八畳程の部屋で少年が呑気に朝食を食べていた。

 女は青年だった紙を少年に手渡すと少年は面倒臭そうな面持ちを浮かべつつ紙に息を吹きかけた。

 すると、紙は青年の姿に戻り不機嫌そうに縁側の方へと向かい腰かける。

 妖怪と戦っていた時は暗くてわからなかったが瑠璃色の髪に瞳も同じ色をしていた。

 思わず見惚れてしまう瞳には殺意にも似た感情が溢れている。


「クソ……」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、青年は拳を強く握り締め床に叩きつける。


「あんな雑魚一撃で倒せたのに」

「一撃で倒したじゃないかい」


 ツツジ色の髪をした女がいった。瞳も同じくツツジ色。桜の刺繍が施された浴衣を着崩して纏い縁側から外を眺めている。


「大体、陰陽師なんだから調伏だって立派な仕事の一つだろ」


 青年は後ろで呑気に朝食を摂る少年の方を見て言った。

 年の頃なら十五、六といった所だろうか。

 褐色の髪。まだ幼さが残る顔には反省の色は全くなく、勿論青年の言葉にも気にする素振りなど微塵もない。


「ったく。だったらもっと神力注げ」

「それは無理。式神の神力と人間の霊力って元々の力の源が違うから。それは青龍達が一番わかっているだろ?」


 青龍と呼ばれた青年はこれ以上何も言わずそっぽを向いた。膨れ面となり目の前の景色を射抜くように眺めている。


「主様。なぜ調伏に向かわないのですか? 主様ほどの霊力をお持ちなら調伏なんて簡単でしょうに……」


 黄檗色の少女が口を挟んだ。


「それは怖いから無理なんだ。でも都を異形の物達から救うのが陰陽師の仕事だから」


 少女の頭に手を優しく乗せると優しく微笑んだ。少女の顔が赤くなり耳からは煙が出る。

 くるりと身を翻すと少年は出仕の支度をし始めた。いつの間にか朝食は全て平らげている。


「玉緒一緒に来てくれるかな?」


「仕方がないねぇ」


 玉緒と呼ばれた女は少年の後ろについていく。


「ガキが」


 青龍の言葉に耳を傾ける者はいなかった。



 3

 少年の名前は山城伊織と言い山城家の落ちこぼれとして陰陽師の仕事を生業としていた。これから向かうのは左大臣、志摩右京住む屋敷である。伊織は車を使わず徒歩で通っていた。

 なぜならば陰陽師には体力も必要と伊織の師である越後左門は口癖の様に言っていたからだ。

 志摩右京の屋敷に着くと長い廊下の先にある部屋にこの度の事件を伊織に依頼した志摩右京はいた。こじんまりとした部屋だが創りに拘りが滲み出ている。

 志摩右京は簀の子の内側にいるため顔はわからないものの、威圧するよな視線は外側にいるにも伝わってきた。伊織はその場に正座すると、座ったのとそう間が空かない内にが話し始めた。


「この度の仕事振り実に見事だった。といいたい所だが、部下がたまたま近くにいた様でな。伊織の姿は見えなかったと報告が来ている。これはどう言った事か詳しく説明して貰いたいのだが」


 冷たい言葉が吐かれた。冷めた視線が簀の子越しにも伝わってくる。背筋に冷たい汗が流れた。

 機嫌を損ねないように細心の注意を払って伊織は言葉を紡ぐ。


「つまり、何もしてないのでは……と?」

「そこまでいってはおらん。だが、姿が見えなかったと報告がきておるのだが」


 伊織は言葉を失った。式神に妖怪退治をさせていますなど口が裂けても言えない。


「もういい。下がれ」


 何も話さないのが全てと悟ったのか志摩右京は何も聞かずそのままを帰した。

 伊織は志摩右京に一礼し背を向けるともと来た方へと戻る。


「いいのかい?このままで」


 玉緒が始めて口を挟んだ。


「……」


「なぜ、黙るんだい?陰陽師が妖怪退治を恐れてる。あの男に気付かれたらとか考えているんじゃないだろうね」


 玉緒に図星を指されムッとなるも表情には出さない様に心掛ける。玉緒は普通の人には見えないのだから。



 4

 伊織は幼い頃から妖怪や物の怪といった異形の物達と遭遇していた。その度に命を狙われ日々怯えて生活していた少年を助けてくれたのが陰陽師にして師匠でもある出雲だが、妖怪調伏だけは式神に行わせる今のスタンスを作り始めていた。


「これから、どうするんだい?」

「そんなの自然と星が導くさ」


 伊織は陰陽師らしい事を言いトボトボと家路についていた。


 ーー


 伊織が山城邸に着いたのは酉刻をとうに過ぎ戌刻となっていた。既にあたりには人の気配はなく、蛙の鳴き声だけが辺りに響き合っている。


「主様。おかえりなさいませ」


 何も知らない式神の少女が出迎えに来てくれた。名前は音鈴。元々猫又という妖怪で青龍が退治した一匹だったが伊織と話意気投合し式神となり今に至る。最初は失敗ばかりしていたが、最近は伊織の為に夕飯を作ってくれる様になった。


「ただいま」


 不気味な程機嫌がいいように微笑むとそのまま自室の方へと進んでいった。


「主様どうかなされたのですか?」

「少し面白くなかっただけさ」

「はぁ……」


 山城邸は貴族と言うには貧しく庶民と比べたら比較的裕福。いわゆる普通の家庭の三男坊として生を受けた。剣鬼の才は一族の中で伊織にしかなく、武家としてならそこそこ名前が知られていた。兄二人も武術に明け暮れ汗を流すのだが、伊織だけは剣術に疎く体力もなかった。一族の者達は皆伊織の力を忌み嫌い蔑んで来た。

 その為か、伊織は成人してすぐに山城家を出家しこの屋敷に式神達にと一人で暮らしている。

 援助の無い生活。全ては陰陽師として働いた給金で生活を成していた。それでも人ひとり働いて食べていくには充分だった。


「お給金の方は……」

「ダメ」


 伊織は六壬式盤を出し意地けた様に調べ事をしていた。

 陰陽師の仕事。それは大きく二つに分類される。一つはそしてもう一つは妖怪や物の怪の調伏。

 妖怪調伏のお給金の方が若干高く名も広まりやすい。名が広まれば一族に認められる。そんな気さえしていた。


「何⁉︎」


 六壬式盤には新たに帝の星が陰りを見せていた。

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