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パントマイム

 駅前で、大道芸人がパントマイムをやっていた。客はそれなりに賑わっていて、大道芸人のおどけたしぐさなんかに、素直に笑ったりしている。

 僕はそれをなんとなく眺めていた。暇つぶしには持ってこいだ。それに、ああいう事をやる度胸には感心する。いくら練習を積んでいるからといって、これだけの大勢の前で磨き上げた技をそのまま見せられるというのは、並大抵の事じゃない。

 ま、本当にそのままを見せているかどうかは分からないのだけど。もしかしたら、一人の時はもっと凄いのかもしれない。

 いずれにしろ、そのパントマイムは見事だった。まるで、本当にそこに彼の触るものがあるかのようだ。軽いはずの鞄は本当に重く見え、存在しない水は本当に冷たそう。

 そのうちに、その大道芸人は、パントマイムとしてはお馴染みの、例の透明な壁があるように見せるやつをやり始めた。存在しない壁を触っているかのように見せるあれだ。今までの芸も見事だったけど、それは特に真に迫っていた。大道芸人は、見えない壁に本当に驚き、なんとか押して進もうとしているように思えた。

 大道芸人が、見えない壁に悪戦苦闘をし続けてしばらくが経った頃、ある変化が起こった。どうにも、彼の前にある見えない壁が迫って来ているようなのだ。彼はそれに慌てて、反対側に逃げようとする。しかし、そこにも壁があるようで、彼は跳ね返されてしまう。客の方にも逃れようとしたが、やはり無駄で跳ね返される。

 その内に大道芸人は「助けてくれ」と叫び始めた。ピエロっぽい姿をしているから、サイレントなのかと思ったけど、どうやら違うらしい。僕ら客は、その迫真の演技に拍手喝采を送った。客の声が驚きに変わったのは、その次の瞬間だった。

 「おー!」

 という声が響く。

 なんと、大道芸人の身体が宙に浮いたのだ。しかも、何か見えない四角い箱に閉じ込められているような格好をしている。つまりは、四方から迫って来た見えない壁に閉じ込めれたという事なのだろう。一体、どうやっているのかは分からないが、大したものだ。

 これからどうなるのだろう? 興味深く見守る客達。その中で、大道芸人を閉じ込めた箱が急速に狭くなるのが分かる。大道芸人は再び叫ぶ。

 「助けてくれ!」

 そして、

 「ギャッ!」

 というこもったような悲鳴の後で、空中に赤く四角い箱ができ、更に、その箱も一瞬で何かに吸い込まれるようにして、消えてなくなってしまったのだった。跡は何も残らなかった。

 拍手をしていた客の声はすっかり消え、静寂の中で客達は何もなくなったその空間をただ黙って見つめていた。

 そして。

 何もない空間を見つめるその瞳は、恐怖に凍っていた。


                   挿絵(By みてみん)

朗読も作りました。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm28649145

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