Ep.7 断火の顎(アギト)
十勇士の集結という奇跡的な光景を切り裂く、たった一つの怒号。
「ええぃ、しゃらくせぇッ!! 十勇士だか何だか知らねえが、てめえら全殺しだぁ、コノヤローーーーッ!!」
吠え猛る五家領「闘神」ランドー。 アイルへ向かってイノシシのように突進するが、その暴威が届くことはない。
影のように割り込んだ「無頼」アグロヴァルによる、挨拶代わりの掌底。
大気が破裂したかのような乾いた衝撃音。 巨漢のランドーがボールのように吹き飛んでいく。
「無粋であろう、小僧。場を弁えよ」
ランドーが血走った目で起き上がる隙を突き、今度は死角から襲いかかる「戦神」スコールズ。 愛用の大戦斧『天蓋崩し』が、アグロヴァルの後頭部へ向けて、渾身の力で振り下ろされる。
「はっ、馬鹿め! 貰ったぜッ!! 戦技、『天落轟籟』ーーーッ!!」
戦場を劈く、硬質な金属同士の甲高い残響。
だが、砕けてなどいない頭蓋。 それどころか、直撃を受けたはずの彼は、首をコキリと鳴らして振り返る。
「なにぃ~~ッ!?」 「いや、確かに技は喰らった。……だが、俺の魔円盾(イヴァリスの加護)が衝撃を十分の一まで減衰させただけだ」
呆然とするスコールズを尻目に、背後の竜王へ視線を向けるアグロヴァル。
「おい、トカゲ殿。図体が邪魔だ。人化してくれんか」 「あぁん? 誰に口聞いてやがる」
こめかみに青筋を立てるヴェロンだったが、「賢者」ガレスベルクに「味方を踏み潰しますよ」と冷静に諭され、渋々その巨体を収縮させる。 光の中から現れたのは、歴戦の傷跡が刻まれた強面の男。 彼は不機嫌そうに獲物を探して視線を彷徨わせ――スコールズで止める。
「おい、クソガキ。さっき付けたこの傷の礼、キッチリ返させてもらうぜッ!」
ヴェロンが右手をかざす。 詠唱など不要。彼の言葉そのものが、世界を書き換える「竜語魔法」。
「『竜呪』――断火の顎ッ!!」
裂ける空間。スコールズを飲み込む漆黒の炎。 それは炎の形をした竜の顎。回避も防御も許さぬ、絶対的な捕食行動だ。
「うぎゃぁーーーッ!!」
黒煙と共に空へ消える、断末魔の悲鳴。
十勇士の圧倒的な武力。 誰もが勝利を確信した。 そう、この瞬間までは。
東の空から舞い降りる、四つの影。 クロスロード最強の「四聖帝」。 その一人、「断罪のクシャルカン」が、ゴミ屑のように無造作に放り投げた「何か」。
「こ奴は、貴様らのお仲間であろう?」
ドサリ。 重苦しい音を立てて転がる骸。 見た瞬間、凍りつくアイルの思考。
「……嘘、だろ?」
そこに転がっていたのは、十勇士最強の一角にして、不死鳥の力を宿す「炎帝」エリオン。 だが、氷塊のように冷たいその体。完全に消え失せた命の灯火。
「何だとッ!!」 「ありえない……っ!」
震えるガレスベルクの声。 不死身とさえ謳われた男の、あまりにもあっけない死。 ノートレッド軍の心臓を鷲掴みにする、絶望という冷たい手。




