Ep.3 崩れ去る日常、迫りくる絶望
嵐の前の静けさは、あまりにも穏やか。
ライナのお腹は日増しに大きくなり、アイルは警備隊長として街を守りながら、父となる日を指折り数えている。 この幸せが、永遠に続くと信じていたのだが。
だが、運命の日は唐突に訪れる。
「急報! 東方の村が賊に焼き討ちにあいました!」 「西方からも同様の報告!」
首都ノルトダンに飛び交う凶報。 緊急招集されたアーセンベルク城で、ライゼンは地図を睨みつけながら進言する。
「殿下。この城は大陸随一の堅城です。本国グリオンダイルに援軍を要請し、到着までの三ヶ月、籠城で耐え凌ぎましょう」 「うむ……頼んだぞ、ライゼン」
だが、さらに届いた報告が、その希望的観測を無情にも打ち砕く。
東方から襲来した敵軍の旗印。 そこに描かれていたのは、聖女が剣をかざす紋様。 さらに西方からは、光に十字星を描いた御旗。
「……ゼラフィム軍だと?」
アイルからの報告を聞き、ライゼンは絶句する。 世界最大の宗教国家が、この小国に向けて牙を剥いたのだ。
しかも、ただの軍ではない。 ゼラフィム最強と謳われる狂信者集団「クロスロード」。
ノルトダンの南方に位置するアダンの丘。 自ら密偵に向かったアイルは、砂塵を上げて集結する敵の大軍を見て、震える声で呟く。
「……少なくとも、十万は超えるぞ」
対するノートレッド公国の兵力は、わずか二千。 五〇倍の兵力差。
それは「戦争」と呼ぶにはあまりにも一方的な、「蹂躙」の始まり。




