Ep.12 獅子王の咆哮
地上の蹂躙劇に続き、迫る空での決着。 天翼鷲騎と化したセレン。上空から獲物を捉える猛禽の眼光。
「卑怯だぞぉーーーッ! 降りて戦えぇーーーッ!」
地上で喚き散らす「断罪のクシャルカン」。 対して、無言のまま畳まれる翼。 重力に身を任せた、流星のごとき急降下。
――大地を揺るがす轟音。 骨が砕ける不吉な響き。
防御態勢より速く、顔面を襲う鋭利な鉤爪。 砕ける鉄仮面。潰された左目。 悲鳴を上げて転げ回るクシャルカン。
敵陣営に広がる混乱と絶望。 その隙を突き、起死回生の巨大雷鳥を召喚しようとするホールキンス司教。
その時。 轟く、天地を振るわせるほどの王者の咆哮。
金色の獅子王アイルによる、<神業>『獅子王の咆哮』。
単なる威嚇ではない。 物理的な破壊に加え、対象の「魔力回路」そのものを強制的に閉ざす封殺の一撃。 戦場を薙ぎ払うように駆け抜ける金色の波動。
音もなく――。
ホールキンスの手元でスパークしていた雷鳥の幻影は、まるで煙のように霧散する。
「な、何が……? 魔力が、練れない……!?」
呆然と自分の手を見つめる司教。 魔法使いにとって命とも言える魔力の沈黙。 体内の回路が焼き切られたかのような虚無感。 奪い去られた誇りと戦力。
「全軍、突撃ぃーーーッ! ノートレッドの地から、侵略者どもを叩き出せぇッ!」
上がるアイルの勝鬨。 十勇士とノートレッド軍の猛攻により、総崩れとなる無敵のゼラフィム軍。
響き渡る歓声。 誰もが確信した勝利。 戻ってくると信じて疑わない、平和な日常。
だが。
遥か彼方、ゼラフィム本陣の奥深く。 敗走の報を聞いてもなお、眉一つ動かさない男。 タナトス枢機卿。
「……計算通りですな」
手に握られた、禍々しい光を放つ黒い水晶。 その瞳が向く先は、勝利に沸くアイルたちではない。 魔力を使い果たし、崩れ落ちそうになるライナの腹部――「次代の器」。
本当の地獄の始まりを知る者は、まだ誰もいない。
(一部抜粋。『愛の章』 完)




