4.1 佐倉優斗:ねじれた日常コメディの始まり
秘密の契約を交わして以降、俺の日常は完全にねじれた。
バイトでは、高見沢は約束通り俺を「佐倉さん」と呼ぶようになり、罵倒も減った。しかし、指導の厳しさは変わらない。彼女がメガネの奥で無言の圧力をかけてくるたび、俺は背筋を伸ばし、「使えない後輩」になるまいと必死に動いた。
そして、その反動は学校に現れた。
俺は年上の「先輩」としての威厳を保ちたい。しかし、高見沢はそれを許さない。
ある日の昼休み。俺が廊下で友人と話していると、高見沢は静かに俺の横を通り過ぎた。その瞬間、彼女は囁いた。
「佐倉、先輩。今日の三時間目の授業中、あなたはオーダー漏れをしましたよ」
「は?何言ってんだ、高見沢」
「うるさい!静かにしてください!昼食のパンを落とす前に思い出してください。**『本日の日替わり』のポイントを把握していなかった。明日までにメニューの知識を完璧にしてください。さもないと、バイトで『二度拭き指導』**ですよ」
俺は「二度拭き指導」という鬼教官の言葉に怯えながら、誰もいない放課後の図書室に高見沢を呼び出した。
「高見沢!ここは学校だぞ。なんでお前、俺が友達と話してる時に、バイトの指導してんだよ!」
高見沢は、借りてきた参考書で顔の半分を隠し、内気な後輩の顔のまま、俺に厳しい視線を送った。
「佐倉先輩、あなたは時間がもったいないと思いませんか?私の目標達成のためにも、あなたの成長は必須です。この図書室なら、誰も私たちがバイトの話をしているなんて思いません。この物理学の問題、オーダーの捌き方と似ています。早く解きなさい」
年下の後輩に、学校の課題を「バイトの指導」として押し付けられる。俺は屈辱に顔を歪ませながら、そのギャップの激しさに、抗いがたい魅力を感じていた。