9.1 高見沢の体調不良と公衆の面前での危機
受験勉強とバイト、そして佐倉の指導で、高見沢は極限まで追い込まれていた。
ある日の午後。学校の廊下で、佐倉は、高見沢が壁にもたれかかり、メガネを外してうずくまっているのを発見する。
「高見沢!どうした、大丈夫か?」
「さ、佐倉、先輩……大丈、夫です。貧血……すぐに、元に……」
高見沢は、人見知りであるにも関わらず、公の場で**「弱み」を見せてしまったことにパニックになっていた。周囲の生徒たちが、何事かと集まってくる。佐倉の年上の「先輩」**としての立場が、今、試されようとしていた。
佐倉は、年上の「先輩」としての威厳も、秘密の関係も、全てをかなぐり捨てた。
「高見沢、いいから俺に掴まれ!」
佐倉は、周囲の生徒たちに目もくれず、高見沢を背負い上げた。
「おい、佐倉!どうしたんだ?」古川が駆け寄ってくる。
「いいから、先生を呼んでくれ!こいつ、貧血だ!」
佐倉の背中で、高見沢は小さな声で泣いていた。
「佐倉、さん……私の、秘密が……私の、プロ意識が……」
「うるさい!今は、年上の先輩の言うことを聞け。お前のプロ意識も、目標も、俺が全部守ってやる!だから、今は俺に甘えろ!」
佐倉は、高見沢を保健室まで運びきった。この一件は、学校内で「佐倉先輩が年下の後輩を助けた」という美談として広まったが、高見沢にとって、佐倉は**「自分の鎧を破る勇気を与えてくれる唯一の存在」**となった。
高見沢の**「鎧」には、小さなヒビが入った。そして佐倉の「守りたい」**という感情は、単なる共犯関係を超え、独占的な愛情へと深まっていくのだった。