5.2 佐倉優斗:夏のイベントと関係性の加速
夏休み。バイトメンバーでの木更津潮干狩りのイベント。潮見も、佐倉を誘う形で参加していた。
潮見は、優斗への優しさと、高見沢へのライバル心を同時に表現した。
「優斗、ここだよ!アサリはね、こういうところを狙うの。地元で育った私の知識には負けるでしょ?」
美月は、慣れた手つきでテキパキとアサリを掘り出し、**「地元の温かさ」**で優斗を引き戻そうとする。
一方、高見沢は泥を極度に嫌がり、人見知りのせいで他のバイトメンバーに頼れず、孤立していた。
「佐倉、さん……あ、アンタ。そこ、人がいない。泥を避けて、あっちの浅瀬を探しなさい」
高見沢は、なんとか鬼教官のトーンを保とうとするが、声は裏返り、靴が泥に埋まると、まるで泣きそうな顔になる。
佐倉は、その**「年下の後輩らしい弱点」**を見た。
(佐倉の内心:この人、バイト以外じゃ、ただの年下の後輩だ。泥が嫌で、人見知りで、俺に頼るしかない。……クソッ、なんでこんなにも、この弱い高見沢を守ってやりたいんだ)
佐倉は、高見沢を泥の少ない場所に誘導し、周囲から見えないようにサポートした。バイトでの厳しい指導とは違う、年上の「先輩」としての優越感と、守ってやりたいという愛情が、佐倉の中で芽生えた。高見沢も、佐倉の自然な優しさに、感謝の視線を送った。
イベント後、佐倉は、潮見の安らぎと、高見沢の緊張感のどちらも手放したくないと感じていた。しかし、高見沢の真剣さに触れて以降、彼の胸には、ぼんやりとだが**「自分の目標」**を持ちたいという衝動が生まれていた。
佐倉の視点は、**「自分を変える」から「高見沢の隣に立てる人間になる」**へと、明確にシフトし始めていた。