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怠け者聖女、更生する

作者: 咲良るい

「エル様いい加減起きてください!」

「あと5分…」


そんな言葉を無視して布団を引き剥がすと、プラチナブロンドの女の子が猫のように丸まっている、彼女は私がお使いするエル様だ

私が12歳の頃魔物に襲われていたところをエル様のご家族に助けていただいた。その時エル様が怪我をした私に手をかざすと、あたりが光り輝いて怪我が治った。その時にエル様の治癒力が発覚した。エル様が私を気に入ったこともあり、エル様のご両親が住み込みの世話係として雇ってくれた。私のことを姉のように慕ってくれる彼女に精一杯尽くそうとその時に誓った。それから5年、大聖女候補として神殿に行くことになった。

裕福な商家の一人娘として、両親に可愛がられて育ってきたため、生活力がゼロである。侍女1人はつけて良いというお達しにエル様のご両親は安堵し、私を任命した。

出発の日、領主からは大聖書に選ばれるようしっかりとサポートするようにと力強く言われた。私ではなく、本人に言ってくれ、と思ったが、期待されすぎも本来の力を発揮できないとご両親から言われたらしく私に言ったらしい。

領主と両親の期待を知らず、神殿に着いてものんびりと過ごす彼女に大丈夫なのかと心配になった。


大聖女候補が集合した翌日、治癒力の高さを調べられた。調べ方は簡単で水晶に手をかざすと光が発する。その色で治癒力の高さを測るそうだ。

その日のことはよく覚えている。ここ数十年見ることがなかった白色の光を出した候補生がいると、洗濯場まで話が入ったのだ。どの候補生かと侍女仲間と話ながら仕事を終え、エル様の部屋に戻ると大神官がいた。そこで気がついた、噂の人はエル様だったのだ。

大神官から色々言われているが、彼女は「難しい話をするな」と言わんばかりの表情だ。次第に大神官が私の方を向いて話し始める。要約すると「エル様が大聖女になれるよう徹底的にサポートせよ」だ。


な ぜ 私 に 話 を 振 る


と、憤ったが反抗できる余地もなく、侍女として頷くしかなかった。

この生活力皆無なお嬢様は、朝のお祈り直前まで寝る、祈りが終われば神殿の掃除や刺繍、治癒力の扱いについての講義があるが、講義で寝ないようにするのが精一杯な方だ。掃除に至ってはやった後の方が汚くなると言われ、私が代わりに担っている。


「みて、サラ!子猫がいたの。怪我をしていたみたいだから、治療したんだけどしばらく部屋に置いていいかな?」

「元気になったら、ちゃんと返すのが条件ですよ」


生活力は0だが、優しさだけは人一倍ある。生家もエル様が助けた動物たちでいっぱいだった。世話係は私だったが…

それでもどこか憎めないのは、妹のように感じているからだろうか。猫を飼育する許可をもらいに行きながら、ふと思った。

無事に許可をもらえ、部屋に戻る途中、バタバタと神官が行き来していた。


「君は、候補生の侍女か?」

「はい、エル様にお仕えしています」

「それは!急いできてくれ!大規模討伐があったんだが、怪我人が多く人手が足りない!裏門だ!」

「!急ぎ、お伝えします」


「エル様!至急…なにやってるんですか!?」

「あ、サラ!ちょっと、ってそんな慌ててどうしたの?」

「それが…!って、なんでこんなに散らかってるの!?」


部屋を出る前は綺麗だったのに…

猫のせいだ、と言ってるが今は聞いてる暇がない


「急いで準備を!討伐で怪我人が多く、裏門に集合がかかっています」

「手伝って!着替えるわ!」


ピシッとした見習い服が嫌とすぐに脱いでしまうので、急いでエル様の着替えを手伝う。私も何か手伝えることがあるかもしれないと思い、エル様の後に続いて走り出した。


――――――――――――――

何人治療したか、どのくらい時間が経ったのかわからないが、今回は大規模討伐とあって怪我人が多い。治癒力が足りず、早々に離脱した聖女見習いがいる中、エル様は治療にあたっている。


「お願い…あと、少しなの…」


限界が近いのだろう、額に汗を滲ませながら治療を続けているエル様。


「エリアヒール!」


入り口のざわつきとともに、眩い光があたり一面に降り注いだ。

現、大聖女のイングリッド様だ。今日は少し離れた村へ訪問していると聞いていたが、急いで駆けつけてくれたのだろう。


「すごいわ、サラ…限界だったのに、治癒力が戻ってるわ」


先ほどと打って変わって、その表情は朗らかで、驚きに満ちている。

周りにいた多くの負傷者も、先ほどの一瞬で治ったようだ。大聖女とは、これほどの力を持っているのか…

ふと視線を上げると、神官と話していたイングリッド様がこちらに歩いてきていた。私たちは姿勢を正し、イングリッド様が通り過ぎるのを待ったが、エル様の前に立ち止まり声をかけた


「あなたが、エル?神官から話は聞いたわ。今回の一番の功労者だって」

「そ、そんな…恐れ多いです。出来ることを必死にやっただけなので……」

「その心意気とても素敵よ」

「あの、私までありがとうございました!どうやったらイングリッド様のようになれるのでしょうか?今日は治癒力の限界を感じました。もっと力が必要な時に備えたいのです」


今まで治癒力があるからと流されるままに聖女見習いとしてやってきたエル様が、初めてやる気を出した瞬間だった。


「まずは、聖女見習いとしての生活をしっかりと行うことね。誰かの手を借りてるようじゃダメよ」

イングリッド様のは全てお見通しなのか、私を見ながらイタズラっぽく笑った。


「ここでの生活は全て治癒力を高めることに繋がるわ。それじゃ、また今度ね」

「はい…!」


「サラ…」

「なんでしょう」

「私、イングリッド様を目指すわ。今までサラに頼りっきりだったけど、頑張るわ!」


後ろに炎が見えるくらいやる気に満ち溢れてる姿を見るのは、初めてで私は精一杯お供しようとこの時思った。

翌朝、昨日の決意はどこへやらと寝坊するのは、まだ先の話……


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