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水族館と冬休み

 遠足がある。

 私たちのクラスは、新江ノ島水族館だ。


「すっごいイワシの群れ!」


 マイワシの群れ。

 その数、約8000匹。

 銀色が星空のようだった。


「深海200m? 200mってそんなに深いのかな? 別に大したことなさそうじゃない?」


「はぁ。アンタ、プールに潜るのだって大変なのに、その100倍深いのよ? たとえ息ができても、そこで暮らせるわけ?」


 そう伊織さんに指摘されているのは上田さん。


「たしかに。そんで、どうしてこの子たちは浮いてこないの?」


「ここに書いてあるでしょ・・・・・・」


 ほどほどに賑やかな3人。

 伊織さんと上田さんのやり取りを見ながら、楽しそうに水槽を見ている鮎原さん。

 私はというと、


「クラゲかぁ」


 ふよふよと水槽中を漂っている。

 色も白色や黄など色とりどりだ。


「水族館、カワスイは行ったことあるけど、普通のは初めてかも」


「カワスイって川崎のビルに入ってるやつだっけ?」


「そうそう。あっちはいろんな生き物いるけど、こんな大きい水槽ドーンって感じじゃないから」


 後ろの席の鈴木さんと一緒に周っている。

 ちなみに、一番大きいグループは山田先生のグループ。

 先生を橋本さんら運動部の人たちがいじり倒しているため、そこだけ騒がしい。


「ネットでなんでも見られるけど、やっぱり実際に見て思うこととは違うねぇ」


「そうだよね、イルカショーとかもあるけど、その場で見るのとは全然違いそう」


 あとでクラス全員集合し、メインプールのイルカショーを見る予定になっている。


「ペンギンだ、ペンギン」


「よちよちだねぇ」


 ガラス越しに眺める。

 普段の日常を忘れてぼーっと眺めていた。



「俺から、うちのクラスへはクリスマスプレゼントと共に宿題を出します」


 明日から冬休み。

 担任の山田先生は帰りのホームルームでそういった。

 教卓の横には大きな段ボールが2箱置いてあった。


「俺が君たち1人ずつに選定した"本"。これの感想文を1800文字から2000文字で提出してもらう」


「はぁ?」


 クラス中がざわざわし始める。


「活字離れが激しい君たちのことを思ってだな・・・・・・。中指をたてるな中指を!」


 鮎原さんから2学期の通知表が順に配られ、さらに段ボールから表紙カバーのついた本も1冊ずつ渡されている。


「そんなに本が嫌いな君にはこれだ、伊織いおり


 不機嫌そうな態度で受け取ったのは出席番号2番の伊織さん。

 きっと中指をたてたのも彼女だったのだろう。


「・・・・・・これなら読んでやってもいいわ」


 その場で中身を見て、態度が軟化していた。

 なんの本が渡されたのだろう?


「・・・・・・あの、私はこれでいいんでしょうか?」


 受け取って、先生に疑問をぶつけたのは鷺川さぎかわさんだった。

 これまでの人は、文庫本か新書のサイズだったのだが、彼女に渡されていたのは非常に薄く、しかし、幅の大きい本だった。


「君にはそれがいい。難しすぎるか?」


「いえ。これで構いません。小さい頃以来で楽しみです」


 そんなやりとりがあったあと、嬉しそうに席へと戻る鷺川さん。

 文庫サイズの本を受け取った佐藤さんを挟んで、私の番が来た。


「柴咲、柴咲・・・・・・。これだ」


 2箱目の段ボール箱から取り出されたのは新書だった。


「無理そうだったら返しても?」


「いや、君には最適だろう」


 そう返されたら読まざるを得ない。

 表紙を開いた中身は、


『嘘と真実 ~インチキ超常現象~』


 と書かれていた。


「面白そうだろ?」


「まあ確かに・・・・・・」


 通知表と本を手に席に着く。


「わかってるとは思うけどな、全員に違う本を渡してある。他人に聞いても無駄だぞ」


 とんでもないクリスマスプレゼントがあったものだ。


「お嬢は2000文字も絵本の感想書くんだってよ」


 吉元さんがいう"お嬢"というのは鷺川さんのことだ。

 鷺川さんは落ち着いた立ち振る舞いで、部活も弓道部。

 なぜ工業高校? なぜ機械科? そういう疑問をぶつけられても笑顔でそれとなく話を変える。ミステリアスな人だった。

 

「え? あれ絵本だったの?」


「そうだったよ。フランス語? かなんかのやつ」


 どうりでペラペラだったわけだ。

 先生は読書家の鷺川さんには、ありきたりな本では満足できないだろう、と考えたよう。

 その結果、外国語の絵本について2000文字も感想を書かせるつもりらしい。


「・・・・・・なんかすごいね」


 先生が、私たち全員のことをよく見てくれている証拠のような気がした。


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