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Prologue

エリカ・ラウベンブラウムは目を覚ましたが、混乱の渦中にいた。


自分がどこにいるのか、何が起きているのか、まったく理解できなかった。


頭上には豪華なシャンデリアが輝き、身を横たえているのは大きくて柔らかいベッド。シルクのようなナイトガウンを着た彼女は、マットレスに半分沈み込むほどの寝心地に包まれていた。刺繍が施された高級な布団も完璧だった。しかし、どこか違和感を覚える。全てが非現実的に感じられた。


頭が痛み、手で額を押さえた。

「……待って、この手は小さい。誰の手? 私の? どうして……」


突如、記憶が洪水のように押し寄せた。彼女はウォルター・ラウベンブラウム公爵の娘、10歳のエリカ・ラウベンブラウムだという。美しく、高貴な血筋の令嬢として育ったはずだった。


「……違う」

もう一つの記憶が頭をよぎる。

「私は女子高生だった。コスプレイベントから帰る途中で……トラックに轢かれた? それで死んだのか? なら、なぜここに? 転生したのか? それとも、この大貴族の娘に?」


混乱する彼女に、メイドの一人が声をかけた。

「エリカ様、お具合が悪いのですか?」

「……ええ、大丈夫よ、バウアー」

反射的に返事をしてから、自分がメイドの名前を覚えていたことに驚く。


「ただ少し頭が痛いだけ」

「いえ、お顔が赤い。熱がありますわ。すぐにご両親をお呼びします」

バウアーは慌てて部屋を出ていった。


別のメイドが水とタオルを持って現れ、彼女の顔を拭き、着替えを手伝う。エリカはこのメイドの名前を思い出せなかったが、とりあえず礼を言った。

「ありがとう」

「とんでもありません、お嬢様」


メイドが鏡を持ってきて髪を整え始めたとき、エリカは鏡に映った自分の姿に凍りついた。

「この顔……前世で見たことがある。そう、あのゲームの……!」


閃光のように、全てがつながった。彼女は**『あなたの心にいるべき私』**という乙女ゲームの悪役令嬢、エリカ・ラウベンブラウムだった。希少な錬成魔法の使い手として王太子の婚約者に選ばれるが、平民出身のヒロインをいじめ、最終的には破滅するキャラクターだ。


「……最悪の役を引き当てたな」


再び気を失い、夢を見る。いや、記憶だ。

目覚めると、30代前半と思われる優雅な女性——公爵夫人であり、この世界の母親——が髪を撫でていた。


「目を覚まして……良かった。バウアーから知らせを受けて、すぐに駆けつけたのに、また気を失ってしまって……」

震える声でそう言うと、母親は彼女の手を握った。

「もうどこにも行きません。あなたが元気になるまで、私がついています」


「ありがとう、お母様」


ベッドに横たわりながら、エリカは思考を整理した。

前世の彼女——田間田 冬樹フブキ・タマダ——は矛盾した趣味を持つ女子高生だった。ドイツ軍マニアとして戦車や小銃に詳しい一方、乙女ゲームも愛好していた。特に『あなたの心にいるべき私』はお気に入りだったが、まさか自分が悪役令嬢として転生するとは……。


「でも、このゲーム、エリカはどのルートでも死ぬんだった。作者の恨みか? とにかく、生き延びるためには……」


母親が添い寝で眠り込んだのを確認し、エリカは布団をかけ直す。10歳の体では力が足りない。


(父は権力者で、領地も豊か。私の錬成魔法と前世の知識があれば……)

(武器を製造し、私だけの「軍」を作る。運命を変えてみせる!)


決意を固め、彼女は静かに拳を握った。

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